1983年ごろのHAL研究所の製品パンフレット |
写真:藤本健 |
任天堂の代表取締役、岩田聡さんが亡くなられたというニュースを見て、非常にショックを受けています。あまりにも偉い方になられていたので、もう長年お会いしたことはありませんでしたが、引退されたら久しぶりに昔話でもしに遊びに行こうと思っていたからです。
岩田さんに初めてお会いしたのは、1982年の8月だから33年も前のこと。岩田さんが23歳の新入社員だった時代です。
高校2年生とプログラムを共同開発
私と岩田さんで開発したプログラムのソースコード |
写真:藤本健 |
高校2年生だった私は、夏休みを使って当時のパソコン、NECのPC-8001用にサウンドボードを開発し、それを駆動するためのプログラムを作ったのです。自画自賛ですが、とてもよくできたので、雑誌で見かけた会社に連絡をし、買い取ってもらえないか交渉をしていました。
5社ほど面談に行った会社の中で、第一希望だった会社がHAL研究所。5~6人の小さな会社で、そこで対応してくれたのが岩田さんでした。
結果的に、HAL研究所が扱ってくれることとなり、その後、岩田さんといっしょに、開発を進め、1983年の1月、『GSX-8800』という名前で発売となりました。
先日、実家の整理をしていたら、当時のZ-80のアセンブラで書いたソースコードも出てきました。ドットインパクトプリンタで出力した1ページ目には私の名前と、岩田さんの名前が刻まれているのが分かりますよね。
岩田さんの名前が刻まれているのが分かります |
写真:藤本健 |
確か、DECのVAX-11によるクロスアセンブラを使って開発したものだったと思います。 Cromemcoのマイクロコンピューターを用いておりました(7/14修正)。
とっても不思議な人に見えた
当時、岩田さんは東京工業大学の情報工学科を卒業して、この小さな会社に就職していたのですが、高校生の私から見て、とっても不思議な人だと思って見ていました。
東工大は自分にとって憧れの大学であり(結局、成績が悪くて私は入れませんでしたが……)、その一番行きたかった情報工学科を出たのに、なんで、こんな小さな会社に入ってしまったんだろう……と思っていたからです。ここでは、まさにマイコンクラブの先輩のような感じで、一緒にプログラムを書いていましたが、その優秀さには歯が立たず、悔しい思いばかりしていたのも事実です。
当時発売した『GSX-8800』のパッケージ |
写真:藤本健 |
GSX-8800のボードと、プログラムが入っていたカセットテープ |
写真:藤本健 |
だって、夏休みいっぱいかけて作ったプログラムのバグをたった一晩ソースコードを見ただけで、直してしまい、しかも「2つ入っていた隠しコマンド、削除しておいたからね!」なんて言われてしまうんですから……。そう自分の名前を入力すると、短いフレーズの演奏がされるような仕掛けをしておいたのが、バレちゃったんですよね。
また、どうやってプログラムすればいいのかずっと悩んでいた割り込み処理も、簡単に作り上げてしまい、もともと3音しか出せなかった自分のプログラムは、岩田さんによる修正で6音出せるものへとグレードアップ。その形で発売となったのです。
天才だったんだと後から知った
そんな岩田さんを見て、高校2年生の自分は「自分はエンジニアには向いていない、こんな進化の速い世界で技術的についていくのは不可能だ」と悟り、違う世界へと歩んできたんですよね。
当時は、社会人って岩田さんくらいしか知らなかったし、だからこそ、社会人のエンジニアはみんな岩田さんのような人だと思い込んでいたのですが、後になって気が付きました。岩田さんは天才だったんですよね。
当時岩田さんと会っていなかったら、今ごろどこかのメーカーでエンジニアとして働いていたのでは……といつも思っていますが、結果的にはよかったのかなと岩田さんには感謝しています。
GSX-8800のカタログ(左ページ) |
写真:藤本健 |
GSX-8800のカタログ(右ページ) |
写真:藤本健 |
その後、大学に入っても、ずっと岩田さんの元で、シンセサイザーの回路を組んだり、プログラムを作るなどして、ずっと勉強をさせてもらいました。その当時の知識が現在の自分のベースとなっていることは間違いありません。いつか、そのお礼をしに行きたいな……、社長を引退されたら、行こうと思っていたんですけどね。残念ながら、その思いは遂げられませんでした。
偉くなられてからは、新聞やテレビでお顔を見ることしかありませんでしたが、当時と全然変わらない雰囲気だったので、お元気なんだろうと思っていました。まさか、こんなに早く逝かれてしまうとは……。安らかにお休みください。本当にありがとうございました。
大学時代に岩田さんと開発し、発売したPC-8801用のFM音源&MIDIボード、「響」 |
写真:藤本健 |
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