アジアのアプリ市場に詳しいアドイノベーションの石森博光代表による最新レポート。今回は特別編として、中国のオタク層に刺さった日本でも人気の『崩壊学園』運営へのインタビューをお届けします。
前回の記事、「ここが日本と違ってる 中国ゲームユーザーの傾向と対策 ~成功の鍵を握るのは2億人のオタク層か~」では、“中国ゲームユーザーの傾向と対策”について分析しました。今回は前回の記事で取りあげた『崩壊学園』をリリースするmiHoYoにインタビューを敢行。“技術オタクが世界を救う”という信念で活動する同社のキーマンに中国と日本のゲーム市場の違いを中国のデベロッパーならではの視点で語ってもらいました。
秋葉原にある日本支社オフィスにて、代表取締役の李思硕さん(左)と広告プロデューサーの陈昊杰さん(右)に話をうかがった。お二人とも日本アニメの超オタクなので、日本語はペラペラ。 |
●中二病とテキトーがウリになっている会社です
──本日はお時間をいただき、ありがとうございます。miHoYoさんは中国発のスマートフォン向けゲーム『崩壊学園』のヒットで一躍注目されるデベロッパーとなりましたが、元々は本社が中国ですし、日本ではまだmiHoYoという会社を知らない人も多いと思います。まずはmiHoYoという会社について説明していただけますか?
李:miHoYoは2011年に上海交通大学の院生3人が立ち上げた会社です。当時は同人ゲームのサークル的なノリで『Fly me to the moon』という同人ゲームを作っていたのですが、やがて「同人ゲームができたから会社を立ち上げよう!」という……勢いというか、比較的テキトーに会社を設立してから本格的にゲーム事業を行って今に至ったという感じです。元々私が本社の現CEOと知り合ったのが同人ゲームのQQ(※1)グループの中でしたし(笑)。
※1 総アカウント数10億、アクティブユーザー5億人を誇る、中国のTENCENTによる多機能インスタントメッセンジャーソフト。
──同人ゲームサークルの延長のような形で会社を設立したわけですね。
李:日本だとTYPE-MOONさん(※2)に似たような感じがしますね。日本進出のきっかけですが、元々『崩壊学園』シリーズは日本での配信を念頭に置いて作ったものなんです。それで、韓国や欧米、東南アジアは現地のパブリッシャーに任せていたのですが、日本だけはどうしても自分たちの手でやりたいと。やはり自分が日本の文化に非常に影響を受けたこともあり、“日本のカルチャーを取り入れた作品が日本人に認められるか”という挑戦というか、自分の夢をかなえたい、というところで、2014年の夏に日本法人の設立が決定、今年の2月に日本法人を立ち上げて3月に『崩壊学園』をリリースしました。
※2 日本の同人ソフトサークルおよび有限会社ノーツのアダルトゲームブランド。『Fate/stay night』以降は活動の場を商業に移している。
陳:……で、miHoYoがどんな会社か?と問われると、中二病とオタクの会社です。
──(笑)
李:CEOのメールの署名ですが、名前の後ろに(中二)って書いています。まぁそれは冗談でしょうけど(笑)。プロデューサーが中二病なのは社内ではもはや共通認識になっていまして。特に『新世紀エヴァンゲリオン』がとても好きです。
陳:だから同人時代のゲームタイトルも『Fly me to the moon』(※3)という……。
※3 『新世紀エヴァンゲリオン』TVシリーズのエンディングテーマでジャズのスタンダードナンバー『Fly me to the moon』が使われていた。
──……あっ、そういうことなんですね!
李:はい(笑)。『崩壊学園』では紫とオレンジが多く使われている色なんですけど、これはエヴァンゲリオンの色なんです。念のため私が「これ、エヴァンゲリオンぽいな」って聞いたら「そうだよ」っていう……そんな、中二病とテキトーがウリになっている会社ですね。
──そんなエヴァ愛に満ち満ちた『崩壊学園』ですが、そもそも開発の発端は?
李:やはり最初は作品の世界観ですね(※4)。私が企画を発案したわけではないので正確なことは言えませんが、おそらく、どうしてもこういう世界観、こういうキャラ、こういうストーリーの作品を作りたいから、シリーズが続いているんだと思います。実は『Fly me to the moon』のときからずっと主人公は変わっていないんですよ。最初の作品から『崩壊学園』(日本では未リリース)、『崩壊学園2』と主人公はすべて同じです。たぶん、世界観を確立したうえで、その中でおもしろいゲームを表現したかったのかなと思います。
※4 世界観については『崩壊学園』公式サイトのガイダンスにある“「崩壊学園」の世界設定は、近未来の学園都市。アクションゲームとして、数百を超える舞台、多種多様な装備・衣装の組合せ、更に豪華な声優陣による演出、これこそ我々が本気の証。”を参照のこと。
──え!? まったく同じ人間なのですか?
