■投資ファンドとソニーのタッグがスマートロックに参入
IoTで特に盛り上がっているのがホームオートメーション分野だ。スマホでカギを開閉する“スマートロック”はすでに米国で店頭販売されているほど。2014年12月クラウドファンディングに登場した『Qrio Smart Lock』は、国内でも大いに話題になった。受注数は1500台を超え、5月中に出荷予定だ。今回、開発やソニーとの連携について、Qrioの西條晋一氏に話を訊いた。
週刊アスキー3/3号 No1017(2月17日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第16回はソニーと共同でスマートロックを製品化したQrio(キュリオ)の西條晋一代表取締役に、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。
↑3月11日に開催されるセミナー“「IoT」の最前線~IoTプロダクトでヒットを生み出した3人と徹底討論!”は参加者枠を増やしてをまだまだ募集中。Qrioの西條晋一氏も登壇する。
↑2014年12月からクラウドファンディング“Makuake”に公開。現在、同サイトにて20%オフの1万2000円(税別)で先行予約販売を3月12日まで受付中だ。申し込み者には、5月中旬に出荷予定。
■マンションなどの賃貸住宅にも取り付けられる日本仕様のスマートロックを設計
伊藤 1月にCESの取材へ行ってきたのですが、スマートロックはあちこちで出展されてました。昨年は、スマートロックの展示はなかったのに。確実に普及してきている実感がありますね。
西條 今回のCESは、スマートホーム分野のエリアが充実していましたね。ロウズやボッシュなど大手のDIY企業もスマートデバイスを出していました。
伊藤 会場周辺の量販店でスマートロックが普通に売られていたのには衝撃を受けました。アップルストアでは、『August』を売ってますし。
西條 スマートロック自体は、2年前くらいからクラウドファンディングに出てきました。
伊藤 米国は、けっこうおもしろいアイデアをクラウドファンディングに立てていますよね。資金の集まり方も日本に比べるとひと桁多い。
西條 スマートロックで最も資金を集めたのは、『Lockitron』ですが、デリバリーの遅れなど問題も出ました。現在、デザインを刷新して、価格99ドルに下げた新製品が出ています。
伊藤 僕もひとつ買って帰りたかったのですが、『August』は約3万円するから、取り付けられなかったら困るなぁと。サイズも妙に大きくて。
西條 米国はサムターンの形状が大きいから、後付けタイプはおのずと本体も大きくなってしまいます。日本で使おうとすると、ドアノブにぶつかって取り付けられないことがあります。
伊藤 米国はDIY精神が旺盛だから、平気でドアに穴を開けて取り付けたりしちゃう。でも、日本ではそもそもマンションの規約でできませんよね。
西條 ですからQrioは、工具を使わないこと、ボディーをコンパクトにすること、の2つを担保しようと考えました。
伊藤 既存製品に比べて圧倒的にサイズが小さいですよね。どうしてできるんですか?
西條 メカを小さくすることと、電池やモーターの配置も工夫しています。米国のスマートロックのほとんどを取り寄せて、分解して調べたんですよ。他社製品を開けて見ると、中がスカスカだったりするんです。素人目にも、並び替えるだけで小さくできるのになぁって思いますよ。
伊藤 外装はアルミですか?
西條 試作品はアルミの深絞りでつくりました。しかし、コストと量産スピードの面から、ダイヤル部はアルミのまま、ほかはABS樹脂をアルミのように金属っぽくしたデザインに変更する予定です。表からの見た目は変わらず、電池カバーが外しやすくなります。
↑試作機はアルミの深絞り工法。製品ではダイヤル部がアルミ、下部はアルミふうのデザインに変更予定。『Xperia Z3』と比べても小型サイズとわかる。
伊藤 美しいですね。僕は発表後すぐに投資したので、1個届く予定です。ほとんどのドアに取り付けられるんでしょうか?
