「夏休み一番の思い出は?」と聞かれ「我が愛機“メタリオン”で星々をめぐったこと」と心に思ったが、とても先生には言えなかった少年の日。田舎の美しい山や川、南の島のキレイな海、そんなものよりも謎めいた“古代神殿の星”や“難攻不落の浮遊大陸”、“巨大な要塞惑星”の方がよっぽど印象に残ったMSX少年少女も多かったことだろう。いや、多かったに決まっている。今回はMSXユーザーなら知らぬものはいない超名作『グラディウス2』、『がんばれゴエモン!からくり道中』、『新世SIZER』の3本をお送りしよう。
■グラディウス2 (1987年)
1987年夏に発売された本作は、今も忘れられないほど大きな衝撃をMSXユーザーたちにもたらした。前作『グラディウス』も初の1MビットROMを使用し、MSXの限界に挑戦した名移植とうたわれたが、その続編として登場した『グラディウス2』は前作の名声に恥じないどころか、ファンの想像を超える圧倒的なグレードアップを実現したのである。輝く銀色の箱、オリジナルの箱絵。箱の裏には「グラディウス伝説、新たなる章へ…」、「MSX初 新開発SCC(ウェーブ音源LSI)搭載 全8音ポリフォニック音響の驚異」などなど、少年少女の心を踊らせるキャッチコピーの数々。前作の印象を覆す立体感のあるグラフィックと、MSX内蔵音源だけでは実現不可能な美しい音色と、それを最大限に活用した名曲の数々……と、ここでは到底書ききれない。『グラディウス2』はMSXユーザーはもちろん、当時の各ゲーム雑誌でも大いに驚きをもって迎えられたのである。
『グラディウスⅡ』というとアーケード版もあり、我らが『グラディウス2』と混同されがちなのだが別物である。この時点では『グラディウス』の続編としてはアーケードの『沙羅曼蛇』が存在しているのみで、当然「MSXにも沙羅曼蛇を」、というリクエストの声は少なからずあったものの、MSXには完全オリジナルの『グラディウス2』がリリースされた。その経緯は説明書の最初の1ページに延々と書かれているのだが、今読むと凄い自信が感じられる。その文章の締めにはなんと「コナミだから可能です」とある。コナミの“夢の実現力”をこの『グラディウス2』はMSXユーザーに知らしめたのだ。このタイトル以降、MSX少年少女たちは“コナミ=凄いゲームを作る会社”と心に深く深く刻みつけることとなった。心底MSXを持ってて良かったと思ったものだ。
↑巨大化したシダ植物っぽいものに覆われた惑星。胞子のように弾を弾き飛ばしてくるぞ。我が愛機の名前は“メタリオン”。自分の自転車に“ビックバイパー”とか“メタリオン”とか名前付けた人いるでしょ? |
さて、ゲームを起動するとこの時期としてはまだまだ珍しい長いオープニングデモが始まる。前作では一枚絵だったものから長尺のストーリーが盛り込まれ、惑星グラディウスに迫る危機が描かれる。そして現われる敵“ヴェノム博士”のお姿。ハードの性能上の制約からほとんど原色しか使えないMSX1で描かれたその面構えは、MSX1の名敵役として今も名高い。
本編も描き込まれたグラフィックと絶妙なゲームバランスを持っており、どこを取ってもスキのない完成度であった。美麗な敵母艦、その敵母艦を倒すごとに増えていく強力なパワーアップ、全7面+最終面のバリエーションの豊富さなど、「一体、この先どうなるのだろう?」と気になってコンティニューしまくりである。体力の限界まで止められないほど夢中でプレイしたが、体力の著しく衰えた今やってもなかなか止められない凄さがある。
SCCを使った未知のBGMもデビュー作とは思えない完成度であった。これは、発売日が後になる別のSCC採用作品で先に作曲をしていたため、結果としてノウハウが蓄積されてから『グラディウス2』の作業にかかっているためだとも言われている。なにしろコナミ自身にとっても渾身の一作だったのだ。
↑見よ、この悪辣な面構え。目が赤くピカピカしている。とても博士とは思えないトゲトゲ。さらにMSX1で目一杯頑張って“漢字”を書いている。 |
最終面まで行くと短いデモがあり、緊迫のBGMと共にグラディウス本星にヴェノムが迫っていることが告げられ、急いで惑星を順に戻っていくことになる。その構成のため、エンディングまでに突破すべき面数は説明書で予告されているよりも多くなる。このように様々な驚きの要素が詰まったグラディウス2は各方面で絶賛され、MSX版『沙羅曼蛇』、『パロディウス』、『ゴーファーの野望EPISODEⅡ』という一連の流れを作っていく。元のMSX版が終わった後も、MSXシリーズ独自であったはずの設定が引き継がれて新作が作られるほどであった。
