「これは厳しいな」
長らく待たされてきた日本通信とVAIOによる“VAIOスマホ発表会”。通常の発表会であれば、メディア陣は意気揚々と目をキラキラさせて、新製品を我先に触り、写真を撮りまくるのだが、今回の発表会は違った。誰もが表情を曇らせ、某アニメ番組の表現の様に顔に縦線が入っていたのだ。
冒頭の発言は、会場のどこからか聞こえて来たものだが、自分自身もまったく同じ感想を持っていた。
実際のところ、端末自体は悪くない。おそらく「日本通信のオリジナルスマホです」と言えば、なんら問題なかったろう。ネット上では「パナソニックの『ELUGA U2』と同じ」と言われているが、日本通信が自社ブランドで調達したのであれば、納得がいく。
しかし、今回は“VAIO”というブランドを掲げ、2014年12月の日経新聞によるリーク報道、それに続く両社の正式発表プレスリリース、さらに発表が遅れ“箱だけを発表する”というパフォーマンスによって、スマホファンの期待値は一気に上がった。その期待値に応えるようなスマホではなかったため、みんな、ずっこけたのだ。
正直言って、今回の発表はVAIOにとって、足元をすくわれかねない気がしてならない。ソニーから分社し、ゼロからつくったというノートパソコン『VAIO Z』は本当に素晴らしいと思う。記者会見で、日本企業による部材を紹介し、ノートパソコンの中でも、プレミアムなブランドとして、VAIOを売っていくという“本気”が伝わってきた。ノートパソコンは、競争が激しく、価格勝負になりがちだが、今回のVAIO Zは、本当に良い製品で「高くてもVAIOなら買う」というファンの気持ちに応えたはずだ。
まさに“VAIO=プレミアムブランド”という方程式にふさわしいノートパソコンに仕上がっていたと思う。VAIOスマホにも同じ思想を求めていたのだが、今回はデザイン面はVAIOが担当したものの、製造は日本通信ということで、そうした“ものづくりに対する気概”がまったく感じられない。
記者会見に参加していて「あのVAIO Zを発表した同じ会社なのか」と首をかしげたくなったほどだ。
VAIOとしては、日本通信と組んだ理由として「通信に関してはあまり詳しくない。そのため、日本通信と協業する道を選んだ。協業により6ヵ月という短い期間で製品化を実現できた」(VAIO幹部)と語っている。
しかし、ユーザーは何ヶ月で完成しようと関係のない話だ。それよりも、VAIOらしいクオリティ、他にはないデザインを求めているはずだ。VAIOと日本通信はもっと時間をかけて、いいものをつくるべきではなかったか。
会見で日本通信の三田聖二社長は「パソコンやスマホンはコモディティー化している。ハードでの差別化は難しい」というようなことを語っていたように思う。
しかし、VAIOという会社は、ノートパソコンというハードで差別化がしにくいなかでも、日本企業の部材を使い、最終的には長野・安曇野で完成させるという高品質を売りにしていくメーカーのはずだ。そこに、ユーザーは、ハードウェアにおける付加価値を感じ、高くてもVAIO Zを買うのだ。
そんな、ものづくりに対してこだわりのあるはずのVAIOという会社は、このVAIOスマホを出すことに躊躇することはなかったのか。
同じく日本通信に関しても、正直言って、がっかりしている。
日本通信は、ドコモとケンカし、MVNO市場を切り拓いてきた功労者だ。いま、盛り上がりを見せている格安スマホ市場は、日本通信がつくってきたといっても過言ではない。
三田社長やプレスリリースの“日本語が変”というのもご愛敬。ここ最近はシェア的には厳しいようだが、それでも日本通信はMVNO市場で大きな存在感があったはずだ。
常々、日本通信の幹部は「キャリアにはできないことをやるのがMVNOの使命」と明言してきた。しかし、MVNOが自ら、ブランドを利用して端末を調達し、一括価格よりも分割での購入に割安感を持たせて、24回払いでユーザーを2年間囲う、というのは、これまでキャリアがやってきたことに過ぎない。
「日本通信は結局、ちっちゃいキャリアになりたかったのか」という気がしてならないのだ。
VAIOスマホには日本通信が持つサービスを組み込むことができるようになっており「サイト上で、あとからサービスをインストールすることが出来るように仕込んである」と福田副社長は語る。
日本通信として、自社の持つサービスを端末に組み込むことで、競争の激しいMVNO市場で勝ち残ろうとしているし、これはキャリアにはできないことなのだろう。
しかし、日本通信がやりたいこと、差別化したいことと、VAIOスマホを欲しがるユーザーが求めるものとは、乖離しているような気がしてならないのだ。“VAIOブランド”を欲しがるユーザーは、そうしたサービスではなく、単に「格好良くて、人に自慢したくなるスマホ」をVAIOに求めているのではないだろうか。
ここ最近、Windows Phoneが盛り上がりを見せているだけに、VAIOには、心機一転、ぜひ『VAIO Z』のようなWindows Phoneをつくってもらいたいものだ。
■関連サイト
日本通信×VAIO 特設サイト
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります