7月21日、ミクシィはモンスターストライク(モンスト)のアニメプロジェクトを10月10日から世界同時配信することを発表した。注目なのは、テレビではなくYouTubeで配信すること、そして1話7分であること。その狙いを2015年6月にミクシィの取締役に就任した、モンストの生みの親である木村 弘毅氏にインタビューで聞いてみた。
↑株式会社ミクシィ取締役、木村 弘毅氏 |
一番届けたい中高生はテレビ離れが進んでいる
―テレビではなくYouTubeでアニメを展開する意図をお聞かせ下さい。
木村弘毅氏(以下、木村):モンストは国内で2000万人を突破したゲームアプリですが、ユーザーアンケートにより、かなり多くの中高生の方に遊んでいただいていることがわかりました。中高生にこれだけ支持をされているのであれば、背景にあるストーリーをきちんと伝えていってあげたい、そうすればさらに深く愛情を持ってもらえるんじゃないか、という思いが強くなりました。じゃあどうやったら中高生にアニメを届けられるか、という課題が入り口でした。
テレビを含めて検討するなかで、ユーザーアンケートやユーザーさんを実際にお呼びしてインタビューもしてきました。そこでわかったことは、子供たちのライフスタイルの多様化により、テレビ離れが進んでいるということ。アニメ業界の人に話を聞いても、「中学生全員をターゲットとしたような王道バトルアニメなんて、今や不可能です」というような反応だったんですね。
でも今モンストはすごく多くの支持をいただいている訳で、みんなが一緒のことをやるって、なくはないなと感じています。であればモンストもスマートフォンで提供しているわけですし、スマホやタブレット、3DSなど子供たちが接触できるデバイスで、時間にも縛られることなく提供できて、しかも本格的でものすごくリッチなアニメであれば、多くの中高生が観てくれるんじゃないか、そういうところからYouTubeを選択したんですね。
もうひとつの背景として、YouTubeやニコニコ動画での僕らの動画コンテンツ事業を高く評価していただいていて。ものすごく多くの方に、モンストのいわゆる実況動画を観ていただいていまるんですね。マックスむらいさんやHIKAKINさんなど、小中学生に影響力のある方の番組もすごく人気ですし、あるいはミクシィ社員でもある“モンストの中の人”ことさなぱっちょ、ぱなえが自ら動画コンテンツをつくり人気になりつつあります。モンスターストライクというコンテンツとYouTube動画の親和性がとても高い。モンストのことであれば、動画に興味をもってくれる人が多くいるという背景も大きかったかもしれないですね。
―アニメそして3DS版と、スマホ向けのモンスト以外のプロジェクトを一気に出してきた理由は?
木村:モンスターストライクという、ひっぱって離すという簡単なゲーム性とみんなでわいわい遊べるエンタメ性は、自信をもってお届けできる“価値”だと思っています。僕らが満たしたい顧客像は、やっぱり集まってわいわい遊びたい人なんですね。3DS版も、スマホを持っていない子供に対して、わいわい集まって遊ぶという価値を届けてあげたい、という思いで制作を決めました。
アニメでも、実際に集まってわいわい遊ぶことが楽しい、ということを伝えたい。ゲームだけだとどうしても興味をもっていただけない方もいるかもしれません。あまりストーリーについては深く語れませんが、主人公たちは4人集まって協力して敵と戦っていくんです。協力して何かを成すことは楽しいよね、というメッセージをアニメで強く伝える。3DSであれアプリであれ、集まって遊ぶという楽しさを味わってもらえるきっかけになればいいなと思っています。
