「グーグルは検索、アップルはデバイス、アマゾンはEコマース、マイクロソフトはソフトの会社と思うかもしれないが、彼らのめざす山頂は一つ。おたがいの領域でぶつかりあいはじめている」
KADOKAWA取締役 角川歴彦会長は2日、東京ビッグサイトで開催中の『コンテンツ東京2015』基調講演で語りはじめた。テーマはIT先行大手に迫る新星、Netflix。アメリカの動画配信サービス大手で、業界では黒船と呼ばれることもある。
「いま4社に続いてNetflixという会社がアメリカで大きくなり、日本でも10月から事業を始めると聞く。先行する4社とNetflixが同じところ、違うところの話をしたい」
カンヌの主役はNetflix
グーグルなどIT大手が目指すのは、デジタル市場の頂点だ。
Netflixも同じだが、彼らには自分たちで連続ドラマ『ハウス・オブ・カード』を制作・配信、大ヒットさせたコンテンツ業者としての経験がある。今まで柵を設けていたコンテンツ産業の土俵に上がりこんだのである。
象徴的なのは今年のカンヌ国際映画祭。Netflixがキーノートで映画業界への参入を発表したのである。カンヌ映画祭の開催中、フランスでは「新聞に『今年のカンヌの主役はNetflixだ』なんてことさえ書いてあった」(角川会長)ほどだという。
「アマゾンやグーグルは自らはコンテンツ事業者ではないと言ってきた。だが、Netflixはまともに『自分たちはコンテンツ事業者でメディア事業者だ』と言う。Netflixがコンテンツを自らつくりはじめてから、均衡がくずれはじめている」
事実アマゾンは自社の映画スタジオを設け、フェイスブックも配下のオキュラスVRを使って映画を撮りはじめている。先行大手がNetflixと同じ土俵で、おなじ目標に向けて勝負をはじめたというわけだ。
三次流通から一次流通に「逆流」した
Netflixの恐ろしさは市場の支配力だ。
インターネットの爆発的な成長力を武器として、コンテンツ流通を下流から上流まで一気にさかのぼり、市場を独占する圧倒的強者になろうとしている。
「彼らは最初ビデオの宅配、CCCとよく似たところからスタートした。しかしインターネットの動画配信に事業を変え、大きな存在になった。そして映画の製作も入り、いまや権利ビジネスとしては映画・テレビ会社としての業態も持つようになった」
これまで映像業界は映画館(一次流通)、DVDやBlu-rayのパッケージ(二次流通)、テレビ放映(三次流通)という流通構造で成り立っていたが、Netflixは流れをすべてインターネットで完結させられる。
角川会長の言葉を借りれば「DVDパッケージの二次流通から始まったNetflixが三次流通を席巻し、一次流通まで逆流して押し寄せてくる」ようになったのである。
「Netflixは早い時期から『19~21時のトラフィック量を30%ほど占める』と言われていた。テレビ業界でゴールデンタイムと言われ、見てもらいたい時間帯に視聴者はNetflixを見ていたことになる」
一般企業もIT技術者への理解が必要
日本もNetflixの影響はまぬがれない。
映像ソフト協会によれば、日本の動画配信市場は2013年に597億円、2014年に614億円と順調に規模を伸ばしている。
既存放送事業者、YouTubeやニコニコ動画のようなインターネット系プレイヤー、ケータイ動画『dアニメ』などを配信するNTTドコモのような通信キャリアが三つ巴となり「2013年は動画配信元年」(角川会長)というほどの状態だった。
2年前、IT時代のコンテンツ産業についてまとめた『グーグル、アップルに負けない著作権法』を上梓した角川会長は、日本には来たるべきNetflix時代にふさわしい「クラウド時代の著作権法」(角川会長)が必要だと考えている。
「著作権法でいうと“無体物”(知的所有物)の法整備が必要。著作権法は旧著作権法、新著作権法と進化して、一次流通と二次流通というものには対応してきている。だが、第三次流通である『ネット法』が規定されていないので矛盾がいろいろと起きている」
また、日本においてはコンテンツ事業者がみずから技術者を抱えて戦うケースが少ないのではないかと角川会長。
Androidの開発に3万人の技術者を使っているというグーグルのように支配的なプレイヤーとまともに戦うには、コンテンツ業界のみならず、既存のアナログ産業にIT技術者への理解が必要ではないかというのだ。
「コンテンツ事業者やあらゆる事業者が技術者を抱えなければいけなくなる。それがこれからの日本の産業界の大きな問題点になるのではないか」
写真:編集部
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