未だにMSXの新作ソフトが東京ゲームショウなどのイベントで発表されている、と言えば「マジか!?」と驚く者もいることだろう。しかしMSXユーザーにとっては別に驚くべきことではない。なぜなら、MSXは“パソコン”なのだから……。
パソコンであるMSXがゲーム機と違うところ、それはユーザーが自分でゲームを作れる点にある。作ったものを販売することもできる。もちろんハードメーカーなど誰かの許可などいらない。というわけで、そんなMSX文化がこの2015年になっても続いている、ということなのである。当時そうした自主製作のゲー ム群は“同人ソフト”などと呼ばれていて、市販ソフト並みの凄いのから、メーカー製では(いろんな意味で)有り得ないスゴイものまでたくさん発表されてい た。他にもインディーズ系とか呼び方は様々あるが、MSXでは歴史的経緯も込めて“同人ソフト”と呼ぶことが多い。そんな中から、現役で活動中の3サークルを紹介しよう。
TPM.CO SOFT WORKS
↑東京ゲームショウ2014でのTPM.CO SOFT WORKSさんとそのブース。展示されていたRPG風アドベンチャーゲーム『タロティカ・ブードゥ』は、来場者に衝撃を与えた話題作。 |
MSX・FAN誌(1987~1995)の読者投稿プログラムコーナー“ファンダム”で活躍していたので名前を憶えている方も多いかと思う、今日に至る長きにわたって活躍している伝説のプログラマーが、TPM.CO SOFT WORKSだ。今も当時の投稿者のペンネームそのままだが、これはサークル名も兼ねている。ファンダム時代は『まものクエスト』シリーズ、『GREY COLLEAGUE』、『DELVINDUS』、『ネイティガの悪魔』、『KUSOGE-QUEST』等の作品が掲載されたが、MSX・FAN誌休刊後も『GRAY GROFA』(1996)、『タロティカ・ブードゥ』(1998)、『GUIE INDUST』(2007)といった作品をコミケ等でリリースしている。ゲームではないが『LSTMIKKE』(2013)というBAISCで使える開発ツールもある。全てMSX1(32KB)以上に対応だ。
作品の多く(『タロティカ・ブードゥ』以外)がSCREEN1という、初代MSX1から存在する画面モードで作っているのが見た目にも最大の特徴である。割と地味なMSX画面においても特に地味な、使える色の制限が強いモードで、TPM.CO氏はこのモードに強いコダワリがあるようだ。しかし“派手なことができない”というのは主に静止画としての話で、動きについては色の制限が強い分他のモードよりも可能性の幅が広い、という主張が作品から読み取れる。
なんと去年の東京ゲームショウ2014でもMSX1のゲームを展示発表しており、今もMSX1でのゲーム制作にまったくのブレがないことを知らしめた。
↑『タロティカ・ブードゥ』はMSXPLAYerと実機でプレイアブル展示されていました。 写真右の実機はレア機の『HB-F900(ソニー)』だ。 なんと“メディアアワード・インディーズ部門”に週刊 ファミ通選出枠で見事ノミネートされていた。「一番強いMSXはMSX1なんだよ!」という作者の主張を 感じる。面白さはハードの性能だけで決まるわけではないのだ。 |
そんな彼が5年以上かけて進めているプロジェクトが『サラチRPG』である。これまでに何度か“テストver.”もしくは“プロト(タイプ)版”と称する試作版が100円くらいでコミケ等で売られていた。が、現在YouTubeでデモが公開されているこの作品は試作版のいずれからもかなりの変貌を遂げていて、しかも今後どう発展していくかはユーザーの我々からはまだ見えていない、未知の世界だ。
