タブレットの出荷台数が“落ち着いてきた”ことが話題となっています。
11月25日に米IDCが発表した2014年のタブレット市場規模予測では、出荷台数の伸び率が大幅に失速。その象徴として、iPadが初めて前年の出荷台数を下回る見込みとなることが明らかになりました。
↑筆者が滞在中のアイルランド・ダブリンにて。空港の免税エリアで発見したNexus 9。他にもソニーモバイルのXperia Z3 Compact、サムスンのGALAXY Tab S 8.4などが並んでいた。 |
なぜタブレットは急に売れなくなったのか、そしてその次には何がやってくるのでしょうか。
■買い換えサイクルの長期化とスマホ活用に原因か
タブレット市場全体の伸び率として、2013年は52.5%と大きく成長したのに対し、2014年はわずか7.2%にとどまる見込みとなっています。IDCはその原因として、タブレットの買い換えサイクルが3~4年に長期化していることや、スマホ利用の拡大を挙げています。
買い換えサイクルの長期化の一因には、iOS 8がiPad 2でも動作するように、iOSが古いデバイスをサポートし続けていることも挙げられています。動作が重かったり、Retinaモデルと比べて文字が荒いなど気になるところはあるものの、用途によってはまだまだ実用的です。
↑ダブリンのショッピング街、グラフトンストリートには多くのキャリア店舗が並ぶ。最大シェアを持つVodafone Irelandのお店では、iPadは依然として人気だった。ただVodafoneでは、独自ブランドの低価格スマホやタブレットにも力を入れている。 |
また、スマホで何でもできるようになり、タブレットを利用する機会が減っているとの指摘もあります。実際に筆者も、大画面のAndroidスマホにBluetoothキーボードを組み合わせてテキストを入力する機会が増えました。Kindleアプリで電子書籍を読むときでも、タブレットより軽くて疲れにくいと感じています。
一方で、複数のWebサイトを参照しながらドキュメントを作ったり、複雑なグラフィックやプログラムを作り込むときには、タブレットではなくPCが必要になります。
もちろん外出先で動画を見たいとか、お風呂タブレットなど、特定用途でタブレットは便利なものです。しかし大型スマホと2台持ちするかといえば、微妙なところでしょう。
■iOS版ATOKの開発は停滞
iPadについて、日本独自の事情として日本語入力の問題もあります。iPadの日本語入力はPCと比べて振る舞いが独特で、やや使いにくいのが現状です。
iPad版Officeが登場するなど、iPadのビジネス利用は便利になりつつあるものの、本格的な入力作業ができないという声は根強いものがあります。Windowsタブレットにキーボードを組み合わせたり、パナソニックやNECの軽量ノートPCが手放せないというユーザーも少なくありません。
12月2日に『ATOK 2015』を発表したジャストシステムでは、iOS 8から対応したサードパーティ製IMEとして、iOS版ATOKの開発を進めています。ただ、改善を続けているものの、iOSの仕様制限に阻まれ、思うような開発ができない状況が続いているとのことでした。
↑12月2日、ATOK 2015を発表するジャストシステム CPS事業部の下岡美由紀氏。 |
ATOKの開発チームは、なぜアップルを動かすことができないのか、もどかしい気持ちになっているユーザーも多いでしょう。ただ、実際には要望を挙げてもアップルからの返答はないとの実情を明かしています。たとえ大企業からの申し入れであっても、いわばiOSアプリを作っている個人開発者と同程度の扱いしか受けていない状態といえます。
たとえば、これがもしマイクロソフトなら、ジャストシステムほどの有力な開発元には国内の担当者がつき、しかるべきルートで本社とのパイプを作ってくれることが期待できます。このあたりはiPadの大きな弱点といえるかもしれません。
■Windowsタブレットのシェアは4.6%、国内との違いは?
Windowsタブレットについては、グローバルのタブレット市場でのシェアが、思いのほか小さい点が気になります。
2014年の出荷台数見込みは1090万台程度で、前年に比べれば67.3%増と大幅な伸びを示しているものの、シェアはわずかに4.6%。日本では年内に3分の1、2015年6月末には50%のシェアを目指すという、大胆な数値目標を日本マイクロソフトが打ち出しているのとは対照的です。
欧州のタブレット売り場を見てみると、ASUSやAcer、東芝などを中心にいくつかWindowsタブレットはあり、最近ではSurface売り場が拡大しているものの、日本よりはるかに選択肢が少ないのが実情です。タブレット市場で大きなシェアを持つのはアップルとサムスンですが、そのサムスンがWindowsタブレットに注力していないことも要因でしょう。
↑こちらはO2 Ireland。どのキャリア店舗でも低価格のLumiaシリーズは必ず置かれている。かつてはWindows Phoneとともに、サムスンやASUSのWindows RTタブレットが売られることもあったが、後継機種はない。 |
最近ではOSライセンス価格の引き下げやインテルの低価格Atomプロセッサーにより、安価なAndroidタブレットに対抗できるWindowsタブレットも増えています。ただ、タブレット市場がいちばん勢いに乗っていた時期に間に合わなかった、という印象もあります。
↑meteor(メテオ)は、かつて国営の電話会社だったEircomによるドコモ的な携帯電話会社。こういったキャリア店舗で存在感の低かったWindowsタブレットだが、ようやく低価格製品として『Linx Tab 7』が登場した。 |
↑英国で有名な独立系ショップ、Carphone Warehouseのアイルランド版。Lumia 530を2年契約で購入するともれなくXbox 360がもらえるという年末キャンペーンを展開していた。 |
■2 in 1の課題はWindows 8
その位置付けが中途半端になってきたタブレットは、今後どうなるのでしょうか。ひとつはノートPCとしても使える、2-in-1に期待したいところです。
しかしその出荷台数は2014年に870万台とまだ少なく、タブレットと2 in 1を合わせた市場の4%にとどまるとIDCは見ています。その大きな理由は、消費者がWindows 8に“ためらっている”からと指摘しています。
Surface Pro 3を含むWindowsベースの2 in 1は、ノートPCとして活用される機会が多く、タブレットとしての利用は限定的となっています。それならば最初からノートPCを買ったほうが、相対的に割高な2 in 1を購入するよりも経済的といえます。
2 in 1市場の拡大のためにはWindowsの“タブレット部分”の魅力が高まる必要があり、そのためには少なくとも『Windows 10』の登場を待つことになるでしょう。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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