写真:Luke Anderson |
6月4日は記念すべき日だ。「オクトキャットの日」として休みにしよう。
世界970万人に愛されるソフトウェア開発共有サービス『GitHub』(ギットハブ)日本法人が出来たのであった。
ギットハブはもともとエンジニアが開発しやすい環境をつくろうと2008年に始まり、グローバルなサービスに成長した。ちなみに、アメリカのホワイトハウスもギットハブの公式アカウントを取得している。
「日本に来られてうれしい。日本はオープンソースコミュニティーが生き生きしているからだ。ギットハブを活用している国としてもトップ10に入っている」
ギットハブのクリス・ワンストラスCEOはうれしそうに言った。
日本のユーザーコミュニティーは世界トップ5に入るほどの盛況ぶり。初の海外展開先に日本を選んだ理由も「そこにコミュニティーがあったから」とシンプルだ。
「すでに日本に存在があったものと考えている。どこに展開しようかと考えるより先に、すでに大きなコミュニティーがあったんだ」(ワンストラトスCEO)
ギットハブ クリス・ワンストラスCEO |
もともとギットハブそのものが日本生まれのオープンソース言語Rubyで書かれていることもあって、日本はなじみ深い存在だったらしい。ユーザーが半ば勝手に“宣伝”してくれた日本での展開は、なかば自然のものだったのである。
ちなみにギットハブ・ジャパンのオフィスは東京都港区芝大門。畳の部屋もあるそうでなかなか寝心地がよさそうだ。あとは猫でもいれば完璧だ。
●肝はギットハブエンタープライズ
さて、ギットハブはいったいどうやって儲けているのか。
無料で使えるオープンソースコミュニティーとして始まったギットハブは、IT企業の中でも使えるように企業向けのエンタープライズ版を運営している。今回日本上陸したのは事実上エンタープライズであるとも言える。
今までもエンタープライズは使われていたが、日本法人ができたことでより使いやすくなる。具体的には今まで英語しかなかったテクニカルサポートに日本語が増え、支払い方法がドルだったところに円が追加される。
ギットハブ日本法人の堀江大輔代表は「すでにヤフー、サイバーエージェント、DeNA、GREE、クックパッド、日立システムズなどが活用している」と胸を張る。ちなみに堀江代表は元クックパッド国際事業部のバイスプレジデントだ。
ギットハブ・ジャパン堀江大輔代表 |
無料版があるのになぜエンタープライズ版を使う必要があるのか。
ギットハブそのものはエンジニアに広く知られたサービスだが、そのまま会社の仕事に持ちこむのは厄介だ。社内のデータをクラウドにのせて作業するのはいかがなものかという、社内のデータセキュリティー設計上の問題がある。
(運用上は問題がなくてもコンプライアンスで話が通らない話はよくある、たぶん開発環境や言語そのものであっても)
しかしギットハブが便利なことは現場のエンジニア社員の方がよく知っている。そこでオンプレミス、社内のサーバーに組み込む形で使えるエンタープライズ版のギットハブを年額いくらで使う会社が増えてきたという話なのだ。
仲良しの2人 |
●日立、ヤフーが効果に驚く
日立システムズの伊勢正浩氏も同じ課題から導入をためらっていたが、半年だけ試してみたところ、その効果におどろいたという。
「たとえば(コードの)レビュー依頼をするとき、直接相手にレビューを依頼すると時間が取れないときがあったが、それがウェブシステムだけで出来るようになる。また、プルリクエストを出したとき、リポジトリ(ファイルやディレクトリの状態を記録する保存場所)にかならずソースを格納するということを義務づけることができるようになった」
まずは社内でSaaS開発に活用したいと伊勢氏。のちのちはクライアント付きのシステム開発でも使えるようにしたいと伸びやかに言う。
またヤフーでは現在、社内数千人のエンジニアとデザイナー全員がエンタープライズ版を使えるような環境を整えている。ヤフーの横山賢太郎氏は導入に踏みきる前から、さまざまなソースコード管理ツールを試していた。
「2000年代当初からCVSやSubversionを適時使ってきた。時代には合っていたが機能的には満足できなかった。そのうちGit(ギット)が出てきた。ギットはたしかに高機能だったが、高機能ゆえにすべての開発者が使えるほど簡単ではなかった」
その後、2012年4月の社内体制変更に伴ったパイロットプロジェクトを立ち上げ。そこでギットハブを試験導入した。順調にユーザーが増え、ある時期からどうせならもっと使ってもらおうというので全員が使える状況まで持っていった。
「ギットの強力な機能の恩恵に預かりながら、操作は簡単。それに、オープンソース文化から出てきたというところもあって、もともと社内にユーザーが多かった。社内で使えるようにすれば、エンジニアのツールの使い分けも避けられる」
ヤフーとしては今後、国内でも有数のギットハブユーザー企業として、密に連携をとりながら発展に寄与できれば、という話であった。
GitHub for Windows |
●ギットハブは新しい仕事のかたち
ギットハブが会社として面白いのは、300人いる社員の7割がリモートで勤めていること。しかも、ほとんどのコミュニケーションがギットハブ上ということだ。
「法務の社員がギットハブでコラボレーションを作りあげている。マーケティング資料もそう。場所も時間も関係なく、世界中どこにいても仕事ができる」
ギットハブ・ジャパンの堀江代表は言う。
「ギットハブはソフトウェア技術者の問題を解決するため生まれたサービスだが、そもそも扱っているのはテキストだ。ソフトと関係ないさまざまなプロジェクトを共有できる。開発者やデザイナーに限定せず、オープンソースのコラボスタイル、ワークフローを啓蒙していくことで、よりハッピーに、楽しく仕事や作業ができるスタイルを実現できるようにしたい」
サポートも営業も法務も、みんなプロジェクト単位で話ができて、当たり前のようにコードも読める。なるほど、「やがてすべての会社がソフト会社になる」とワンストラトスCEOは予言していたが、あらゆる点で先をゆくワークスタイルとはこういうものなのねと、驚きつつも納得させられるところがあった。
そういえばわがKADOKAWAも新入社員にプログラム言語を教える計画があると言っていたような。そのうちギットハブも入れるんじゃなかろうか。
最後に、日本上陸記念としてギットハブのかわいいキャラクター、オクトキャット(たこねこ?)のクッキーをいただいた。これをクリス・ワンストラトスCEOにかじるふりをしてもらい、かわいい写真を撮ろうとしたのだが……
ジャック・ニコルソン(うそ) |
完全に『シャイニング』になってしまった。オクトキャット記念日に免じて許して。
●関連サイト
GitHub
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1,300円
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580円
※お詫びと訂正:「惜しい」という指摘をいただき、Ruby on RailsをRubyに訂正いたしました。たいへん失礼いたしました。(4日19時)
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