人生は無理ゲーである。そんな暗い気持ちがよぎったら、もう一度『イー・アル・カンフー2=イーガー皇帝の逆襲』をやり直すと良い。最初は「クリアなんて無理だ」と思ったゲームも努力と根性と諦めずにアレコレ試してみることで、ついにラスボスまで倒せるようになる。あの時の「とうとうオレはやった!」という気持ちを思い出せば大人になった今のつらく苦しい事も乗り越えられる! 寄る年波を自覚するだけで終わっても責任は取りませんが。
■イーガー皇帝の逆襲(1985年)
タイトル画面にも『Yie Ar KUNG~FU II』とあるように『イー・アル・カンフー』の続編にしてMSXオリジナルの名作アクションである。前作の敵“チャーハン一族”が主人公“李”に撲滅させられてから20年。唯一生き延びたチャーハン一族の1人が“イーガー皇帝”を名乗り、チャーハン一族を再建した。英雄“李”の一人息子“李英(リーヤング)”がチャーハン一族に立ち向かう!
ということで内容だが、前作で5人しかいなかった敵が今回は7人の武官とイーガー皇帝の合わせて8人に増え、さらに“小敵隊”という雑魚キャラまで盛り込まれている。各面はまず小敵隊が飛んでくる前哨戦から始まり、少し進むと各面の武官、すなわちボス戦となる。小敵隊はさほどの障害でもないが、後述する回復アイテムを入手するために粘っていると、攻避のタイミングを誤って逆にダメージを受けがちだったりする。また今回の各面の武官は前作よりも強い。そしてラスボスはかなり強い。前作同様に間合いがシビアで“近すぎず・遠すぎず”でないと攻撃が当たらないが、それ以上に間合いを見ての反撃がリアルに厳しく、格闘技経験の無い人は「なぜ俺の攻撃が当たらん」&「なぜ敵の攻撃が当たる!」と思うかもしれない。説明書には“流水”とあるが、連続攻撃を仕掛けてくると一気に体力を削られる。各面のある場所を攻撃すると中華そばが出現して数秒間無敵になるが、最初はそういった裏技を駆使してもなかなか倒しきれないだろう。
↑まずは前哨戦として小敵隊と対決。最初は楽なんだけど、だんだん難しくなってくる。3連編隊で来るのをやっつけると“ウーロン葉”が。人でなくブロックとかが飛んでくるステージもある。 |
ラスボスまで含めて考えるならば、恐らくコナミのMSXゲームでは最も難易度が高い部類の1本である。小敵隊を倒すことで得られる“ウーロン茶”による体力回復や、前作『イー・アル・カンフー』をスロット2に差し込むことによる“ご先祖の霊パワー”を使っても、ラスボス=イーガー皇帝の倒れた姿を見るのはかなり難しい。間合いを極めるだけではダメで、飛び道具“雷”を落としてくるのだが、これがホントにやっかいなのだ。難易度の高さでは『沙羅曼蛇』がよく言われるが、それ以上だという意見も聞く。では、1周クリアした者を見聞きしたことがないのか?と問われれば高難度ながらもさすがはコナミのMSXゲームだけに、「皇帝を倒した自慢話」はいくつも聞けた。しかも話が長い。そしてクリアした猛者達は異口同音に“屈指の名作”と褒めたたえるのだ。確かに名作なのは疑いようもないが、先の面に進めなかったユーザーは同じ感想にはならないだろう。思うに本当に格ゲーやシューティングゲームのバランス調整というのはどこに合わせるのか難しい問題である。なお「お前が下手なだけ」という少数意見は聞かないことにする。ああ、もう一度『イー・アル・カンフー』からやり直そうかしら。
↑無敵化アイテム“中華そば”登場。各面どうしたら出るのかとか、ぜひ思い出して欲しい。 |
さて本作には珍しく2本先取の対戦モードが盛り込まれている……のだが、敵の武官のうち1~3面のキャラと“李英”との対戦しかできない。しかも武官は3人とも遠隔攻撃が可能なのだ。いささか不公平を感じなくもないが、まあオマケ的な位置づけなのだろう。武官だけ画面の左右の端をワープできるなど謎の能力も追加されている。しかし、この対戦モードに対する不平不満はあまり耳にしない。対戦してくれる人がいなかったのか、あるいは不公平すぎて遊び込めなかったのか、おまけ的なものだから温かい目で見ていたのか……?
