米国のモバイル決済最新事情2014冬、前回は“Apple Pay”と“Google Wallet”を使ってみたレポートをお伝えした。順調なスタートを切っているApple Payだが、障害があるとすれば、利用できるショップをどこまで拡大できるかだろう。Appleは発表時に22万店と強調するが、これは全米の小売店の5%程度に過ぎない。さらには、Whole Foodsのように協力的な小売店ばかりではない。米国最大、さらには世界最大の小売店ウォルマートではApple Payは利用できないし、すぐに対応する気配もない。
■ウォルマート率いる小売り連合が立ち上げるモバイル決済サービス
というのも、小売店にしてみればクレジットカード決済に対する手数料はばかにならない。さらにはApple Pay、Google Walletなどの形でエコシステムを他社に牛耳られるのは穏やかな状態ではない。そこで米国の小売業は、モバイル決済エコシステムを構築することを目的に2011年、“Merchant Consumer Exchange(MCX)”を立ち上げた。主導するウォルマートのほか、Best Buy、GAP、Target、セブン-イレブンなど約50社が参加している。その中には、一度はApple Payを受け付けたがその後サポートを中止したドラッグストアのCVSとRite Aidの名前もある(2社はApple Payだけではなく、Google WalletとSoftcardも中止している)。
MCXが開発するモバイル決済システムが“CurrentC”だ。クレジットカードではなく銀行口座を紐づけるもので、端末側のサポートが必須となるNFCではなく、“Paycode”と呼ぶQRコードを利用する。利用の際はレジでアプリを開き、このコードを提示することになるようだ(ショップがQRコードを表示し、買い手がコードスキャナーでスキャンするケースもあるようだ)。現在、CurrentCアプリはiOSとAndroidで公開されているが、利用は招待制となっている。一般向けサービス開始は2015年前半といわれている。
MCXに参加する全小売りが全店舗でCurrentCを導入した場合、利用できる店舗は11万店舗。売上高にして1兆ドルをくだらないという。だがMCXがライバル視しているのはApple Payというよりもクレジットカードの手数料。今後、Apple Payにどう対応するのか(しないのか)はまだわからない。
■バーコードで決済、NFCインフラなしにモバイル決済を可能にするスターバックス
MCXがモデルとしているといわれるのが、スターバックスだ。全米に約1万2000店を持つスターバックスは、自分たちでエコシステムをつくりあげる戦略をとっている。
スターバックスはAndroid、iOS向けのアプリで顧客と直接関係を構築している。このアプリは、クレジットカードと紐づいたデジタルのプリベイドカードと考えるとわかりやすい。ショップで購入する際、物理的なプリペイドカードの代わりにデジタルで支払うことができる。チャージも簡単で、25ドル、50ドルなどと金額を選択して入金できる。
実際にスターバックスでアプリを利用してみた。ドリンクを注文、アプリを開いて“pay”を押すとバーコードが表示されるので、店員にみせる。店員がこれをスキャンすれば支払い完了。アプリで決済すると、ドリンク12杯ごとに1杯が無料になるのだが、このメリットのわかりやすさがスターバックスアプリの成功の理由のひとつと言われている。スターバックスによると、モバイルアプリを利用した決済は週700万回、金額にして全体の16%を占めるという。将来的には、アプリからドリンクの注文も可能にしていく計画もあるようだ。
↑スターバックスのモバイルアプリ。日本でもおなじみプリペイドカード(Starbucks Card)のデジタル版と思えばわかりやすい。
↑ショップで決済時に利用する際はアプリを開き、“Pay(支払う)”ボタンをクリックする。
↑バーコードを店員がスキャンして支払いが完了。
↑決済後に表示された取引完了画面。
↑スターバックスアプリのアカウントページ。無料ドリンクまであと11杯とある。
↑プリペイドのチャージはクレジットカードとPaypalに対応する。
スターバックスアプリは、購入時にアプリを開いて支払いボタンを押すというステップがあり、かざすだけのApple Payと比較するとスムーズではない。だがスターバックスでコーヒーを買うときと、スーパーで決済するときの体験は違う。決済後もドリンクが出てくるまで待つ必要があるスターバックスのステップは、決して大きな負担には感じないのではないか。
逆に、スターバックスのようにバーコードベースで行なうMCXのCurrentCの場合、レジの列が気になる小売店では面倒に感じるかもしれない。
なお、NFCやアプリなど新しい決済方法に対する小売り側の反応は分かれている。11月、サンフランシスコで開催されたイベントでは、Apple Payに早々に対応したAmerican Eagleの最高デジタル責任者のJoe Megibow氏は「新しい技術が顧客の利便性を改善するのであれば積極的に導入する」と述べた。一方で、MCXに参加せず、NFC決済にも対応していない大手スーパーSafewayのロイヤリティプログラム担当シニアバイスプレジデントのKeith Colbourn氏は「すぐに対応する必要はない。様子をみてから」とインフラ負担に慎重な姿勢を見せた。
11月前半に行なわれた調査によると、米国の成人男女のうちモバイルを利用して決済をしたことがあるという人は34%、約3人にひとりとなった。最もよく利用されているのはPaypalで51%、続いて銀行が提供するアプリ(21%)、Apple Payは登場後1ケ月足らずで10%。Google Walletは8%なので、すでにGoogle Walletを超えているという結果となった。利用にあたっての最大の懸念は“データセキュリティーとプライバシー”(28%)となっている。
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