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TwitterとSquareの創業者ジャック・ドーシーが語るモバイル決済、そして起業

■世界中をシンプルにする熱い38歳の挑戦
 今、モバイル決済分野に大きな注目が集まっている。Twitterの共同創業者で、2009年にモバイル端末でクレジットカード決済を実現するSquareを立ち上げたジャック・ドーシー氏は、この状況を冷静に見つめている。ドーシー氏のフォーカスは“決済”にあり、モバイル端末でも消費者でもない。誰でも簡単に決済ができるようになることが、Squareの出発点だ。2014年11月中旬、米サンフランシスコにあるSquare本社で、ジャック・ドーシー氏にSquareのビジョンから起業家精神まで話を聞いた。

ジャック・ドーシー

――Squareの土台となるビジョンは何か?

 売り手にとってコマース(商取引)を容易にすることだ。つまり、すぐにビジネスをスタートして成長できるツールを提供する。最初に提供した“Square Register”は商品の価格や在庫管理ができ、POSとして利用できるもので、アプリをスマートフォンやタブレットにダウンロードしてすぐにビジネスを始めることができる。現金のほか、導入が面倒なクレジット決済もSquareリーダーで対応できる。それだけでなく、売り上げに関するデータの収集と分析も可能で、自分たちのビジネスについて洞察を得ることができる。これにより、人気製品、優良顧客、天気が売り上げに与える影響などを知ることができ、よりよい意思決定につなげられる。

――小規模企業(スモールビジネス)がSquareの主な顧客だが、大規模企業向けの戦略は? 大手小売店にはすでに、1台でクレジットカード、デビットカード、NFC決済に対応する端末が導入されている。

 大企業での導入も増えている。米国ではスターバックス、ユニクロ、バーバリー、ゴディバなどで利用されている。既存の決済端末の置き換えではなく、付け加えとしての利用を狙う。店員が接客しながらその場でSquareで決済する、つまりPOSを顧客の近くに持っていくことができる。中規模企業では、拠点で利用されるなどの例がある。このように、規模の大小に関係なくSquareを利用してもらうことにフォーカスしている。

――Registerを中心に機能やサービスを進化させてきた。今後、どのような機能が登場するのか?

 顧客である事業主の成長を支援するツールの構築を進めていく。米国では先に、“Square Feedback”を開始した。送られてきたデジタルレシートからフィードバックを送ることができるツールだ。(一方的だった)レシートを顧客との会話に発展させられる。5月に米国で開始した“Square Capital”は(銀行で融資を受ける際に必要な面倒な手続きなしに)資金を前貸しするものだ。7500万ドルでスタートし、現在は1万5000ドルに拡大した。同じく新製品の“Square Appointments”は、マッサージやヘアーサロンが顧客の予約を受け付けるためのシステムだ。これら新製品は米国外でも展開したい。

――日本市場進出から1年が経過した。これまでの経過をどう評価している?

 導入数は公開できないが、順調だ。日本はクレジットカードの利用率が低い市場だが、海外からの観光客が日本でクレジットカードを使いたいといった際にスモールビジネスが対応できるようになった。われわれはクレジットカード決済端末だけではなく、フル機能を備えたPOSも提供する。純粋なキャッシュレジスターとしても利用でき、これは同様のサービスを提供する楽天やペイパルとの差別化になっている。

ジャック・ドーシー

↑社内にはSquareのリーダーやサービスを記したメモが展示。ツイッターも考案は手書きメモだった。

――FinTechと言われる金融系技術分野は今後どのように発展すると予想する? モバイル決済をみると、eBayがペイパル分社化を発表するなど活発に動いている。Squareが買収されるという憶測もあった。

 モバイル決済にフォーカスが移っている。Squareのようにクレジットカードを受け付けたり、モバイル端末をレジ代わりにする機能のほか、NFCを利用した決済もあり、個人間送金サービスも増えている。これらを利用することで事業主はさらにビジネスを成長できるだろう。

 Squareのフォーカスはレジ機能にある。売る側がさまざまな決済方法に対応できること、売り上げデータから洞察を得て自分たちのビジネスの理解促進を支援していく。

 われわれはずっと同じこと(モバイル決済)をやってきた。(モバイル決済に)急にスポットがあたったのは奇妙な気もする。だが、周囲が騒がしくなったからといって、市場が急に変わったわけではない。

――BtoBtoCでは、2014年5月に“Square Wallet”を打ち切り、“Square Order”を発表した。Square Walletで学んだことは? またOrderの利用はどのぐらいあるのか?