■激突ペナントレース2(1989年)
MSX界に旋風を巻き起こした前作『激ペナ』から約1年半後に登場した続編『激突ペナントレース2』、人呼んで『激ペナ2』。名作の完成度はさらに高くなり、ここにMSX最高峰の野球ゲームが登場したのである。
バージョンアップされた点としては、全方向にスムーズスクロールするようになった点が見た目にも大きい。MSX2は上下方向のスクロール機能しか持っておらず、前作もスタジアムの左右方向は画面切り替えだったのである。ただしMSX2には“画面位置調整機能”という、昔のモニター用に数ドットだけ上下左右に表示位置を調整できる機能がある。それと8ドット単位の文字表示を駆使して多少は滑らかにスクロールしているように見せるというアイデアを生み出した。まあ、ファミコンなどは最初から上下左右にスムーズスクロールしていたので、何がどう凄い技術なのかは勉強熱心なMSXユーザーにしか分からなかったのだが。
↑まずは野球場を選ぶ。んじゃ、みどりスタジアムで行くか。 |
それはさておき、『激ペナ2』はこのスクロール機能をはじめとしてプレイの快適さが大幅に引き上げられているのが最大の特徴である。投げる、打つ、走るといった基本的な動作はテンポよく決まり、操作性もよくなった。前作で1試合(9イニング)30分程度かかっていたものが15~20分で終わる。また、音楽、効果音、その他の演出などどこをとってもその完成度に疑いの余地は無い。バッターが打った時の“手応え”までも感じるという、いつものコナミマジックにも今回もまた感動した。前作の発売時点でもMSXにおける野球ゲームの最高峰だったのだが、激ペナ2の登場はまさに決定打となり、追随する野球ゲームを文字通り全て葬り去った。もっとも、その中には前作『激ペナ』も含まれており、大量に中古ショップへと流れ出す事態も引き起こしたのである……。
↑ワンアウト1塁3塁の大ピンチ。それにしても美しい画面だ。とてもSCREEN4とは思えない。 |
ゲームバランスはいつものコナミ作品らしく絶妙に調整されており、極めるとズルをしなくてもCPU戦ではほぼ負けなくなってしまうところまで習得可能。だがそこから熱いのが対戦とチームエディットで、MSX専門誌でのチーム対戦企画は『激ペナ1』から『激ペナ2』へとスムーズに移行し、長期間に渡って誌面を飾ったのであった。他には無い楽しみ方として“CPU VS CPU”の対戦を観戦するってのもあって、これもシミュレーションゲームみたいで楽しかったなぁ。飽きもせず勝手にペナントレースしたり、トーナメント大会したり。
さてこのゲームのスタッフは、後に『パワフルプロ野球』シリーズへと移行したことが語られている。今に続く『パワプロ』の操作系が『激ペナ2』の流れを汲んでいることは今もkonami.jpの“TOYの週刊パワフルレポート”から読むことができる。『激ペナ2』から25年、初代『パワプロ』こと『実況パワフルプロ野球'94』からもすでに20年、野球ゲームの定番の1つとして今年も『実況パワフルプロ野球2014』が発売中である。MSXの血を受け継いだ作品としてぜひチェックしてみて欲しい。
■コナミの新10倍カートリッジ(1988年)
これも“続編”扱いかよ!