モンスト関連のゲーム動画だと、ゲーム画面があって、何人かのプレイヤーが並んで撮影しているものが多いと思います。おしゃべりしながら、わいわいしているだけで楽しい。それこそが僕らが作りたい世界をうまく伝えてもらえていると思っていて、言い方があっているかわからないですけど、それをアニメにしたかった。そんな気持ちもありました。
―YouTubeで配信することが、どうしても規模が小さく見えてしまうかもしれません。ただ、クリエイター陣を見るだけで相当力が入っているし、制作費もかかっているのかと思います。
木村:具体的な制作費は公開できないですけど、テレビアニメと遜色ないくらいの製作費はかけてますし、クリエイターも実績がある方を起用しているので、コンテンツの中身としては負けないと思うんですね。
↑7月21日に行なわれた発表会でもクリエイター陣が登壇。左からプロデューサー・平澤 直氏、キャラクターデザイン原案・岩元 辰郎氏、監督・市川 量也氏、木村氏、シリーズ構成/脚本・加藤 陽一氏、ストーリー/プロジェクト構成・イシイ ジロウ氏。 |
↑キャスト。小林 裕介(焔レン役)、木村氏、オラゴン、福島 潤(オラゴン役)、Lynn(役名後日公開)。 |
―クリエイターの選定はご自身で行なわれたのでしょうか。
木村:はい。ターゲットである中学生や高校生のど真ん中を狙いたい、そこに賛同してくれる方を、まず選びました。でも、「難しい多感な時期で “今の中学生”というのがクラスターとして存在していない」というのがアニメ業界では常識で、ニッチな方向に行きがちとも聞いています。そういうアニメでしかビジネスになりにくいようです。ですから、誰しもが賛同してくれたわけではないんですね。そんな中で、YouTubeであれば届くんじゃないか、そこでなら本気で大暴れできるというふうにポジティブにとらえていただける方でまず組織固めをしていきました。
アニメとアプリがシームレスに連動できるのがYouTubeの強み
―YouTubeで配信するからこその工夫はどういった部分にあるのでしょうか。
木村:まず7分という視聴時間です。そして一例ですが、オープニングを設けないことですね。毎回オープニングがあることは、視聴者にとって負担になる部分でもあると思います。オープニングの曲や映像は好きでも、実際にはシークバーで頭出しをしてオープニングをカットしてしまう方もいると思います。今の海外ドラマなんかがそうですよね。DVDでまとめて見る場合、オープニングが入っていない作品がほとんどです。テレビアニメやマンガのように、毎週一本のペースで配信されていくのですが、まとめて見ることも意識したようなつくりにはなっていますね。
配信が開始されたら、スマートフォンでご覧になるお客様方がかなり多いのではないか、ということを意識しています。小さい画面でも見やすいようにつくる工夫はふんだんに入れています。
そしてイチバンの仕掛けは、アプリのモンスターストライクとの連携ですね。YouTubeからアプリへ、あるいはアプリからYouTubeへという動きがすごくシームレスに遷移できる状況がスマートフォンの中にはあるので。まだ詳しくは言えませんが、アニメ単体だけでは終わらない、行ったり来たりする仕掛けが随所にちりばめられています。
―1話7分という時間の意図を教えて下さい。
木村:感覚値によるところも多いのですが、今は30分ちゃんと時間を取って観るものではないのかな、という所が大きいですね。じゃあそれが15分だったらよかったのか、7分だったらよかったのかと言われれば、ちょっと正確にはわからないところはあるんです。YouTube動画の平均視聴時間は10分前後という調査結果もありますし、とにかく短い方がいいだろうというのはありました。
―もしかしたら、YouTube動画をちゃんと観てもらえる時間がそのくらいなのかもしれませんね。
木村:はい。短い方が述べ視聴数自体は上がったりはするんですよね。視聴時間で言ったら変わるかもしれないですが。
