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「いかにショップをコンビニ化するかが鍵」共通機種の多いドコモとauの夏モデル by石川温

2015年05月15日 19時00分更新

 5月13日、14日の2日連続で、ドコモとKDDIが夏商戦向け新商品・新サービス発表会を開催した。しかし、肝心の“新商品ラインアップ”は、どちらもサラッと紹介した程度に留まってしまい、「今度は何を買おうかな」と意気込んでいた人にとっては、かなりの肩すかしに終わった。

ドコモ au 2015年夏モデル
↑ドコモ2015年夏モデル
ドコモ au 2015年夏モデル
↑au2015年夏モデル

 確かに、スマホの機能的な進化は踊り場を迎えており、『Xperia Z4』や『Galaxy S6 edge』など両社でまったく同じモデルが当たり前になってきた。キャリアとしても「端末をアピールしたくても、強調できるところが見つからない」というのが本音なのだろう。

 そんななか両社が積極的に訴求したのがリアルとの連携サービスだ。端末だけでなく、スマホ向けサービスも革新的なものが出せなくなっている中、活路をリアルの世界に見い出したと言える。

 ドコモは、ポイントサービス“dポイント”を強化する。12月よりプラスチックカードとなる“dポイントカード”を発行。これまで携帯電話の料金払いなどで貯まっていたポイントが電話料金の支払いやPontaポイントとの相互交換、dポイント加盟店での支払いに利用できるようになった。

ドコモ au 2015年夏モデル
↑dポイントとdポイントカードを紹介するドコモの加藤社長。

 さらにローソンと手を組み、6月からはドコモのクレジットカードサービス“DCMX”、“DCMX mini”で支払えば3%割り引き、加えて1%ぶんのポイントも貯まり、12月からはdポイントカードを提示することでさらに1%のポイントが貯まるようになるという。

 ドコモがポイントサービスを強化する背景にあるのは、やはり競合他社を意識してことだろう。

 すでにKDDIは自社で独自に“au WALLET”を展開。ソフトバンクもTポイントカードをベースとしたサービスを提供している。KDDIはセブン&アイ・ホールディングスと仲がよく頻繁にポイントアップキャンペーンを実施しているし、ソフトバンクユーザーはTポイントが貯まるということもありファミリーマートに足繁く通う。

 大手コンビニチェーンのなかでは、すでにローソンしか残っていないし、ローソン側から見ても、組める相手はドコモしかいない。結果、出遅れたもの同士がタッグを組むことになった。ドコモの今回の取り組みはau WALLETなどの後追いにしか見えないが、結果的にドコモのポイントを持つ5400万人以上の顧客基盤とローソンの1万1000店舗が掛け合わせることで、強力なポイント経済圏が出来上がることになる。

ドコモ au 2015年夏モデル
↑ドコモとローソンのタッグで生まれる大きな経済基盤。

 一方、KDDIは“au WALLET マーケット”と呼ばれるサービスを発表した。リアル店舗のauショップで、米や水、肉、魚などの生活用品が買えるようになるという。ユーザーは店員と共にタブレットを操作して、買いたいものを選択。発注すると後日、買った商品が家に届くという。

ドコモ au 2015年夏モデル
↑新商品とともにau WALLETマーケットに意欲を見せるKDDIの田中社長(写真左)。

 KDDIが狙っているのは、パソコンやタブレット、スマホを操作して通信販売で購入できない人たちだという。我々のような層は、パソコンを操作してAmazonや楽天でクレジットカード番号を打ち込み、ものを買うというのは日常的な行為になっているが、そうした買い方をできない年配層などもまだまだ多い。ネット通販にデビューできないユーザー層をターゲットにタブレットを使い、ショップ店員が手取り足取り一緒になってネット通販を手伝うことを売りにしていくという。

 ここで、ユーザーがタブレットの操作に慣れて通販デビューができれば、その場でタブレットを購入して契約してくれるかもしれない。“ネット通販”をきっかけに契約が増えれば、キャリアショップにとってもハッピーだ。

ドコモ au 2015年夏モデル
↑au WALLETマーケットのイメージ。

 キャリアによるコマース分野への進出は、すでにドコモが“dマーケット”として展開している。また、ドコモショップでは同社が買収した野菜通販会社“らでぃっしゅぼーや”の商材を取り扱っていたりもする。

 「KDDIも“らでぃっしゅぼーや”の後追いか」と思われがちだが、KDDIの田中孝司社長は「それは考え方が甘い」と一蹴する。田中社長は「いろいろとセレクトできるのがショップの楽しみ」として、幅広い商材で買い物の楽しさを提案したいと考えているようだ。

 KDDIがauショップでの物販を始めるのは、「ユーザーにショップに来てもらいたい」という狙いがある。一般的にユーザーがショップに行くのは2〜3年に1回の機種変更時や故障への対応など、かなり限定的だ。しかし、魅力的な商品の物販を提供すれば、「買い物をしよう」と来店頻度が高まる可能性がある。来店すれば、さらに、新機種に乗り換えようという気持ちにもなるかもしれない。KDDIではau WALLETカードに、auショップに来店する度にポイントがもらえる“ガチャ”を提供しているが、さらに来店頻度を増やして、次の購買につなげたいのだろう。

沖縄セルラー
↑1日1回来店の度にポイントの貯まるauの“ガチャ”(写真は開始当初のもの)。

 まさにKDDIは物販を提供することで、auショップを“コンビニ化”させようとしているはずだ。一方で、ドコモとローソンが組んだことで、ローソンにはドコモの顧客が誘引されることになる。ローソンにとってみれば、ドコモユーザー向けの商材を売る可能性があるし、ローソンが小さなドコモショップのような存在にもなり得る。こちらはコンビニがキャリアショップ化する流れにあるし、将来的にはドコモショップがローソンの商材を扱うことで、ドコモショップが“コンビニ化”することもあり得るだろう。

ドコモ au 2015年夏モデル
↑ドコモショップとローソンでの相互送客の仕組みに期待を寄せるローソンの玉塚社長。

 一般的に考えると「キャリアショップで米や水を買うのか」という疑問が沸くが、おそらくKDDIとしては単に米や水と言った日用品だけを扱う気はないだろう。KDDIには、じぶん銀行やau損保、最近ではライフネット生命に資本提携するなど、金融分野にも強みを持っている。

 法律面での整備が必要になるだろうが、将来的にauショップでこうした金融・保険商品をau WALLETマーケットの延長線上で扱ってもおかしくはない。

 キャリアにはさまざまな子会社があり、ネットだけで売ってきたものを全国2400店舗あるキャリアショップで販売すれば、相当な売上げが期待できるはずだ。

 キャリアショップとしては、ここ最近はスマホの販売も伸び悩み、コンテンツやオプションの販売もやりづらい。そのうえ、店頭での対応が長時間化して、なかなか儲けにくいビジネスになりつつある。今後、クーリングオフも適用になれば、目も当てられない状態になる。

 キャリアショップとしても店員教育の負担も増してつらくはなるが、ここで新たな商材を扱って利益を確保することで何とか生き残りをかけたいのだろう。

 一方で、キャリアにとってみれば、全国に散らばるショップを有効活用できる道が見えてくる。今後「うちの商品を、ショップで売ってほしい」と名乗りを上げる企業も出てくるはずだ。キャリアはいかに魅力的なパートナーと組むかが重要になってくるし、他社に出し抜かれないように優良なパートナーとは迅速に提携していく必要があるだろう。

 スマホのラインアップが3社で同質化していくなか、これからはキャリアは“いかにショップをコンビニ化していくか”の勝負になっていくのかもしれない。

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