米国モバイル決済市場をめぐる連載も3回目。今回は売り手側に視点を変えて、スマートフォンやタブレットを決済処理端末として利用する処理分野について見てみたい。草分け的存在の“Square”、資金力とブランドを後ろ盾にするPayPalなどがしのぎを削る中、Amazonが参入してきたというのが構図だ。デモを見せてもらったSquareのソリューションを中心に、この分野の進化をみてみたい。
この分野を本格化させたのはSquareだ。Twitterの共同創業者ジャック・ドーシー氏が創業したSquareは、2010年に正方形のカードリーダーを発表した。スマートフォンのイヤフォンジャックに挿入すると、スマートフォンやタブレットが決済端末になるという発想だ。クレジットカード決済を受け入れるためにはカードの読み取り機などインフラ整備が必要で、個人商店など規模が小さな事業主にとってはコストと手間の負担が多い。Squareでは加盟店口座が不要、銀行口座と直結する。その手軽さと便利さが受けて、フードトラックやタクシーなどで広がっていった。Squareはそれを中核に、POSアプリ、在庫管理などのソフトウェアを強化している。
■オンラインをオフラインに誘導するPaypal Here
Squareのクレジットカードリーダーが白くて正方形であるのに対し、2013年3月に“Paypal Here”で参入したPaypalは青の三角形。Square同様にカードリーダーは無料で、決済の手数料で収益を得るというビジネスモデルだ。Squareは2.75%、Paypaly Hereは2.7%の手数料をとる。
SquareとPaypalはライバルではあるが、戦略は少し異なる。Paypalはオンライン決済からオフラインへの拡大を図っており、売り手だけでなく買い手(コンシューマー)向けのモバイル戦略も進めている。コンシューマー向けとしては、前回紹介したスターバックスのアプリのように、モバイルアプリと統合してPaypalによる支払いを可能にしており、PCでPaypalを使ってきたユーザーの移行につながっている。
↑PayPalは多くのモバイルサイトと統合戦略を進めている。スターバックスのアプリでもPayPalを利用してチャージできた。
↑PayPalのモバイルアプリ。PayPalでの決済を受け付けているショップの一覧が表示されている。
↑ショップのデジタルクーポン。Paypalで決済する際は下をスライドする。
↑PayPalアプリの利用履歴。
Paypalの親会社、eBayは9月末、Paypalを独立した企業として切り離す計画を発表した。今後、Paypalは売り手ではSquare、そして新参のAmazonなどと競合しつつ、コンシューマー向けではApple Payなどと顧客を取り合うことになりそうだ。
■スマホでオーダーして決済、お店では商品を受け取るだけのSquare
一方で、Squareのフォーカスはあくまでも売り手にある。拡大する事業の変遷をみるとわかるが、POSシステム“Square Register”では現金やチェック(小切手)も追跡できる。売り上げや在庫管理、デジタル/印刷ベースのレシートなどの機能も提供しており、「ビジネス全体をSquareで動かしてもらうことが目標」とSquareの広報は製品開発の方向性を説明する。実際、2014年に発表した機能もそれに沿ったものだ。3月に発表した“Square Capital”は顧客企業向けの融資プログラムで、5月には買い手が受け取ったデジタルレシートに対しフィードバックを送信できる“Square Feedback”を開始した。その後導入した“Square Appointments”は、顧客からの来店予約などの受付と情報共有ができるオンラインスケジュール機能だ。
同じく2014年リニューアルしたエンドユーザー向けのサービスも、Squareの顧客である事業主の顧客満足対策として提供するものだ。Squareは5月、2011年に導入した“Square Wallet”をアプリストアから削除すると同時に、“Square Order”をスタートした。Walletがアプリから注文して店舗に行き、名前を言うという流れだったのに対し、Orderでは決済も完了し、ショップに行って品を受け取るだけとなる。GPSを利用しており、店に着く頃には注文の品が用意されている。Walletとは異なり、決済のために列に並ぶ必要はない。
↑Square Orderの画面。店を選択すると、Square Orderで注文できるメニューが表示される。
↑注文して支払いができる。
↑注文したら、店の住所と店までの時間を知らせてくれる。注文した飲み物の準備ができたら、通知メッセージがきた。
↑iPadを装着してレジにできるSquare StandはBlue Bottle Coffeeなどで導入されている。
↑Square Feedbackでは電子レシートにフィードバックを送ることができる新サービス
Square、Paypal Hereのほか、米国の中小企業に人気のIntuitもモバイル装着型カードリーダーを提供している。そして注目は8月に“Amazon Local Register”で参入したAmazonだろう。Amazonらしく低価格を実現、手数料は2.5%とSquare、Paypal Hereより低いが、2016年1月まではキャンペーンにより1.75%となっている。
Square、Paypal HereともにBitcoinの受付も開始、SquareはApple PayなどのNFC決済に対応できるリーダーの開発も進めている。
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