西條 日本は美和ロックというメーカーのシェアが高いので、合わせて一般的なドアならだいたい取り付けられます。ドアハンドルの上にロックが付いているケースもあるので、3センチほど下駄をはかせて底上げできるようになっています。
伊藤 自宅は2段階ロックなのですが、付けられますか?
西條 モーターが回れば大丈夫です。トルクは強くしてありますし、アプリで調整も可能です。
伊藤 後付けできて、工具を使わない前提なら、マンションや賃貸住宅でも使えますね。
↑既存のドアに工具なしで後付けできる。電池カバー部分を粘着シートで張り、サムターンカバーをかぶせて取り付ける。
西條 現状は太さの異なる2つの溝がありますが、将来的には型に合わせてデータをつくり、3Dプリンターで出力できるようにすれば、あらゆる形状のカギに合わせることも可能です。
伊藤 オープンイノベーション的に、その部分のデータだけ公開する手もありますね。
西條 実は、本当にそうしようかなと考えているんですよ。
伊藤 ソニーだから小さくできた、という秘密はありますか?
■原価からの逆算ではなく、消費者目線で価格を設定。量産効果で原価を下げていく
西條 ソニーにはいろんな部署があるので、製品をつくるときに部品のアタリがつけられるんです。たとえば、モーターであれば、どこのメーカーさんの、どういう種類があって、これがいい、みたいなノウハウがある。ベンチャーの場合、まずどんなパーツがあるかわからなかったり、卸値が高くて使えない、なんてよく聞きます。
伊藤 大量発注で安くなったりするのは有利ですね。
西條 Qrioのモーターは、価格を抑えつつも、トルクパワーがあり、省電力で小型のものを選ぶ必要がありました。電池にもこだわり、一眼レフに使われていた『CR123A 』を4本使っています。2本で約500日以上もち、切れると反対側の2本に切り替わります。
伊藤 なるほど。試作とは思えないほど洗練されてますね。ソニーの力を感じます。スマホとの通信はブルートゥースですか?
西條 WiFiの案もありましたが、セキュリティー上まだ不安なので、基本はブルートゥースです。低消費電力のブルートゥースLEに対応しています。
伊藤 カギの開閉は、近づいて端末側でアンロック操作をするとカチャッと開くんですか?
西條 アプリでカギを操作できる距離になると通知され、ボタンをタッチしてオンオフします。アプリの設定で近づいたら開き、離れたら閉まる、というふうにすることもできたら便利ですね。カギのかけ忘れのニーズが多いので、自動ロックの機能を付けて、10分後に自動で閉まるという設定にするとかも検討中です。
↑スマホアプリで玄関ドアを簡単にロック。Qrio本体とスマホはブルートゥースで通信。ロックのボタンをタッチして開閉する。
伊藤 オートロックのような。
西條 ただ、ホテルのように短時間でロックがかかると、締め出しが心配なので、付けるとしてもオプションでしょうね。
伊藤 利便性とセキュリティーのバランスは悩ましいですよね。
西條 Qrioの場合、製品にQRコードが付属しています。このコードで認証すると、親機と管理者権限の端末とのあいだに秘密キーを保有します。外部に飛ばすのは公開キーです。つまり、サーバー上には一切、カギの情報を置いていないのです。サーバー情報が流出してカギの情報が漏れる、というトラブルは起こり得ません。
伊藤 一時的に他人へカギの権利を渡したいときは、具体的にどうやるんでしょう? プロモーションビデオを見ると、“慣れ親しんだメッセンジャーでできる”とありますが。
西條 一時貸し用にユニークURLを発行して、受け取った人がクリックするとキーの権限が発行される仕組みです。
↑LINEやFacebookと連携したカギのシェア、メンバーごとの権限設定が可能。
伊藤 URLをアプリから発行して、メッセージアプリに貼りつけるということですか。
西條 この暗号キーの処理については、もともとソニーにケータイを使った認証方式の研究の成果物があったんです。
伊藤 まさにコラボの効用だ。ところで、Qrioの価格設定ですが、相場を考えると120ドルってすごく安くありません?