 われわれは常に学んでいる。売る側も利用する側もSquare Orderにメリットを見いだしており、利用は増えている。

 Square WalletとOrderの違いは、遠隔から決済ができること。たとえば、カプチーノを頼む場合、Walletではアプリから注文できても会計はレジに並ぶ必要があった。Orderの場合、決済も済ませられるので、レジに並ぶ必要がなくなる。

 対コンシューマー向け市場は今後大きく成長すると見ている。Orderは現在、米国のみの提供となるが、日本でも準備ができたら展開したい。

――Bitcoin、Apple Payなど決済の選択肢が増えている。Squareはどのように対応していく?

 Bitcoinはデジタル通貨の一例であり、今後他にもデジタル通貨が出てくるだろう。これは良いことだと思う。

 Squareの根本構想は、事業主があらゆる決済を受け付けられるようにすること。決済をどうするか考えることなく、グッズやサービスの提供に集中できる。買う側にしてみれば、自分が使いたい手段を利用できる。

 Bitcoinは、Registerを利用する事業者が簡単にオンラインで販売できる“Square Market”で対応を開始した。またApple Payについては、そのものよりもNFC対応を進めていく。具体的な計画については、まだ話せる段階にない。

――Twitter、Squareと立ち上げてきた。Squareの成功とは何か?

 3つある。ひとつ目は、世界中の起業家にサービスを提供すること。現在、Squareは米国、日本、カナダで展開しているが、世界中でSquareを利用できるようにしたい。2つ目は、Squareを利用する事業主に役立つ機能を提供すること。3つ目はSquareを利用する事業主の顧客(コンシューマー)にも便利な機能を提供すること。

 事業主の売り上げが増えることは、われわれの売り上げ増を意味する。たとえば、Square OrderやSquare Marketは顧客を増やすことにつながると期待している。顧客は「コーヒーが飲みたい」と思ったら店にいなくてもアプリを開いて、店に着く前にドリンクを注文できる。このようなチャンスをもっと増やしたい。

 さらに言えば、独立系の事業主のコミュニティーをつくりたい。Squareと一緒に育ち、われわれが提供する製品やサービスが事業主の役に立っているのか、適確かなどのフィードバックをもっと得たいと思っている。

――それが成功とするとして、いまどの段階にある?

 1%を到達したにすぎない。やるべきことはまだまだたくさんある。

ジャック・ドーシー

↑2014年8月~9月のある1日でのSquare利用数と決済規模を示すインフォグラフィックス。

――TwitterとSquareの共通点は?

 土台は共通している。Twitterはコミュニケーション、Squareはコマースだが、共に人間にとって必要だ。コマースは毎日発生しているし、コミュニケーションも必須だ。Twitterは政府も、大企業も、個人も意見を発することができる場所で、Squareは大企業でもスモールビジネスでも個人でも決済を可能にする。

――連続起業家として、Squareをある段階で辞めて新しい事業を立ち上げるようなことは?

 ノー。Squareを成功させたい。私の母親はスモールビジネスのオーナーで、スモールビジネスならではの問題を感じていた。これをよく知っているのが理由のひとつ。もうひとつの理由として、スモールビジネスこそフォーカスしたい(革新の余地がある)分野だし、彼らが生み出すイノベーションがわれわれには必要だ。このようなアイディアややる気のある起業家が、事業の本質ではなく直接関係ない決済で苦労すると成長できない。もっと顧客や事業にフォーカスできるように支援したい。

――何がモチベーションになっている?

 人々に力(パワー)を与える(=エンパワーする)ツールを与えたい。話すことかもしれないし、パッションを追求することかもしれない。Squareは(スモールビジネスの事業主が)パッションを追求するのを支援する。カフェを始めたい人、バーを始めたい人だけでなく、Squareで自分たちのCDを販売するミュージシャンもいる。チャリティーで利用する人もいる。クレジット決済は複雑で面倒でコストもかかるため、このように情熱を持っている人はこれまで決済が障害となり、コマースができずにいた。Squareはこれを解決し、エンパワーするツールを構築する。

――起業家に必要なものは情熱? フォーカス?

 自信だと思う。リスクをとる自信、そして自分がやろうとしていることをやりたいという自信。

 起業するとたくさんの「ノー」がある。Squareでも、多くの財務機関から「ノー」と言われた。落ち込むこともあるが、自分が構築しようとしていること、誰かに向かって作っているものがなぜ大切なのかという感覚と自信があれば、前に進むことができる。

ジャック・ドーシー

Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)
1976年11月19日生まれ。Twitter会長、SquareのCEOを務め、ウォルト・ディズニー・カンパニーの取締役にも就任。〝わびさび〞や日本の禅を大事にしている。

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