数少ない情報を繋ぎ合わせると、“屋敷の中の家具”をどうにかするゲームらしい、ということはわかるのだが、いつの間にか実装された“ゲーム画面の拡大縮小”機能など、MSXにはturboR規格でもハード的には存在しない機能を作り込んでいる。実は2年くらい前に「もうすぐ完成」ということで予約を受け付けており、筆者(の1人)も予約したのだが、その頃からもかなり大きく変わっているので、いつ完成するかはわからない。まぁ、そこをじっと待つのもMSX同人ゲーム収集のだいご味なのである。
ここでニュース。7月11日(土)12日(日)に京都で開催される『BitSummit 2015』というイベントで、まったく未公開の新作、『MATRIX CODE』の発表が予定されているそうだ。ぜひ近隣の方やファンは直接見てプレイしてみてほしい。
↑究極の地味画面『MATRIX CODE』。MSX登場前の最初期の8ビット機“MZシリーズ”の頃のグリーンディスプレイのゲームを思い出す御仁もおられることだろう。プレイしてみるとサクサクととても新しい感触で、でも見た目はいにしえの雰囲気を醸すゲームだ。 |
筆者もちょっとだけプレイさせてもらったが、ひと言でいえば“これまでまったく遊んだことの無いオリジナルなゲーム”であり、“進行ルートのルール自体を探す”みたいな、でも単なる記憶ゲームでもなく何と言うか“ひっくり返っている感じ”のゲームで、直観が当たるとジワジワ嬉しくなる“ゆる不思議ゲー”だ。動画を見てもピンとは来ない、やってみないとわからないゲームなのだ。でもきっと正式公開までにはまたずいぶん変わるんだろうなぁ……。今後の発展が楽しみである。
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TPM.CO SOFT WORKS
TAKO-SYSTEM
関西から登場のTAKO-SYSTEM、略してタコシス。元々は『Heartful Disk』というディスクマガジンのシリーズを1995年からリリースしているサークルである。メンバーは主に2人の男性だが、時折り謎の女性が参加していたりすることもある。関西独特の“あのノリ”で元気な雰囲気いっぱいのソフトを作っているMSXサークルだ。
『Heartful Disk』は2000年のVol.5までリリースされていたが、今は『どやさ』という名の、やはりディスクマガジンを刊行している。これも2014年末の冬のコミケで5号まで出ていて、今のところこれが最新作のようだ。いずれもMSX2以降用である。
↑「どやさ」とは関西方面の方言で「どうでしょうか?」みたいな意味らしいが、今ふうに言うと「(これって)どうよ?」みたいなニュアンスでしょうか。“今いくよ・くるよ”のくるよさんの持ちネタとしても有名。先日永眠された今いくよさんに合掌。 |
内容は、まぁそんなにいろいろ入っていない(笑)。“ディスクマガジン”というのはWebが広く普及する以前に“いろんな情報を詰め込んだ雑誌ふうのソフト”として作られフロッピーディスクなどで発行されていたもの。印刷が必要な紙の雑誌より手軽に作れ、内容もゲームにCG、音楽に日記(?)といろいろ詰め込めたのが特徴であった。コンパイルというメーカーが1988年7月にMSX用ディスクマガジンとして『ディスクステーション』を発刊し、これに刺激を受けたMSXユーザー達が次々と同人版のディスクマガジンを立ち上げたのだったが、「特許取ってりゃ……」って元コンパイルの仁井谷社長が言ってたなぁ。
話は戻るが『どやさ』は今では珍しいそんなディスクマガジンの生き残りである。しかも作者の赤尾さんの近況報告的な内容が中心で、それはそれでデジタル“同人誌”らしくて面白いのであった。ちなみにVol.5の特集が「スカイツリーに行ってきました」なのだから、おおむねその雰囲気はわかって頂けるだろう。次回作はおそらく2015年夏コミなのではないかと思っているのだが……とプレッシャーをかけておこうと思う。
昔っから関西系のお気楽さ、安定のいい加減さこそタコシスらしさということで、ずっと変わらない新作を見るたびホッとするのである。ただ『漫才ショー』の看板CGが20年近く使い回しなのはそろそろ何とかしてあげたいぞ!