西條 ソニーの方の見立てでは、部品と組み立て工賃など合わせると、(海外製品は)原価で1万円を超えてしまいます。
伊藤 なのになぜ売値は定価で1万5000円に?
西條 通常、メーカーでは原価の3倍などに設定するんですが、今回のプロジェクトでは原価からではなく、消費者目線で価格を設定しました。一般的にカギを取り換える工賃を考えると、せいぜい1万5000円くらいでしょう。自分だったら、これ以上だと買わない。
伊藤 それはすごく納得ですね。僕も最初、QrioをMakuakeで見たとき「1万2000円だったら、とりあえず買っとくか」ってなりました。Augustを買わなかったのは、「取り付けられるのか?」という不安以上に価格が高かった。
西條 原価については、大量生産して下げていく方向です。
伊藤 開発は順調ですか。
西條 順調ですよ。5月に最初のロットを出荷する計画です。今回ソニーと組んでよかったのが、量産体制がキッチリ計画に組み込まれていることです。試作品の設計チームとは別に、量産のプロジェクトチームがあり、大量につくれるかどうかを検証しながら進めています。
伊藤 中国ではなく、ソニーの国内工場でつくるんですね。
西條 スピードとクオリティーの問題です。スタートアップでは、仕様変更が発生しやすく、海外生産にするとその対応に時間がかかる怖れがあるからです。こなれてきたら、海外の工場に変える可能性はあります。
■ソニーの工場を武器に、家庭に役立つIoT製品をQrioブランドで展開
伊藤 プロセスの中で、ソニーとはどのように役割分担されているんですか?
西條 役割分担は明確です。事業のオーナー権限はQrioにあります。製造とデザインはソニー、事業としての企画とマーケティング、事業計画、販売はQrioが担当します。仕様要件はわれわれがつくり、仕様書はソニーです。
伊藤 すごく能力の高い工場のようにソニーが機能してるんですね。ソニーにはこれまで、このような形での開発経験はあったんでしょうか?
西條 おそらく、初めてでしょうね。でもプロジェクトとしてのスピードは素晴らしいです。2014年6月に僕らがスマートロックを提案して、試作機ができたのが10月。それから平井社長にプレゼンし、12月中旬にオーケーが出て、2日後には会社をつくりました。
伊藤 早い! 現場サイドともスムーズにいきました?
西條 とてもうまくいっています。ソニーの構造改革で、社外と組んだり、若い人のアイデアを積極的に採用する動きがあるんです。今回のプロジェクトにも、最適な人材を優先的に振り分けてくれました。即席チームなのに、エース級がそろっているから、何もかもが早いんです。
伊藤 当面の販路は自社サイトでの直販が中心ですか?
西條 流通は課題ですね。ホームセンターに卸す場合、卸値は5割が相場です。これでは原価を割ってしまうから、このルートは使えない。量販店も難しい。
伊藤 報道では、ソニー不動産との絡みもウワサがありますが。
西條 はい。ソニー不動産とも話をしています。内見予約でキーを受け取るセルフ内見システムなど、可能性はありますね。
伊藤 今後は海外へも?
西條 まずは国内市場が中心ですが、グローバルな展開は夏以降に考えています。Qrioブランドでいくつか商品を増やして、来年はCESにも持っていこうと考えています。
伊藤 こういうIoT製品がこの先も出てくるんですね。
西條 そうですね。家庭内で役立つIoT製品をどんどんつくり、Qrioブランドで展開していきますよ。
Qrio株式会社 代表取締役
西條晋一
1996年早稲田大学法学部卒業後、伊藤忠商事を経て、2000年にサイバーエージェントに入社。数々の事業を立ち上げ、専務取締役として活躍。現在、ベンチャー投資会社WiL共同創業者COO。
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