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「日本音楽」のバンドワゴン=アニソン
まず、音楽というプロダクトそのものについて、改めて振り返っておこう。本書を読み進めた読者であれば、アニソンが「日本音楽」の世界展開草創期にいかに重要であったかは理解できたはずだ。海外での熱狂を目の当たりにして、いわゆるロック系のアーティストの側にも、かつてのように“アニソンを通じて世界に出ていく”ことに対する抵抗感はなくなってきている。アニソンを起点に、自分たちの音楽そのものを好きになってくれればいいというのが、本音であるはずだ。
そしてアニソンは、いわゆるアニメ音楽では、もはやない。原田氏は『アイドル♥ヒロインを探せ!』(慶應義塾大学アート・センター刊)で、以下のように記している。
「アニソンは、かつてはほとんどが専門の歌手やグループが担当していました。今でも、専門職としてのアニソンシンガーとして人気を博している歌手やグループは多数います。しかし80年代以降、“NARUTO”の主題歌のように、他ジャンルからの参入がアニソンに相次ぎました。日本国内のファンは“アニソン歌手”“それ以外の方々”の区別をきちんと付けています。しかしながら海外のファンの多くは“アニソンはアニソン”です」
確かにこの例をみても、ロックからヒップホップ、アイドルまで様々なアーティストが楽曲を提供し、歌っている。かつて、アニソンという言葉からイメージされた音楽のみならず、あらゆる「日本音楽」がそこには詰まっていると言ってよいだろう。
このアニソンの特徴こそが、まさにこれまでの「日本音楽」を象徴するものだった、と言えるだろう(ただ、後で述べるように今「日本音楽」はアニソンの枠を超えた発展を図ろうとしている)。そして原田チーフプロデューサーが本書第2章で語ったように、そんな「日本音楽」は世界のヒットソングのエッセンスを吸収し、CDパッケージの売り上げ世界一という、世界有数の音楽市場(一般社団法人日本レコード協会「日本のレコード産業2015」)を土壌として独自の発展を遂げた。
例えば、今や海外で大人気のビジュアル系ロックという日本独特のジャンルの系譜と成り立ちについて、原田CPは前述の『アイドル♥ヒロインを探せ!』で次のように分析している。
「ルーツは70年代に英国で興隆したグラム・ロックです。マーク・ボランや、(その時期の)デビッド・ボウイのファッションやメイクは、鮮烈な印象を音楽シーンに刻みました。
グラム・ロック自体はほんの数年のムーブメントでしたし、ビジネス的には世界を席巻という程の成功は収めませんでした。すぐにパンク、ニューウェーブ、そして第2期ブリティッシュ・インベンションと音楽シーンはめまぐるしく変化していき、グラム・ロックは本国では過去のものになってしまいました。
しかし、遠く離れた国・日本では、その当時を彷彿とさせるようなメイクをしてパフォーマンスする男性ロック・ミュージシャンが続々と登場します。80年代以降のライブ映像を見ると、BOØWYやX JAPANらをはじめ、洋楽の影響を感じられるロックバンドのメンバーが、メイクをしてパフォーマンスしています。男性ミュージシャンのメイクが市民権を得ていったのは、彼らの功績と言えるでしょう」
現在のビジュアル系アーティストは、BOØWYやX JAPANらに影響を受けた世代である。the GazettEをアニメの主題歌で知り、そのビジュアルと世界観に引き込まれていったファンも、その音楽にはたとえ彼らが意識せずとも、日本で脈々と受け継がれ、発展したロックの系譜を感じとっているのではないだろうか。
『J-MELO』のランキング上位を常に飾るもう1つの音楽ジャンル、アイドルについては、どうだろうか。原田CPはもともとの英語でいうところの“idol(=憧れの存在・偶像)”に対して、日本のアイドルはもっと狭義な存在だと言う。
「韓国のアイドルグループは“developed”な状態で音楽シーンに登場してきます。特に日本を含む海外進出となると、自動車と同様、フルスペック装備での輸出となります。これに対し、日本のアイドルグループは“developing”なのです。一緒に成長し、いろんなことを知り、大スターになっていく」
つんく♂が小室哲哉との対談のなかで振り返った「What is LOVE?」でも、世界中の視聴者から歌詞のもととなるメッセージを募って共に音楽を創り上げていくプロセス自体が1つのコンテンツになっていた。
ネットの時代にあって、参加している感覚があること、また完成されたコンテンツだけでなく、その制作過程が楽しめることは、コンテンツの魅力として存在感を増している。すでに世界展開の実績を重ねているVAMPSのHYDEやSCANDALは世界をどう攻めていこうとしているのか、自分の言葉で明快に語ってくれたのが印象的だった(第4章)。
「VAMPSに興味のない人たちの前で演奏できるというのは、すごく精神力がいりますけど、すごくそれは、チャンスだとも思うんで。(中略)。そこで自分達の音楽が通用するかどうかが決まると思うんでね、すごく重要だと思う。」(HYDE)。
「後ろのほう(2階席)は最初、全員座ってましたね(笑)。でも『あ、そういうお客さんがまだ来てくれているんやな』『すごい伸びしろがある国やな。来た価値があるな』って」(RINA/SCANDAL)
誰かの用意した神輿に乗っているのではなく、自らがターゲットを定め、働きかけていく。日本での人気はそこでは関係なく、ゼロからファンとコミュニケーションをとっていく――『J-MELO』でも紹介される彼らのコメントや活動は、インターネットを通じてファンの間で共有され、共感を拡げていく。そんな“物語”は、音楽とともに魅力的なエンタテインメントコンテンツでもあるはずだ。
音楽のみならず、視覚的な要素も含めて独特の世界観を細部まで作り込んで訴求するビジュアル系バンド、自分たちの発展の過程を音楽活動以外でも見せていくアイドルやアーティスト。彼らに象徴されるように、「日本音楽」は世界の音楽シーンにはこれまでなかった特徴を備えつつ、それでいて世界のヒット音楽のエッセンスが日本的に解釈され、詰め込まれている。そんな「日本音楽」が、インターネットによって発見され、いま支持を拡げている。
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