陳:一緒です。キアナです。同一人物です。
miHoYoのこれまでのタイトルは、すべてキアナ・カスラナが主人公。それは当然次回作でも……? |
●「もう全部女の子にするしかない」
──世界観といえば『崩壊学園』のゾンビは面白いですよね。普通、ゾンビは怖くておどろおどろしいイメージがあると思うんですけど、本作のゾンビはどれも可愛くて、しかもバリエーションも豊富で……すごくニコニコしている元気なゾンビとか、ダッシュで駆けてくるゾンビとか、もはやゾンビに見えないキャラクターとかたくさんいますが、この発想はどうやって思いついたのでしょう?
李:あらゆるゾンビが襲ってくるというコンセプト自体は漫画から影響を受けたものなんですけど、その漫画もゾンビが気持ち悪い描写だったんですね。そこで「もうちょっと可愛くしたらどうなるか?」という疑問が浮かび上がり、「もう全部女の子にするしかないな」という結論に至ったのではないかと思います。
陳:ちょっと系統が違いますが、『ポケモン』や『妖怪ウォッチ』などのわかりやすい可愛らしさからも少なからず影響を受けていると思います。
李:まぁ、シリアスではないですし、 “敵を可愛くする”というアイデアも違和感なくゲームに溶け込んでいると思います。
──そんなゾンビ娘もそうですが、日本のアニメやゲームのわかりやすいところから超マニアックなものまで、日本のオタクカルチャーへの愛とか敬意のようなものを随所からひしひしと感じます。開発の際にこだわった点があれば教えてください。
李:とにかくネタを入れすぎて、翻訳前は完全にネタゲーでしたね。
──日本のアニメやゲームといったものが中心ですか?
陳:もちろんそれもありますが、中国人にしかわからないネタもあります。それを日本向けにローカライズする際にどうやって訳せばいいか、ちょっと……いや結構苦労しましたね。
──ネタ出しは、社内スタッフみんなで行なったのですか?
李:はい。でも最初に作り上げたときは3、4人くらいしか開発スタッフがいなかったのでだいたいプランナーとエンジニアの2人で出しまくりましたね。そしてチームの拡大につれて、いろんな人からのネタを入れるようになって……でも最近のネタは新しいチームスタッフによるものです。ゲームに限らず、漫画(※5)のほうでもゲーム同様いろいろなネタを取り入れています。
※5 『崩壊学園』公式Twitterアカウントにて4コマ漫画が不定期連載中。
──ゲームそのものだけでなく、関連コンテンツにもしっかりネタを仕込んでいるわけですね。そんな『崩壊学園』ですが、大々的なプロモーションを行なわなかったにもかかわらず、AppStoreの売上ランキングにも顔を出すなど、セールス的には成功しているように映ります。その要因はどこにあると思いますか?
陳:世界観とゲームシステムが日本のユーザーにとって新鮮でおもしろいと感じてくれたのだと思います。特に、バトルの部分をとても高く評価していただいているようで「面白いゲームだな」という声をよく聞きます。あとはプロモーションの部分なのですけど、事前登録サイトで多くのユーザーさんに登録していただいて、その後でも引き続き遊んでいただいていますし、リリース後に本作を知ってダウンロードしていただいたユーザーさんにも、長く遊んでいただいている、というところが、プロモーションの成功というか、プロモーション全体として見て非常に効率が良かった点が一番大きかったと思います。
──継続率の高さは面白くて飽きさせないゲームシステムや先ほどおっしゃっていました豊富なネタによるところもあると思うんですけれど、崩壊娘のTwitterアカウント(※6)もかなり貢献しているのでは?
李:あー、あれはねぇ……結構嫌われていると聞いているんですけど(笑)。
──そうなんですか?
