フジテレビが2014年3月に開始したインターネット放送『フジテレビNEXTsmart』は、これまでCSなどで放送されていた番組をPCやタブレット、スマートフォンで見ることができるサービスです。さらにフジテレビは、新たに配信プラットフォームとしてマイクロソフトのクラウドサービスであるMicrosoft Azureを採用することを発表しました。
インターネット放送になぜAzureを採用したのか、インターネット放送の最新事情について聞いてきました。
■ストリーミング放送と相性の良いクラウド配信システム
地上波のテレビ放送では、視聴率が50%に達するような超人気番組であっても、映像が途切れたり、画質が落ちたりすることがありません。テレビ塔から飛んでくる電波を受信するという仕組み上、受け取る人数に制限がないのです。
しかしインターネット放送では、視聴者が増えれば増えるほど、サーバーやネットワークの負荷が増えていくという問題があります。インターネットでは視聴者ひとりひとりが個別にサーバーに接続し、動画をデジタルデータとして転送してもらう必要があるためです。
とはいえ、大量の視聴者が押し寄せても耐えられるサーバーや回線を確保しようとすると、かなりのコストがかかります。そして負荷の高い時間に合わせてインフラを構築すると、負荷の低い時間には余ってしまい、無駄が大きくなります。
このように負荷のかかり方に偏りがあるサービスに、Azureのようなクラウドは向いています。物理的なサーバーを購入することなく、10個や100個の仮想マシンを簡単に立ち上げたり、シャットダウンしたりすることができるためです。
■インターネット放送ながら、高い品質を実現
さて、フジテレビNEXTsmartでは、これまでのCS放送の内容をそのまま、インターネットで放送しています。筆者も3月から個人的に契約してF1グランプリの中継などを見ていますが、これが非常に安定している印象を受けました。
↑フジテレビNEXTsmartの概要。月額1200円と標準的な料金の動画配信サービスだが、非常に安定している印象がある。地上波のテレビのような感覚で番組に集中できる。 |
HD画質で2時間以上連続して再生しても、途中で止まったり、ブラウザーを読み込み直す必要がほとんどありません。引っかかることなくスムーズに再生されるため、思う存分、映像に没入できる体験を得られます。
この点についてはフジテレビも、「有料放送である以上、アクセスが集中して見られない、といったことがあってはならない」と、品質への徹底したこだわりをアピールしており、Azureの採用に1年以上もの準備期間を取っていることからも、その慎重さがうかがえます。
↑フジテレビジョン ペイTV事業部の窪田正利部長は、「有料放送である以上、安定した動画配信や冗長化が必要不可欠」とし、「有料コンテンツの充実により、同時に違法アップロードも減らしていきたい」と狙いを語った。 |
もうひとつのおもしろいのは、見たい番組があれば、その場で加入してすぐに見始めることができる、という点です。
これまでCS放送やケーブルテレビを受信するには、アンテナ工事やチューナーの購入が必要となっており、観たいときにすぐ観られないというもどかしさがありました。
しかしフジテレビNEXTsmartは、インターネットで申し込むだけで、すぐに視聴ができるようになっています。まさに、いま見たい番組があるのでその場で加入して視聴する、という使い方ができるわけです。
■最大で210万人の視聴者にも耐えるというAzure Media Services
10月1日からは、このフジテレビNEXTsmartをAzure上でエンコードし、ニコニコチャンネル向けに配信するというサービスが始まっています。
↑フジテレビNEXTsmartによるAzure利用の全体像。内部実装は、これまでに200社以上の動画配信を手がけてきた実績のある株式会社EVCが担当。フジテレビの高い要求を実現したという。 |
現在、インターネット上で動画を配信するためのプラットフォームは多数、存在しています。しかしYouTubeに代表される既存の動画サイトでは、ユーザー情報や広告表示といった、配信システムの大部分をYouTubeが押さえています。
これに対してAzureの映像配信サービス『Azure Media Services』では、映像配信に必要なコンポーネントを提供することに徹しています。これにより、Azureを使っているかどうか、視聴者は気にする必要がありません。
↑Azure Media Servicesの概要。コンポーネント単位での提供となるため、さまざまなカスタマイズが可能。YouTubeなどと異なり、自社ブランドで動画を配信したい事業者に便利なサービスだ。 |
フジテレビのような大きな放送事業者が、自社ブランドで展開する“オウンドメディア”を構築するためのプラットフォームに徹している点が、特徴といえます。また、信頼性の面でもソチオリンピックやFIFAワールドカップの中継でAzureは採用されており、最大で210万人の同時視聴に耐えた実績もあります。
↑Azure Media Servicesは、ソチオリンピックやFIFAワールドカップといった世界規模での動画配信にも活用されている。その最大視聴者数の記録は210万人とのこと。 |
この大規模配信を支える仕組みが、“Azure CDN”です。一般にCDNとは、ユーザーに近い場所にキャッシュ用のサーバーを置くことで、効率化を図る仕組みです。
現在、日本国内のAzureのデータセンターとしては東日本(埼玉)と西日本(大阪)の2カ所がありますが、CDNについてはデータセンターとは別の場所に存在しているとしています。マイクロソフトのサイトでは、東京と大阪が公表されています。
なお、Azureデータセンターの具体的な場所は非公開で、外から見てもわからないようになっているとのこと。意外な場所で、ひっそりと稼働しているものと考えられています。
■インターネット放送ならではの機能に期待
このように、これまでCSやケーブルテレビ向けだった番組がインターネットで観られるようになり、さらにAzureを利用することで柔軟にスケールできるようになるなど、フジテレビのインターネット放送には興味深い進化を遂げていることが分かりました。
また、一部のスポーツ中継では生放送後にオンデマンドで再生できる“見逃し配信”に対応するなど、CS放送にはない機能も追加されつつあります。
ただ、肝心の映像コンテンツについては、インターネットならではの工夫も期待したいところです。映像ソースさえあれば、F1で特定のドライバーのオンボード映像だけを見続けたり、サッカーでゴールキーパーの視点で見続ける、というマニアックな見方ができるようになります。さらには、アイドルグループのライブでは、自分が好きな“推しメン”だけをひたすら見たいという需要もあるとか。
↑日本マイクロソフトのAzure担当ソリューションスペシャリスト、飯田昌康氏。Azureをフル活用して、これまでにない動画配信サービスを実現してほしいと語った。特にスポーツ中継やアイドルのコンサートにおける視点切り替え機能は、期待大だ。 |
スマホやタブレットと見逃し配信を組み合わせれば、時間や場所を問わずオンデマンドに視聴できる環境が整いつつあります。その先には、見たいカメラの映像を視聴者側で自由に切り替えられる機能の実現に期待したいところです。
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