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インターネットが生んだ機会と限界
『J-MELO』の10年と、本格的な「日本音楽」の世界展開の歴史はほぼ重なっている。第2章の「J-MELOリサーチ」の項で触れたように、その起点はインターネットの普及に伴う情報流通の革新だった。そのなかでも一番の立役者は、動画共有サイトYouTubeとそこに投稿されたアニメであることは間違いない。
インターネットはCDパッケージによる音楽販売の低減を招いた一方で、極東の地の音楽をアニメという物語に乗せて、無料で、しかもCD物流ではまず叶うことのなかった、世界の隅々まで届けることになった。この物流は音楽関係者が企図したものではなく、むしろ無料で音楽が聴けてしまうという状況は決して望まれるものではなかったはずだが、同時にこれまでなかった「日本音楽」に触れる機会を生みだし、拡大するものだったのだ。
音楽はYouTube上で、無料で繰り返し聴くことができる。そこでその曲が気に入った人たちとコメントをやりとりし、言葉の壁もある程度、ユーザー同士の相互協力で克服し、共有していくことができる。そうやって楽曲やアーティストに対するブランドが確立していき、ロイヤリティが高まったユーザーはライブのチケットやグッズに対して購買行動を起こしていく。
一方で、インターネットでの音楽配信は海外における「日本音楽」の大きな収益源とはなっていない。マーケティング・ミックスの“4P”という整理に沿って言い換えれば、音楽そのものは価格(Price)を設定できる製品(Product)から、YouTubeという場(Place)でアーティストの存在を知ってもらい、ライブなどへの需要を喚起するための販促機能(Promotion)に軸足を移しつつあるというのが現実になってきている。
YouTubeが登場した翌年、2006年には“フリーミアム”という言葉が生まれている。無料(フリー)で一定の範囲までサービスを利用してもらい、気に入ってもらえば有償でより高度(プレミアム)な機能も提供するというモデルは、フリーでのMV視聴からライブやグッズというプレミアム消費へとつながっている現状とも重なる。
ところが、このモデルももはや実は盤石なものとは言えない。「J-MELOリサーチ」からも気になる動向が見てとれるのだ。『J-MELO』では5年にわたり視聴者へのアンケートを続けているが、回答者の年齢分布が、年が経つにつれ少しずつ上がり、10代の割合が減少している。
つまり、2008年にピークを迎えた「日本音楽」との“ファーストコンタクト”以降、新たな出会いがもたらされていない=新しいファン層が目に見える形では増えていないことを示している。YouTubeという場で、アニメというメディアパッケージに乗って、ユーザーの手元に音楽が届く、という現状のモデルには2つの面で限界があると言えそうだ。
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1つにはアニメのタイトル数にはどうしても天井がある、という点。日本動画協会の調査(動画協会「アニメ産業レポート2014」(株式会社SPI Information))によると、2006年の年間195本をピークに、そこから約10年間は150本前後で推移している(「J-MELOリサーチ」における日本音楽との「出会い」のピークである2008年と接近している点には注意しておきたい)。音楽同様、アニメの世界でもパッケージ販売が振るわず、タイトル数を絞り込む傾向にここ10年ほどはあったのだ。タイトル数に限りがあれば当然そこに乗せられる楽曲の数にも限界が生じてしまう。
もう1つにはアニメファンを起点とした市場開拓にもやはり限界があるという点。通勤電車内で堂々とマンガが読まれる日本と異なり、海外ではそのような風景はあまり見かけない。マンガより先にアニメで日本コンテンツに触れ、その層はファミリー向けと、いわゆるオタク向けに二極分化されている。誰もがマンガ・アニメを楽しむようになるには、それなりの年月が必要となるはずだ。
入り口はアニメだが、そこから楽曲、そしてアーティストへと関心が拡がっていくプロセスが現状での主たるモデルであることが、本書では明らかになった。「日本音楽」がもう一段の世界展開を見せるには、アニメに依存するだけでなく、楽曲やアーティストそのものの関心喚起やブランディングを図っていく必要がある。
「J-MELOリサーチ」で示されたように、音・メロディ・声・歌詞・ライブパフォーマンスといった音楽そのものがより広い層に認知されなければならないのだ。『J-MELO』でモーニング娘。が示してくれているように、多様な形でアーティストの訴求が拡がっていくことに期待したい。
原田CPは、「音楽の命は口に宿る」、つまり音楽が流行するカギは「口ずさまれる」ことだと話す。「J-MELOリサーチ」では、“日本語の響き”を「日本音楽」の魅力として挙げる視聴者が多かったが、より多くの音楽ファンに親しまれるには、大石征裕・マーヴェリック・ディー・シー代表/一般法人音楽制作者連盟特別顧問がインタビュー(P53)で述べたように“英語・現地語でのパフォーマンス、コミュニケーション”が必須となってくるはずだ。改めて彼のコメントをここで引用しておきたい。
「アニソンを起点に、“日本のロックバンド”のL'Arc~en~Cielは、1回は通用し、エンタテインメントとしては成功しました。でも、2回目は、メインカルチャーで正面からいかない限り、成功はないと思ってます」
大石代表のこの「メインカルチャーで」という指摘は重い。
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