日本マイクロソフトは10月23~24日の2日間、『The Microsoft Conference 2014』を東京都内のホテルで開催した。続報ではマイクロソフトの事例にみる「IoT」に迫ってみよう。
「Internet of Things(IoT)」とは?
最近、「Internet of Things(IoT)」という単語をよく耳にする。簡単にいえば、「これまで個別に動作していたような小さなデバイスやセンサーがネットワーク接続可能になり、インターネットを通じてデータを収集したり、管理できるようになる」という仕組みだ。これが示す応用範囲は非常に広く、例えば家庭やオフィスビルにあるすべての電子機器の情報を手元のスマートフォンで一元管理できたりする。より広範囲な事例では、街中に設置したセンサーを通して交通状況や天気・災害状況を集中的に把握したり、あるいは農業への応用で広大な農地をリアルタイムで管理したりといったことが試みられている。身近な例でいえば、歩数計や心拍計などで集めたデータをスマートフォンで管理したり……といったこともIoTの一部だといえる。
いわゆるマーケティング主導の「バズワード」と呼ばれるものの一種ではあるが、センサーや小型デバイスがより賢くなり、これらを集中管理しつつ、集めたデータを基にさまざまな分析を行う仕組みというのは、IoTというキーワードの存在に関係なく、今後数年から十年程度で、われわれにとって身近なものとなるだろう。現在、ITベンダー各社は自社の製品をIoTに何らかの形で絡め、将来有望な分野でのセールスを展開している状態というわけだ。例えばプロセッサメーカーであれば末端のセンサーデバイスや、データを集めて解析するデータセンター向けの製品をアピールし、ネットワーク製品ベンダーであればデバイス間をデータ中継する装置をアピールするといった具合だ。「ではMicrosoftは?」ということだが、同社はソフトウェアの企業であり、このIoTを構築するうえでの基盤を提供しようとしている。
↑「Internet of Things(IoT)」という単語を最近になり聞く機会が増えたが、具体的にどういうものなのだろうか? Microsoftが事例としてよく挙げているロンドン地下鉄の導入例をみていく。 |
IoTの具体例「地下鉄監視システム」
詳しい話は実際の事例を見るのが早いだろう。Microsoft Conferenceで紹介されたのは、「Underground」と呼ばれるロンドン地下鉄のIoT事例だ。下記のYouTubeビデオでも紹介されているが、ロンドン市内の地下鉄駅には要所要所にセンサーデバイスが張り巡らされており、駅構内の設備や列車の運行状況までを逐次監視している。この管理インターフェースはWindowsのストアアプリ風となっており、項目を選択していくごとに各路線や駅の細かい情報へとアクセスできる。例えば駅の情報にアクセスすると見取り図が表示され、ここでは監視対象となっているオブジェクトの各情報が一覧表示されている。何か異常や情報のアップデートがあれば、適時通知される仕組みだ。
この地下鉄監視システムでの大きな特徴の1つが「Asset Condition Monitoring System」と呼ばれる設備の稼働状況モニタリングシステムだ。例えばエスカレーターの振動データを定期的に収集しており、何らかの異常なパターンが検出されると、その旨を警告するようになっている。一般に、こうした監視システムの多くは「特定の“しきい値”を越えた段階で通知を行う」ようになっており、基本的にトラブルが発生する直前もしくは発生後での通知が行われる。だが、これではトラブルそのものを避けるのは難しく、今回のシステムでは「事前に危険な兆候を察知する」ことを目的としており、「異常が検知されたエスカレーター設備を人の移動が少ない時間に交換する」としておけば、ラッシュ時にトラブルが発生して駅がパニックになることも避けられる。これには大量のデータを収集して分析する仕組みが必要になるため、単なるセンサー監視では対応できない。「ビッグデータ解析」などとも呼ばれるが、現在話題になっているIoTの勘所はこのあたりにある。
↑ロンドン市内の地下鉄駅には要所要所にセンサーデバイスが張り巡らされており、駅構内の設備や列車の運行状況までを逐次監視している。 |
↑センサーデータを解析することで、単に「故障したことを検知」というだけでなく、エスカレーターの振動に関するデータから故障の前兆を予知し、ダウンタイムの減少や事故を未然に防ぐ試みが行われている。 |
↑ロンドン地下鉄は世界最古の地下鉄ということでも知られているように、とにかく設備が全体に古いほか、路線によっては「チューブ(Tube)」と呼ばれる非常に狭い口径のトンネルが地下の深い位置を走っており、写真のような非常に長いエスカレーターやエレベータが動作している。これらを適時監視することが人の流れをスムーズに保つコツとなる。 |
「Windows Azure」に情報を集積
Microsoft Conferenceではこのほか、竹中工務店のビル管理システムをIoTの事例として紹介している。温度計等の監視で空調を集中管理したりと、単一のコンソールでクラウドを通じて全国各地のデータにアクセスできる点を特徴とする。一般に、この手のビル管理システムの多くは現在「設備の集中管理によるエネルギー利用の効率化」に主な焦点が当てられているが、この竹中工務店のシステムもまた、こうした用途をターゲットとしているようだ。街そのものをIoTでインテリジェント化する試みもあり、今後さらに応用事例は増えてくるだろう。
↑竹中工務店のビル管理IoT事例。全国のビル状況をクラウドを通して集め、単一のコンソールで管理できる。 |
今回の一連の事例でMicrosoftが提供しているのは、主にクラウド側のデータ集積と管理システムだ。クラウドOSプラットフォームである「Windows Azure」側にIoT向けのサービスが用意されており、これを利用することで比較的容易に管理システムを構築できるというわけだ。一方で、同社は末端のデバイス上で動作する「.NET Micro Framework」というソフトウェア・プラットフォームも提供しており、両者を組み合わせることでアプリケーション開発者が上流から末端までシステム全体を設計・構築することが可能となる。末端のデバイス上で動作する組み込みOSにはLinuxやVxWorksなどさまざまなものがあるが、クラウド側のサービスまで含めて製品を提供できるのはMicrosoftだけ……というのがセールスポイントとなっている。
↑Microsoft Conferenceの展示コーナーで紹介されていたIoTをにらんだデバイスキット。.NET Micro Frameworkをベースに動作する「Sakuraボード」デバイスが、11月より9000円程度で販売開始されるという。Visual Studioで各種センサーを組み合わせながらセンサー側のプログラミングが可能。 |
同社では、自社のエコシステム上でさまざまな開発を促すべく、「Internet of Things Starter Kit」と呼ばれる開発キットの提供を計画している。ルネサスエレクトロニクスのGR-PEACHと呼ばれる開発ボード(外部リンク)をベースとしており、この「Sakuraボード」と呼ばれる製品に各種センサーを取り付けた状態でVisual Studio+.NET Micro Frameworkによる各種アプリケーション開発が可能になっている。Microsoft Conferenceで紹介されていたものはARM Cortex-M4が搭載されたボードだったが、11月登場予定の製品版はCortex-A9搭載のより高性能なものとなっており、より高度なプログラミングが可能だ。似たような製品に「Raspberry Pi」やIntelの「Edison」「Galileo」などがあるが、Microsoftの製品はWindowsプログラミングの作法がそのまま持ち込めるため、少し知識のあるユーザーなら利用ハードルは低いとみられる。興味ある方は、ぜひトライしてみてほしい。
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