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TAKO-SYSTEM
Rabbit Soft Worker's
MSXは1983年に登場したことから多くのMSX系サークルが80~90年代にスタートし20年来の活動を続けているのに対して、こちらは何と21世紀に入る辺からMSXソフトをリリースしはじめたサークルである。といっても早十数年の歴史があるわけだが。MSX turboR専用ソフトのみリリースしている点もユニークだ。
これまでに『Gunnership 2on2』、『Product of HEARTS-In the 6th sense-』、『Secret design of the HEARTS-DREAMDROPS-』の3本が出ているようだ。いずれもマウスを使った“対戦ガンシューティング”というMSX的には大変に珍しいジャンルである。日本のMSXシーンでは光線銃があまり普及しなかった(ブラウン管モニター専用だし)ので、マウスで照準を動かして銃に見立てる形にしたのはナイスなアイデアだと言える。
↑『Secret design of the HEARTS -DREAM DROPS-』 一見、マニアックなシステムも、“狙撃する”基本を押さえれば難しくはない(ハズ)。予行練習(体験)版も公開されているぞ。 |
1人プレイでも必ず対戦相手がいて、相手の体力ゲージをゼロにするのが目的となる。キャラクターごとに能力が違い、能力の発動タイミングなどでうまく差をつけないと勝利はむずかしい。システムは新作ごとに少しずつ進化していっているが、同じ作品でもアップデートを時々やっているのが素晴らしい。最新アップデートは『DREAM DROPS』の2015年4月のもの。デモ画面も凝っているのが特徴で、可愛らしくオリジナルなキャラクターデザインも含めて、今回紹介した3サークルの中では一番見栄えがする。
↑『LOST WORD』は、鋭意(?)開発中のRPGっぽいタイトル。作者いわく「ようやくレイアウトが固まって来た感じ。年内には動く所まで持って行きたい…」とのことなので楽しみに待つことにしたい。 |
ちなみにRabbit Soft Worker'sは、コミケだけでなく他のレトロパソコンや自主製作ゲーム系のイベントにも積極的に参加されているようなので、本気になればなんとかゲームの入手は可能だろうと思う。コミケは落選することが結構あるのと、電源が使えないのでMSX実機が展示できないのが弱いのだが、コミケ以外のイベントにも参加しているこちらのゲームは実機で動いているところを実際に目にする機会もあったり、プレイできるかもしれないことも貴重といえる。ソフトの発表の仕方にも個性が出るのだ。
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TARGET AREA with Rabbits Soft Worker's
Rabbit Soft Worker'sのイベント参加予定
7/26 蒲田PIO レトロエクスプレス3号 ブース未定
8/16 東京ビッグサイト コミックマーケット89 西2 し-40b
11/15 アキバスクエア 第三回デジゲー博 当落未定
動画
DREAM DROPS(YouTube、ニコニコ動画)
Product of the HEARTS(YouTube、ニコニコ動画)
ということでMSXでは今でもフレッシュな作品が発表され続けているということはおわかり頂けたかと思う。まぁ作ってる人がフレッシュな年齢でないのは致し方ないが。
MSXの、というかパソコンでゲームを作れるということの持つ意味、表現の幅広さ、面白さのようなものが伝われば幸いだ。市販のゲームソフトと違い、好き勝手に作れる同人ソフトは、常識とかに囚われない右端から左端までの自由な表現のふり幅が心配になるほど広いのがだいご味なのだ。あと製作者個人の個性や感性もダイレクトに感じられるのも魅力だ。
ちなみにここで紹介した作品はどれもフロッピーディスクでの供給になっているが、海外ではなんとROMカートリッジで作品をリリースするサークルも存在する。そう、海外でもMSXの新作はいまだ生まれ続けているのだ。しぶとくMSXを愛し、使い込み、新作ソフトを作り、『MSX2生誕30周年』を祝ったりしているのである……って海外のMSXユーザーが言ってた。
Twitterとかで海外のMSXユーザーをフォローすると、そんなパーティの光景が見られたりもするぞ。日本のMSXユーザー諸君も同窓会がてら、好き勝手にOFF会でも開いて祝おうではないか。こうなったらもっと歳食ってもMSX誕生イベントとか老人ホーム入所してからだってやっちゃうもんね。
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