先日一般販売が始まったことがアメリカのメディアを中心に話題のAmazonの人工知能スピーカー『Echo』。先日の記事でも取り上げたとおり、Amazonレビューの評価がやたらと高く、音声認識のAIデバイスとして少々気になる存在。日本発売が未定なら現地在住のユーザーに聞けば良い!ということで、サンフランシスコ在住にしてEchoのリアルユーザーの丹羽さんからのレビューが届きました。Echoがもたらす体験は、良くも悪くも"ヘイ!Siri"や"OK,Google"とはまったく違うそうです。
Amazon Echoのプロモーションビデオ これは未来だ
昨年のある日 Twitter でなにやら Amazon が筒状の変なものを作ったと話題になっていました。そこで見たものはこのビデオ。
「未来きた!」と思いました。ビデオに登場する、まるでもう一人の人間のように思えたんですね。早速ウェブサイトで招待状の登録。そして後日、メールのインボックスに “Your Amazon Echo Is Ready to Purchase” のメールが! そくポチっていました。
そうしてAmazon Echo がやってきた
しばらくして『Amazon Echo』が家にやって来ました。ほかの Amazon 製品と同じくオレンジと黒で統一されたスタイリッシュな箱にはいっています。また、すでに Amazon アカウントが設定された状態で出荷されているのでセットアップが簡単……なはずなのですが。
真っ黒いパッケージ。表にはAmazonロゴがプリントしてあります。 |
パッケージを開封したところ。内部はオレンジ。一般的な化粧箱としてみても、低コスト化狙いではなくデザインされた箱です。フラストレーションフリーではもちろんありません。 |
Amazon Echo にはなぜかリモコンがついてきます。ほかの Amazon 製品のリモコンと形がすごい似ているけれど、微妙に違います。マイク内蔵で、Amazon Echo から遠くにいても操作可能ということなのでしょうか。
そしてセットアップなのですが、本体をコンセントにつないで起動したあと Amazon Echoアプリや Amazon Echoウェブサイトを使って行います。このなかで Wi-Fi への接続設定などを行います。それ自体はとてもスムーズなのですが、途中でこのリモコンのペアリングをしないとセットアップが前に進まないのです。
家の広さからいっても(一人暮らしのアパートです)リモコンを使う機会はないので仕方なくセットアップだけして箱に戻してしまいました。
このあたりは現在のドキュメントでは言及がないので改善されているかもしれません。
問題のリモコン。たしかに、これくらいの操作ならリモコンいりませんよね……音声認識デバイスですから、リモコン使わせたら負けではないかという気もします。 |
上部にある操作ボタン。たった2つだけ。スマホ連携する音声入力デバイスだから当たり前ですがシンプル。Echoの動作の要となる音声を捉えるマイクアレイはこの上部の円周に沿って複数配置されています。 |
Echoの裏面。電源ケーブルは底部に挿して、背面の切り欠きから外へ出す仕組み。 |
セットアップが終わりました。Amazon Echoには"Alexa"(アレクサ)という愛称があり、“Alexa,” と話しかけることで会話を始めます。“OK, Google” や “Hey, Siri” と同じですね。(なお、この Alexa という名前はAmazon他に変えることができます。)
でもやっぱり最初はなにを話せばいいのかわからないから戸惑います。そこで、購入前のプロモーションビデオのことは鮮明に覚えていたので、よし、なにか音楽を再生させようと思います。
“Alexa, play classical music”
―― “Classical playlist from Prime, Classical Dream Time.”
そしてすぐに流れるクラシック音楽。とてもスムーズで、正直「未来きてるかも!」と思ってしまいました。
Amazon Echoのアプリ。音楽再生を操作するフレーズ例はこんな感じ。 |
Echoでは、“ヘイ, Siri” ― “......” “ヘイ, Siri!!” ― “......(無反応)”は起きない?
実際のところ、Siri や Google でも似たような体験ができてたはずです。しかし、現実にはそもそも “Hey Siri” や “OK, Google” を聞いてくれないことが多いです。
この点、Amazon Echo は製品の位置づけや家において使うという、Siri や OK Google のような携帯電話のひとつの機能でどこにいても使われる可能性を排除し、マイクとスピーカーの性能を上げることでパーソナルアシスタント、ファミリーアシスタントとして現時点ではもっともよくあるべき姿を実装していると思います。
その結果、Amazon Echo は人間が喋ったことを聞いてくれる装置という使い方ができます。 “Alexa,” を聞き逃すことはほとんどないですし、Amazon Echo に頼めることで間違えることはかなり少ないです。
しかし、Siri や OK Google は装置に向かって人間が話しかけるという使い方になります。携帯電話という形の制約上、マイクの感度、スピーカーの音量などで、そばにいてお願いを聞いてくれるという体験は得られないわけです。
この一点において、Amazon Echo では Siri や OK Google のそれとは決定的に違うユーザーエクスペリエンスが得られます。また、誰か一人が使う製品ではなく、プロモーションビデオであったような家族で使うという使い方が可能になっていると思います。
Amazon Echoの音声認識の精度はSiriやGoogleに比べてどうか?