ハイ、一応。
ということで『コナミのゲームを10倍たのしむカートリッジ』の続編……というか、まあ普通に言えばバージョンアップ版である。説明書には「『ゲームを10倍たのしむカートリッジ』に『SRAMバックアップ機能』と楽しさ爽やか『おたのしみ機能』を加えてますます充実した」新10倍カートリッジ、と妙な書き方をしている。特に「爽やか」のところが微妙にイミフだ。
具体的には『10倍』にあった“ステージ数設定”や“プレイヤー数設定機能”に加えて、“内蔵SRAMへのデータセーブ”、“フロッピーディスクへのデータ完全セーブ”、“シークレット機能”といったものを追加している。
↑セレクト画面ではおなじみのペンギンが。 |
内蔵SRAMへは、パッケージに“コナミのSRAM対応”と書かれたソフトでセーブ及びロードができる。時期的にはおおよそ『シャロム』以降のソフトで可能となっており、基本的にこの機能が使えるソフトはフロッピーディスクにもセーブできるので電池が切れても対応可能だ。
この“フロッピーディスクへの完全セーブ”は大きな機能追加の1つで、現在の状態をいつでもどこでもセーブできてしまう当時としては極めて強力なものだ。本来セーブ機能のない場所でも保存できてしまうので非常に便利。最もメリットが大きいのが『メタルギア』で、カセットテープへ限られた状態しかセーブできなかったこのゲームがディスクに対して自由に保存できるのは、ゲームを無駄な苦労無く楽しむ上でとても心強い。ただ、どのゲームでもセーブ・ロードする際には標準装備の機能よりもかなり時間がかかる。まあ、“力技”でやっているのでそこは仕方がないだろう。
シークレット機能は、もしやこれが「楽しさ爽やか」の根拠なのか、ゲーム開始時に“@”キーを押していると特殊なパスワードのヒントが見られる、というものだ。説明書によれば他にも『新10倍』がないと使えない機能を追加する予定だったようだが、ゲームの根幹に関わるような機能、例えばイベントデモが全部見れるというようなのが実装されることはなかったようである。
ちなみにこのカートリッジは前作『10倍カートリッジ』の完全上位互換というわけではなく、例えば『悪魔城ドラキュラ』のコンティニュー機能追加などはない。
↑おまけゲームが入っていて、テニスとホッケーの対戦ゲームだ。画面はホッケーだがあまりテニスと変わりばえしない。が、ゲーム自体はすこぶる面白い。シンプル・イズ・ベスト。 |
最後にちょっと手前ミソだが、この『新10倍』は今回の連載に大変な力となってくれた。だって『モピレンジャー』の50面とか、この歳になってからじゃとても最後までたどり着けませんもの(記事にはしなかったけど)!
他にも「記憶にはあるけど腕がなくて確認できない」なんてとき様々な便利機能にどれだけ助けられたか! むしろ25年後の今、この歳になってから再び「あの懐かしい場面が見たい」なんて時にこそ真の威力を発揮するのかもしれない。コナミがこれを予見して「こんなこともあろうか」とこのカートリッジを作ったのだとしたら恐ろしい“真田力”である。ともあれ当連載を支えた陰の功労者であることは間違いない。ありがとう、心からありがとう『新10倍カートリッジ』! って、まだ最終回じゃないぞ。だがしかし『コナミのMSXゲーム伝説』は次回で最終回なのだ。
※真田力:某ヤマトの某真田さんのように、まるで未来のことがわかっていたかのように備えている力。
(C)Konami Digital Entertainment
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ツイッたより(ツイッターのつぶやきをおたよりとして紹介します)
まかべひろし@sinpen さん
ロードファイターは、THE LINKSでの通信対戦(25年前だぜ!)がすごく思い出にある
――THE LINKSについては、以前に書いたこちらの記事(2013年07月16日)もご参照ください。『ロードファイター』も名前だけですが出てますよ。
NAK山@nak8801 さん
モアイやペンギンがどうやって麻雀牌を持ってるのか超気になってました。
――確かに。モアイはたぶん超常現象で、ペンギンはかわいいパワーで持っているんだと思います。案外普通に5本指がはえてたりして。
じゃ、またね!
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