―アニメのコンセプトを伺って、中高生をアプリへ誘導するためのものと感じました。アニメ自体の収益についてはどうお考えでしょうか。
木村:アニメ自体では正直収益が上がるものではないと考えています。ゲームを遊んでくれる人が増えること、そして、より愛着をもってもらうためのもので、ゲームから離れてしまった人もこれをきっかけに戻ってきてくれるかもしれない、という期待はあります。
―既存のアニメだと、DVD化して収益を得るという構造がありますが、その予定はありますか。
木村:もウェブ上の動画だと、(ビットレートなどの)映像のクオリティーの問題や、通信が必要だという弊害があります。ご要望が多ければディスクに収めた形でご提供するのはありうると思います。まとめてご覧いただいても十分楽しめるようなつくりにはなっているので、ディスクになっても喜んでもらえるはずでしょう。
―どのくらいの期間で配信されるのか決まっていますか。
木村:具体的にはまだ言えませんが、できるだけ長く続けたいですね。クオーター毎にスペシャル版などをやってみたり、と考えています。海外ドラマの人気作はとても長いクールで放送していますが、それに近いイメージでやっていきたい。
今のテレビだと、長いクールを通してアニメやドラマが展開するのが難しいところがあると思います。それが寂しいと思っていたんです。短い分数でも、長い年月放送していれば長く世界観に浸ってもらえる、そういう世界観をつくりたかった。
つくり方もある意味でユーザーさんと共犯関係にあると思っています。アプリとも連動してストーリーは進んでいくわけですけども、その中心にいるのはユーザーさんです。アプリのモンスターストライクと同じで、企画スタッフであれマーケティングスタッフであれ、ユーザーさんの声を聞きながら毎月中身を変えて出しています。ユーザーさんが望むようなストーリーに変えるという意味ではありませんが、やっぱり反応を伺いながら変えていき、アニメの中身自体が変容してくことで長く愛されていくと思っています。
―スマホゲームでは運営という言葉が使われますが、運営型アニメと言えるかもしれませんね。
木村:それは言えるかもしれないですね。7分という細かい切り方は、そういう運営型のアニメみたいなのものがやりやすいのかもしれないですね。いいですね、“運営型アニメ”。ちょっといただこうかな(笑)。まるでモンストのアプリのように、毎月中身が変わっていくイメージがまさに合っています。
―既存のモンストユーザーにとって、いちばん気になることはアプリとの連動についてだと思いますが、具体的な仕組みを教えていただけますでしょうか。今でも動画の最後にシリアルコードが記載されていて、入力したらアプリ内のアイテムが貰えるといった仕組みはあります。そういうものなのでしょうか。
木村:これは秘密にしておいたほうが作品をより楽しめるかなと思っています。ゲームとアニメ、そして実際の僕らの生活を立体的に行ったり来たりするような、ちょっと面白い仕掛けをふんだんに盛り込んでいきます。例えば、アニメ内での主人公たちの行動を、アプリで追体験できるようなクエストを予定してます。ほかにも、PVでアニメに出てほしい既存のモンスターをTwitter経由で募集して実際にアニメに登場させる、といった逆方向の連動も考えています。
―アニメのストーリーやキャラクターのコンセプトをお聞かせ下さい。
木村:友情と協力の物語ですね。そこは揺るがないコンセプトです。モンストも一緒に遊んでいて、すごく強い敵を倒したときに、わーっと盛り上がってハイタッチするような瞬間があります。これこそ伝えていかなきゃいけないことで、アニメ映像でさらに増幅させたいですね。
―主人公は中学生であることや、 “オラゴン”というキャラが公開されましたが、初めて見たときにどんな印象を受けましたか?
↑主人公・焔レン |
↑オラゴン |
木村:オラゴンは違和感があって面白いなって思いました。あんまり生物界に一本の角の生物っていないなと。キャラクターとして目立つし、憎たらしさとかわいらしさが共存してるのもいいですね。実は100体近くキャラクターデザイン案があったんですよ。一目で見て覚えやすいもの、描きやすいものである必要があると思い、このデザインに落ち着きました。
テレビではできない表現を取り入れたかった
―それに対して、渋谷の109?の上にいるモンスターはリアルですね。
木村:実はアプリのモンストでも、敵のボスを怖く見せることにこだわっています。例えばボス戦になると音楽が必要以上に荘厳な音楽というか、“ヤバイ”音楽にしてるんですね。みんなで遊ぶときには、“恐怖”を共感できたほうが面白い。だからこそみんなドキドキして、「やばいやばいやばい!死ぬ死ぬ!」とかって盛り上がれると思うんですね。それはすごく大事なことで、アニメ映像で伝えていくときに既存のモンストのデザインだと、そこまで怖さや迫力を伝えきれないので、ここは大胆に敵を怖く変えています。お化け屋敷とかジェットコースターとかと同じで、怖がらせるのが役目です。
↑渋谷109のような“428”ビルに降り立ったバハムート。 |
↑主人公の後ろには坂本龍馬が。 |
―既存のアニメだと残虐的な描写やシリアスなストーリーで怖さを表現していましたが、そういう面は無くても怖さを表現できましたか。
木村:残虐性は追及していないのですが、下手したら死ぬかもしれない、という感覚を抱いてもらえるようにはつくっていますね。怖い相手がいて、命からがら逃れてやっつけるみたいな展開がないとエンターテインメントとして面白くない。
中高生が見るということを考えると、もっとソフトな表現で、という方向もあったのかもしれないですけど、怖いものは怖いときちんとコミュニケーションするのは作品としてすごく重要な役割です。
表現としてえげつないことをやっている訳ではないですが、規制にとらわれない自由な表現や、通常のテレビアニメではやらない新しい表現手法は随所に取り入れていますね。結構先端の映像体験みたいなものを楽しんでお届けできると思います。
―テレビの枠組みではやりにくいことも多いのでしょうか。
木村:規制はありますよね。演技や作品にこだわりのある俳優の方がネット放送のドラマに行くというお話も聞きました。
―最後に、3DS版について2015年内発売で、アニメの設定をバックグラウンドにしたものと発表されていました。どのようなゲームになるのでしょうか。ここがアプリのモンストとは違うんだということがあれば教えて下さい。
木村:これがアニメを追体験するノベルゲームですって言ったら、悲しいですよね(笑)。アニメの世界観で作られていて、よりRPG要素が入っています。
―3DS版でもマルチプレイ要素があるのでしょうか。
木村:はい。マルチプレイができないモンストって、モンストじゃないと思います。ミクシィという会社ですし、やっぱりコミュニケーションは僕らが強く提唱していかないといけない価値観だと思っています。
―ターゲットの年齢層は、スマホをもってない、中高生よりも下の年齢層でしょうか。
木村:小学生くらいから楽しんでいただけるようにつくっています。やはりいちばん解決しなきゃいけない課題はスマホをもっていない人にどうやったら遊んでもらえるか、なので。スマホは通信もできるので、親御さんとしては全員が全員お子さんに持たせるわけにもいかないでしょう。そういった子供たちに3DSでモンストを遊んでもらいたいと思っています。
―ありがとうございました。
■概要
配信開始日 2015 年 10 月 10 日(土)
配信方法 YouTube にて配信
配信時間 本編 1 話約 7 分
配信対応言語/国 日本語、英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語など
配信スケジュール 毎週土曜日
配信 モンスト・アニメ公式サイト http://anime.monster-strike.com
■制作
原作:モンスターストライク
エックスフラッグスタジオ総監督:木村 弘毅
モンストアニメプロジェクトマネージャー:鈴木 洋平
監督:市川 量也
ストーリー・プロジェクト構成:イシイ ジロウ
シリーズ構成・脚本:加藤 陽一
キャラクターデザイン原案:岩元 辰郎
モンスターデザイン原案:近藤 雅之
プロデューサー:平澤 直
アニメーションプロデューサー:宮崎 裕司
制作:スタジオ雲雀/ウルトラスーパーピクチャーズ
■キャスト
小林 裕介(焔レン役)
福島 潤(オラゴン役)
Lynn(役名後日公開)
■関連サイト
・モンスト 夏だ集まれ。キャンペーン 特設サイト
・XFLAG
(C)mixi, Inc. All rights reserved.
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