李:あれは、ごく一部のユーザーしか見てないんですけど、崩壊娘のアカウントに限らず他のいろんなところで崩壊学園の情報を見ていると思いますので、SNSを含めた各メディアへの露出で面白そうなゲームだと認識させて、実際に面白いと思わせたのかな?と思います。
──そのへんはリリース前から少しずつ情報を……。
李:そうです。やはり日本では今まで横スクロールのアクションゲームは結構少なかったので、新鮮さを強調してアピールできたのかなと思います。
──ここでマーケットについてお聞きしたいんですけど、李さんと陳さんから見た日本のアプリ市場の印象を、主観的な意見で構いませんのでお聞かせください。
李:最近ずっと思っているんですけれど、日本人のRPG好きがハンパないな、と。かつて日本で爆発的にヒットしたRPGが海外では全然売れなかったこともありましたが、日本人がRPG的な部分……時間をかけてキャラクターを強くしていく育成の要素を楽しむのが好まれる市場だな、と思っています。ストアの上位を見ると育成要素をウリにしているタイトルが多くて、日本のマーケットは、育成+UIなどのアート的な部分がとても強いと考えています。
陳:中国のアプリはアクション的な要素が大きくて、大体みんなターン制のRPGはほとんど遊びませんね。
李:なぜかというと、刺激が足りない。欧米のPCゲームとネットゲームの影響が強くて、ほとんどがそれらのゲームにあったアクションの要素や、リアルタイムにゲームに反映される要素に慣れちゃったからだと思います。いきなりターン制のバトルものを遊んでもピンとこないのでしょう。
陳:モバイルゲームでも同様に、アクション系のゲームやリアルタイムストラテジーのものが主流ですし、人気が出やすい傾向があると感じます。
李:今の中国のAppStoreの上位を見てもほとんどがアクション性のあるゲームということからもわかると思います。そういったゲームが追求している要素は、人と人の競争です。日本では比較的協力関係が大事だと思うんですけど、中国はどちらかというと競争が大事ですね。芯が強くて爽快感や支配欲に近い満足感、達成感なんかががあるかが非常に大きいと思います。
アクション性や爽快感、達成感といった中国ユーザーが好む要素に加え、スタイリッシュなアートワークやサウンドなど、日本のユーザーにも響く要素が『崩壊学園』にはある。 |
●中国ゲーム市場では、刺激、達成感、そしてアクション的要素が大事
──刺激、達成感、そしてアクション的要素が大事だと。
李:これは中国のプラットフォームと関係があって、中国にはGoogle playがなく、Androidはいくつかのサードパーティのプラットフォームが存在しますが、プラットフォーム側から見ると、タイトルリリースから1日、3日、1週間の残存率が高いかどうかがカギになります。高ければそのタイトルをプラットフォーム上でさらにプッシュしてくれ、低いとプッシュしてくれないので、中国のデベロッパーはリアルタイムのアクション性を採用したうえで、1週間以内に遊ぶであろう刺激ある要素をフィーチャーしてユーザーの満足感を高めているものがほとんどです。
──早い段階での数字が求められるわけですね。
李:例えば、レベル20になると新しいシステムが解放されて、レベル30になるとさらに新しいシステムが解放されて……というようにいくつかのシステムで構成されていて、プレイ時間に比例して新しいシステムでゲームが楽しめるようになっているものがほとんどです。『崩壊学園』だとボスクエストが解放されて、部活クエストが解放されて……という感じなんですが、でも日本のゲームだと、継続した新鮮さを与えることができないような作りのものがほとんどだと思います。
陳:ただし、こういうやり方だとどうしてもゲームの寿命を短くしている傾向があります。どちらかというと日本は長い時間をかけてじっくり育成を楽しみ、成長していく様に面白さを見出していて、かつグラフィックやUIなどのアートの部分が楽しめればなおさら、というのがあると思うんですけど、中国は短い時間で強い刺激を求める、いろんな要素が楽しめる、そして刺激を体験し終わったら次のゲームに行く……という大きな区別があるのかな、と思います。
──中国でリリースした日本のゲームがサービス終了するニュースを最近見かけます。日本のデベロッパーが中国であんまり成功していない理由は、そのへんにあるかもしれませんね。
李:両国ではユーザーの思考が全然違うということですね。日本のゲームではイベントという形で新しいクエストを開くことが多いと思うんですけど、中国のユーザーから見ると、劇的な変化もなく1週間同じことをやっているように感じられて辞めてしまうんじゃないかと思います。大体2週間似たようなクエストを続けていると(中国では)離脱してしまいます。
陳:根本的な運用に対する理解とゲームの作りが最初から異なっていて、日本のゲームが、中国のユーザーにとって刺激が弱いという点が大きいかなと考えます。
──それはもしかして、日本と中国それぞれの国内でのゲーム文化の歴史と関係している気がして、ちょっと興味深いですね。