Amazon Echo は使われ方を限定したことによってスムーズに人間の喋ったことを聞く、返事をするということが可能になっています。しかし、音声認識そのものはどうでしょうか。つまり、自由に喋った内容をどれだけ正確に認識するかという点です。
これは、自分が非ネイティブで相当日本語訛りのある英語をしゃべっているということもあって正確なことは言えないのですが、訛りのある英語を認識するということに限って言えば全体の印象としては最近の OK Google に劣ると感じました。
Amazon Echo のアプリからはすべての会話の記録が見られるのですが、自由に喋った内容を認識した結果を見ると結構間違えていることがわかります。実際、Amazon Echo アプリのなかに音声認識のトレーニングメニューが用意されている点も、Google などがすでに得られているような音声サンプルがなく、ユーザーにかなり頼らないといけない証拠と言えると思います。
Echoアプリの認識履歴。自由音声入力をしたあとにここを見ると、Echoがどう認識したのかがわかるということですね。 |
実際の用途では自由な文で頼むことはあまりなく、再生してほしい音楽のジャンルや、アーティストの名前さえ認識されれば問題ないのでそこまで実用上問題があるわけではないのですが、任意の単語を聞き取らせる必要のある Shopping List や Todo List といった機能は少なくとも訛りのある英語では使いものになりません。
しかし、ネイティブであれば自由な文章の認識が必要なこのようなサービスでも問題なく使えると思います。
Amazon Echoの機能追加
Amazon Echo には様々なサービスが導入され、本体が届いてからも数週間ごとに「新しいサービスが増えました」というメールが Amazon から届いています。現在はいろいろなサードパーティーサービスと連携させることができ、ベルキンのホームオートメーションプラットホーム『WeMo』 の電源スイッチをコントロールしたり、Google カレンダーと連携して予定を聞くこともできるようになりました。
その中で基本的な機能なのですが、(そしてこれは Siri などでも多分最も使われた機能だと思うのですが)タイマーの設定が便利です。特に手がすぐには使えない時のキッチンタイマーとしてとても便利なのですが。惜しむらくはタイマーのスロットが1つだけなのが残念です。
たとえば、Amazonライブラリから呼び出せるものでもこんな感じ。そのほかIFTTTとの連携や、文中でも言及のあるベルキン『WeMo』との連携など、機能が徐々に追加/更新されていくのがクラウド時代のハードウェアらしい部分です。 |
Googleカレンダーとの連携は朝起きてから着替えつつ、“Alexa, do I have meetings today?” みたいな聞き方に答えてくれるので朝のながら作業で便利です。こういった使い方はやはり携帯電話にきちっと話しかける必要のある Siri や OK Google と比べて、Amazon Echo の利点だと感じました。
今後もSDKの公開など、対応サービスが増えるだろうと期待しています。
Amazon Echo のハードウェア
●Bluetoothペアリング
実は、Amazon Echo はハードウェアとしてみると、Siri や OK Google といったパーソナルアシスタントの商品というよりも、実際は Bluetooth スピーカーとして見たほうが正解かもしれません。
Amazon Echo に “Alexa, pair mobile devices” と喋ると iPhone や Android, その他 Bluetooth 対応の携帯電話やコンピュータとペアリングができるようになります。Bluetooth 機器から Echo-XXXX (ランダムな固有のID) を選べばペアリング完了。“Connected to Bluetooth” と教えてくれます。
以降は Bluetooth 機器や Amazon Echo に “Alexa, connect my phone” などと喋ることで必要なときに接続切断が可能になります。接続切断はわりとスムーズで、他のBluetooth スピーカーと同様に必要なときにつないで携帯から音楽再生という感じに使うことができると思います。
Bluetooth 接続はほかの再生より優先されるので、すでに “Alexa, play music” と頼んでいてもその音楽の再生は止まります。
●スピーカーの音質や音量
Alexaが返答するなどの動作中は上部のリングが光ります。 |
これは好みが別れると思うのではっきりとしたことは言えませんが、リビングにおいてなんとなく音楽を流しておくといった用途にはまったく問題ない音質や音量があります。多少人数の多いホームパーティーで騒がしいときでも問題ないでしょう。しかし、屋外ではそもそも電源が必要ですから利用は難しいと思います。
●製品としての完成度
Amazon Echo 本体にはほとんどボタンの類はありません。上部に音声認識の開始と禁止ボタンがあるのみです。
ほぼ全ての操作は音声経由で行えますが、一部の操作、たとえばサードパーティーのサービスとの連携は携帯電話やブラウザの Amazon Echo アプリから行うことになります。しかし、このアプリの出来がイマイチで残念です。
たとえば、現状ではアプリがログイン状態を保持してくれないのでかなりの頻度で使いはじめる前にログインが必要です。
また、何らかの原因で、例えば Wi-Fi やネットワークの問題なので一旦インターネットとの接続が途絶えると再開させるのにコンセントの抜き差しが必要な時がありこのような点でもまだ改善が必要そうでした。
Amazon Echo は買いなのか?180ドルという価格をどうみるか
Amazon Prime 会員の事前予約時の値段は199ドル だったのですが、当初100ドル引きのキャンペーンがあったので、実際の購入価格は99ドルでした。現在一般に発売されている値段は180ドル (正確には179.99ドル) と設定されています。
Amazon Echo を Bluetoothスピーカーとして見るとポータブルではない点などを考えると180ドルは多少高いと感じます。しかし音楽プレイヤー全体としてみたときの音声による操作などを含めるととても高いという値段設定ではないでしょう。またパーソナル、ファミリーアシスタントとしての機能を考慮すれば納得できなくはない値段かもしれません。
個人的には音楽プレイヤーとして、その他タイマーやちょっとした事を聞く事に活用できていて、$99 という値段に対して概ね満足しています。
現状の製品の機能、値段を総合すると、英語に不安がない場合や未来的な体験ができるという点では180ドルは多少高いですが、買いと言えると思います。しかし、英語の音声認識の問題、そもそも英語で操作しなくてはならないという点において日本語ネイティブの視点からはまだ早い製品でしょう。
以上、サンフランシスコから Amazon Echo のユーザーレポートでした!
筆者紹介
丹羽善将
2010年に渡米、サンフランシスコ在住のソフトウエアエンジニア。Twitterアカウントは@niw。
●関連サイト
Amazon Echo製品ページ(英語)
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