本作はMSXソフトとしては出荷数も多く、後の復刻なども積極的になされたために全コナミMSXソフトの中でも今も比較的入手しやすい。難易度はやや高い方に入るが、コンティニューの回数は無限。MSXの輝きを知りたい人はぜひチャレンジして欲しい。上達すれば強力なパワーアップを持ったまま最終面まで一気に駆け抜けられるようになり、ノーミスでクリアなぞしようものなら、脳内で何かが出まくり多幸感と充実感でぴくぴくしてしまうこと間違いなしだ。
※ところで本作マニュアル末尾で告知された“ゲームコンテスト”の商品を持っている人は今でもいるだろうか? いたら、ぜひとも名乗り出ていただきたい。
■がんばれゴエモン!からくり道中 (1987年)
『がんばれゴエモン!』シリーズはファミコンからプレステ、ニンテンドーDS、さらにはiアプリ、パチスロにまで続く人気長寿命シリーズである。
低価格のMSX2本体が発売され、MSX2対応ソフトも充実しつつあった、いわゆる“MSX全盛期”に『がんばれゴエモン!からくり道中』は発売された。主人公は“ゴエモン”または“ネズミ小僧”となって各国を巡り、大名に会って世直しを進言し、最終的には江戸の将軍に会うことが目標である。
基本的にはアクションゲームなのだが、それぞれの面では“通行手形”を3枚集めて関所へ行くことが必要となる。役人や侍と言った敵がいろいろ出ては来るけれど、彼らはそれほど積極的には進行を妨害して来ない。通行手形はお店で売っているものもあるが、多くは地下通路や迷路などに隠されているため、その所在を掴むためにマップを隅々まで探索することがメインとなる。ようするに大きな迷路ゲームのような感じだ。
さてゴエモンは権力に楯突く存在であるのだが、そんな彼がなぜか“通行手形”だけはマジメに集めて回る。「突破しろよゴエモン!」などとゲームの根幹を揺るがすツッコミを入れても詮無い話しだが。関所を通過した後のデモで初めて小判をバラ巻くと共に家々に明かりが灯る……という、我々が通常イメージする姿が見られる。
↑敵を避けつつ、川に落ちないようにアイテムを拾っていこう。橋を渡ればとなりのフィールドだ。 |
この時期のコナミは、これまでに登場した様々なゲームのいろんな要素を、ジャンルを越えてひとつのゲームにまとめることに挑戦していたフシがあり、アクション性の強い『がんばれゴエモン!』にも“ばくち屋”のミニゲーム、“アイテム屋”などのRPG要素、3D迷路などがあり同様の傾向が見られる。
本作は『悪魔城ドラキュラ』と同様にファミコン版が先行して発売されたのだが、ファミコンは2MビットROMだったものが、およそ半年後に出たMSX2版ではなぜか1MビットROMにダウンサイジングしている。ファミコン版はこの大容量を無駄に活かした結果として恐ろしく長いゲームとなっており、しかもセーブ機能の類は一切ない。電源を入れっぱなしで丸一日はかかるゲームであった。テレビが子供である自分専用にあるなどという夢のような家庭はまだ少数派で、当時ファミコン版をクリアできた人などほとんどいなかったのではなかろうか。と、容量が減った悔しさを今さらこんなところで晴らそうという魂胆がミエミエのMSXユーザーがココに一人いたりする。ホント大人げない。
↑ぐわっ! 役人が提灯(?)を投げてきやがった! 飛脚はすっげー速いぞ。 |
そんなファミコン版が13ステージ×8ヵ国であったのに対し、MSX2版は7ステージ×7ヵ国と適切にスリムになり、さらにパスワードによる再開が可能になっている。出てくるキャラクターなどもファミコン版から相当に変えられて、ちゃんと普通に遊べるゲームに仕上がっている。一発で死んでしまうシビアな場面もあるにはあるが、それも緊張感を醸し出すのに一役買っている。全体としてはそれほど難易度は高くない。町中の3D迷路に入るお金を意識してためることができればクリアすることも難しくはないだろう。
少々残念なのは、ファミコン版のやたらに長く単調という印象が先に広まった後に発売されたことで、MSX版は完成度が高まっているということがあまり知られなかったことである。また同じ年の8月に『グラディウス2』が発売されたこともあり、後々タイトル名が有名になった割には発売当初の印象は少し薄かった。今では「MSX版は良作」と再評価されているが、もう少し早くMSXユーザーが支持していればファミコンやスーファミだけでなくMSX2でも続編が出ていたかもしれない。
■新世サイザー (1986年)