李:日本のゲーム文化の歴史というと、1980年代のコンソールゲームの登場から始まり、『ドラゴンクエスト』や『ポケットモンスター』に代表される、じっくり時間をかけてストーリーを追いながら冒険のなかでキャラクターを育てていく正統派RPGがヒットしました。対する中国はゲームの歴史の始まりが遅く、2000年でようやくネットゲームが遊べるようになってから、一気にゲーム市場が拡大されていきましたが、主流が韓国や欧米で流行していたネットゲームだったと思います。それらは大体PvP、つまり人と人と競争の要素が強くて、かつアクションゲーム、リアルタイム性の高いものだったのですが、それらを一度プレイするとターン制のゲームはやろうと思わないでしょう。
──確かに2000年ごろですとFPSやRTSが全盛でしたね。
李:RTS、MMORPG、FPS、MOBA(※7)……。MOBAは中国で流行しましたね。5人対5人の対抗戦で、今で言うと『League of Legends』があるんですけど、ああいったゲームが中国で一番なじみがあり、ゲーム体験の土台になっています。ですので中国のユーザーから見ると、最初から『League of Legends』を遊んでいるので、日本の典型的なフィールド型のターン制RPGを見ても「おもしろそうだ」とは思いにくいと考えます。逆に日本のほうがコンソールの登場によってゲームの歴史が長く、ゲームにも慣れているため、ターン制のゲームをやっているなかで、いきなり『League of Legends』をプレイしても、これはこれでなかなか受け入れにくいんじゃないかと思います。そういった由来というか習慣のゲーム文化の部分で違うのだと思います。
※7 マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナの略。RTSにRPGの育成要素などを取り入れた対戦型のリアルタイムストラテジー。
──質問も終わりに近づいてきました。『崩壊学園』に続く作品の企画というのは……?
李:企画はもう立っていて現在開発中だと思います。内容について今言えることといえば、アクションゲームで……。
陳:あと、主人公も決まっています。
一同:(笑)
李:はい、キアナです(笑)。過去作の世界観を踏襲したもので、ゲームの雰囲気は『崩壊学園』に似ていると思います。
──開発は中国で行なわれているでしょうし、コメントは難しいと思いますが、リリースはどれくらいになると思いますか?
李:スケジュールはなんとも言えないんですけど、本社は年内にリリースできるだろうと言っていますけど、私は今年は出ないなと個人的に思っています。もちろん、中国でのリリースから一定のスパンを置いて日本でもリリースするつもりです。
──次回作も『崩壊学園』同様、ネタ満載作品になることを期待しています。では最後の質問なんですけど、miHoYoさんの野望がありましたら教えてください。
李:本社の中二病のプロデューサーが冗談半分で話していたんですけど、「KADOKAWAを超える」という野望があるとかないとか……。
──この記事、KADOKAWAのサイトに掲載されるんですけど……。
一同:(爆笑)
李:宣戦布告とかそういう意味ではないんですけど(笑)、弊社はゲーム会社じゃなくてIP会社だとよく言われるんです。ゲームだけではなくて、あらゆるメディアに向けたコンテンツを創り出せる会社を目指しています。
■インタビューを終えて
今回のインタビューでは、オタクを自認している彼らならではの、ユーザー寄りな目線で自社タイトルの開発に取り組む姿勢と情熱、そして日本と中国のゲーム市場に対する冷静な分析眼がとても印象に残りました。特に日中のゲーム文化の違いは、日本発のゲームが中国で成功しにくい現状を読み取るヒントとして非常に興味深かったです。
『崩壊学園』を起動するとmiHoYoのロゴの下に “Tech Otakus Save The World”の文字が現れます。自らのオタクっぷりを冗談めかす照れ隠しの奥に、技術オタクとしての固い決意表明的なものを感じます。世界は救えないかもしれないけれど、中国の技術オタクが世界中のスマホユーザーにゲームの楽しさや面白さを伝道する未来がやってくるかもしれません。そんな感動や熱狂や興奮の燃料が日本のオタクカルチャーだと考えると、ちょっと感慨深いですね。
■著者経歴──石森博光(いしもりひろみつ) アドイノベーション株式会社の代表取締役社長。スマートフォンアプリに特化したマーケティング支援サービスを展開中。スマートフォン広告事業、メディアコンサルティング事業、アプリ分析ツール事業、パブリッシング事業を中国及びロシアを中心に世界展開しております。ビジョンは広く伝え、人を動かし、世の中をより良くすること。Twitter/FaceBook。 |
© miHoYo Co., Ltd.
お詫びと訂正:初出時、後編を予定とお伝えしておりましたが、本編のみの誤りでした。ここに訂正いたします。(6月3日14時)
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