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「日本音楽」のさらなる飛躍のために 『J-MELO』が教えてくれたヒント

音楽・アニメ・漫画……日本コンテンツを「いかにして世界に売り出すか?」

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(C) ANIME FESTIVAL ASIA THAILAND 2015

 アニメを入り口にすることによる限界に加え、出口=利益(マージン)を生むライブやグッズにも課題がある。アーティストが稼働し、かつ会場の確保をはじめ多大な労力とリスクを伴うライブや、物流を伴うグッズ販売といった、物理的にどうしても制約が出てしまう手法では、なかなか拡大の余地が見出しにくいのだ。

 世界中で「日本音楽」が認知され、需要は生まれてきている。世界的に見ても、デジタルによるコピーができないライブという体験価値に対する価格はリーマンショックなどの景気後退があったなかでも高止まりしている。海外でのライブの実績を重ねるにつれ、ノウハウはたまり、大石代表が話してくれたようにコストを下げる工夫も明らかになっていくが、ハリウッド映画のように、コンテンツが世界中に配給され、各地で並行して劇場チケットが売れる、といったようなモデルは、「日本音楽」においてはまだ確立されていない。

 アニメのキャラクターと違ってアーティストは“そこ”にしかいられない唯一無二の存在だ。初音ミクに象徴されるように、VR(バーチャル・リアリティ)やライブ配信の技術開発も進んでいるが、同時に2ヵ所にはいられないという制約を、いかに高い価値として維持しながら拡大を図っていくか、という点が、日本音楽が超えなければならない壁だと言えるだろう。

定額音楽配信という可能性と鍵を握る現地化

 消費者に製品を届ける最終段階=サービス。今、とりわけ若年層における“音楽は無料で聴けるもの”という状況に風穴を開けるサービスが国内でも普及の兆しを見せている。それが定額料金で音楽が聴き放題となるサブスクリプション型のサービスだ。

 日本では、今年、AWA、LINEミュージック、Appleミュージック、Google Play Musicがスタートし、海外では7500万人以上(うち有料会員は2000万人以上)のユーザーを擁するSpotifyが圧倒的な存在となっている。日本円で約1000円前後が標準的な価格設定で、YouTubeよりも音質が安定し、テーマやジャンル別にまとめられたプレイリストが提供されるなど、音楽を楽しみたい層に支持を拡げている。

 楽曲提供者には、再生回数に応じた利益還元が行われており、海外の著名アーティストのなかには期間限定といった形でサブスクリプション型のサービスを通じて新曲を発表することによって、話題と収益の両方を狙う動きも始まっている。

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(C) ANIME FESTIVAL ASIA THAILAND 2015

 コアなファンに対するライブやグッズ販売で世界展開を図っている「日本音楽」としても、この定額制音楽配信サービスの活用を図りたいところだ。しかし現状のままではエスニックなジャンルの1つとして世界的なヒットタイトルの陰に埋没してしまう恐れが大きい。実際、サブスクリプション型のサービスでは、十分な収益が得られない、として離脱をするインディーズレーベルも相次いだ。

 インターネットの世界では、ロングテールと呼ばれる“ごく少量しか売れないが、それらを合算すると一定の売上が期待できる”マーケットが存在することは知られている。音楽や電子書籍のように在庫コストが小さいデジタル商材とは本来相性がよいはずだが、ライブや、その現場でのCD、グッズの販売といったプレミアム消費に比較して、あまりにも実入りが小さく、契約やデータの受け渡しなどの管理コストが上回ってしまう、という課題がそこにはある。であれば、聴き放題ではなく、特別な場・機会にある程度の対価を払ってもらったほうがまだよい――。

 しかし、「日本音楽」がもう一段の成長、つまり大石代表が述べるような「メインカルチャーとしての2回目の成功」を遂げるためには、世界標準のサブスクリプション型サービスでも「日本音楽」が検索され、プレイリストに名を連ね、繰り返し視聴されるようになる必要がある。いわば、サブスクリプション型のサービスでヘビーローテーションになるかどうか、は「日本音楽」がメインカルチャーとして受け入れられたかどうかの1つの試金石となるのではないだろうか。

 現状の「日本音楽」はピラミッドの頂点にライブやCD、グッズ販売というプレミアム商品、そしてその裾野にYouTubeによる無料視聴=フリーミアムという底辺が異様に広い、いびつな形をしている。いま“カジュアルな音楽聴取”という形でその間を埋める可能性を持ったサブスクリプション型のサービスが登場したが、その部分を成立させるためには「日本音楽」がさらにメインカルチャーとして浸透し、拡がりを遂げなければならない、というわけだ。

 サブスクリプション型のサービスが人気を集める要因には、ネット上で公開されるプレイリストの存在がある。音楽のジャンルだけでなく、気分やシーンに応じたプレイリストは、検索キーワードを起点とした“カスタマージャーニー”のここかしこに現れ、新たな音楽との出会いの場ともなっている。日本音楽が洋楽のヒットチューンと肩を並べてそこに存在すれば、「J-MELOリサーチ」に日本音楽との“新たなファーストコンタクト”が刻まれたことの証左になるのではないだろうか。

 YouTubeのMVの視聴数は海外の有名アーティストに遜色ない規模まで達している「日本音楽」もある。しかし、この音楽ファンからすれば安価で気軽に視聴できる場に、ほとんどの「日本音楽」は存在していない。契約などの問題に加えて、音楽レーベル間やプラットフォーム間の綱引きといった業界ならではの事情もあるとされる。「日本音楽」のライトユーザー獲得の機会を逃さないためにも、着地点を見出してほしいと願うのは筆者だけではないはずだ。

 いわゆる洋楽が軒を連ねるプレイリストの中に、「日本音楽」が並ぶ。そのためにも、大石代表やショーン・チン AFA主催が指摘し、HYDEがVAMPSで挑戦しているような“はじめから世界を意識した”音楽作りが重要になってくる。主に日本語で歌われるアニソンは確かに現状最大の訴求力を持っているが、そこには限界もあることはリサーチにも現われはじめている。

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