『新世サイザー』と書いて「シンセサイザー」と読む。これはゲームではなく、かといって『コナミのゲームを10倍たのしむカートリッジ』のようなゲームと併用するツールでもない。パッケージを見ると「MSXを本格的な電子楽器として使えるシンセの登場だ」とあるように“リアルタイム演奏ツール”なのである。一見すると、『グラディウス2』で登場した“SCC”音源の関連ツールのようにも見える。後々になってそのように誤解され噂されていたこともあったが、関係はない。まあ、親戚のご先祖様みたいなものと言えなくもないが。
MSX本体はPSG音源で3和音を発生させることができたし、SCC音源はオリジナル音色を複数鳴らすことができたが、この『新世サイザー』では1音しか鳴らせない。じゃあコレって何なのよ?というと、実は立ち位置の判断がちょっと難しいツールだ。シンセの歴史を考えるに、おそらく『ミニモーグ』みたいな“同時発音数=1のモノフォニック・シンセサイザー”を意識してMSXで近いことをやってみようとしたものなのではないだろうか。だとすれば世界のミュージシャンの間で流行っていた名シンセサイザーをMSXで再現しようとした、正にMSXを楽器にするチャレンジ精神旺盛なソフトだということになる。
パッケージ内容は8ビットD/Aコンバーターを内蔵したROMカートリッジと、サンプリング音色を納めたカセットテープがついた、このタイトルでしか使われなかった特殊なパッケージを採用している。マニュアルも日本語と英語が収録されている唯一のもので、42ページもある分厚いものだ。海外への展開を意識していたのかもしれない。MSX1用ながらRAMも32KB必要である。そんな事情からか、価格も6800円とそれまでのコナミMSXタイトルの最高価格となっている。
↑さあ、合成した音色で演奏だ! 「俺の作った音と演奏を聴けぇ!」 無論“モノフォニック・シンセサイザー”仕様なので1音しか鳴らない。『FM-PAC』とかとは狙いが違うのだ。 |
このソフトは、どうも流通した数がかなり少ないと思われ、今日、中古市場においても見ることは稀である。ゲームに類するタイトルではないので、ゲームコレクターも当時はあまり興味を持たなかったようだ。余談だが、古書収集の世界に“キキメ”という言葉がある。“シリーズで最も集まりにくい1本”のことを言うのだが、実はこの『新世サイザー』こそがその“キキメ”であり“コナミMSXソフト収集”においてコンプリートの最大の壁なのである。
さて本作の波形メモリーは“SCC”よりも多く、実はソコソコ凝った音色が作れる。作った音色のセーブ/ロードもカセットテープだけでなくフロッピーディスクにも可能と充実している……のだが、演奏機能がキーボードからのリアルタイム演奏しかできない。記録や編集の類が全くできない、演奏するだけのアナログシンセもあったし、つまりそういうシンセ同様に“MSXを電子楽器として使え”という潔い仕様なのだろう。シンセもPCもとても高額だった当時に、安価なMSXでこの価格なのだし、メモリーもちっさいし、家のブラウン管テレビも小さいしで、どこかに重点を置くしかない。ここでは“音色エディット”に重点を置き、“作った1音”で“楽器として演奏する”この一点に集中したのだ。
↑専門用語の略称で埋められた、音色のエディット画面。画面に余裕があったらアナログシンセサイザーのようにツマミで設定できるようになっていたはず。と夢を見る。 |
しかし、実際のところ電子楽器としての性能はどうだったのだろうか。素晴らしい音色で華麗な演奏をしたぞ、って人がいたら申告よろしく。だってデータのやりとりの手段がなくて、サンプル曲もないのでいろんな人の作った曲とかを聞いたことがなくて、ソフトの実力の程がいまひとつ実感できないのよ。う~ん、どなたか、「演奏を聞いた!」という方がいたら、ぜひとも感想を聴かせて頂きたいものである。いっそ演奏会でもやるか?
最後に、このソフトにしか出てこないキャラクターに“コナゴン”というのがいる。波形合成の際に出てくるのだが、全く説明がない。ファミコンでは同名のキャラクターが複数タイトルに出演しているのだが、MSXでは本作にしか出てこないようである。しかし見た目も微妙に違っているため、ますます謎が深まるのである。
(C)Konami Digital Entertainment
(2014/8/14 14:05 : 一部記述の誤り等を修正いたしました)
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