ソフトバンクが19万8000円でヒト型ロボット『Pepper』を2015年2月に発売する。
Pepperの特長は、ユーザーの声だけでなく顔の表情を認識するという“感情認識エンジン”を持っている点だ。また、アプリをダウンロードして機能を追加できたり、クラウドと連携するという。
9月にはPepper向けのアプリ開発者会議も開催される予定で、まるでスマホアプリのロボット版といえそうだ。
実際に、Pepperとコミュニケーションしてみたが、こちら側の言葉を理解してくれ、いつまでも会話を続けることができる。時々、Pepperからの質問に答えても無視されてイラッとくる時があるが、こうした欠点もクラウドの力によって、解決していくのだろう。
二足歩行はしないが、腕や手などは実にスムーズに動く。頭の部分には3Dカメラ、タッチセンサー、スピーカー、マイクなどがつまっており、周りや話しかけている人の様子を認識、分析できるようになっている。
こんな高性能なロボットが19万8000円で購入できるのは驚きだが、孫社長によれば「いまの販売台数では部品代も出ないほどの赤字。競合相手の会社がこの価格で、この機能、この性能のものを出そうとすると、間違いなく無理だろう。
我々としてはコストで値段を決めるのではなくて、いくらだったら、パーソナルなロボットとして家庭に入っていけるか、そっちのほうから計算している」と語る。
ソフトバンクは、インターネットカンパニーであり、最終的にはクラウド利用料やアプリ販売手数料などで儲けようとしているようだ。
ソフトバンクはロボット事業に参入するのにあたり、2012年にフランスのアルデバランという会社を買収している。すでに、アルデバランはNAOといったロボットを開発しているが、Pepperを作るにあたり、相当な苦労があったようだ。アルデバランCEOのブルーノ・メゾニエ氏にうかがった。
「Pepperには、音声認識、表情の認識検出などの技術のほかに、モーター、センサーを組み合わせるなど、1000以上の要素技術が詰まっている。それらをひとつのロボットとして統合していくのが難しかった。
それぞれの技術にはエキスパートがいるが、彼らは自分の担当分野のことしか知らない。それらを組み合わせて動作させ、製造へ持って行くのに苦労した。
ロボットはケータイやノートパソコンとは違い、まるで自動車を作る位に複雑なんだ」(アルデバラン、ブルーノ・メゾニエCEO)
これまでのロボットは、主に工場で働く、生産性を上げるための用途が中心だったが、Pepperは一般向けに、ユーザーの心とふれあうという新しいロボットだ。これを実現する上で欠かせないのがクラウドだ。
「ロボットはクラウドに接続してなくても動作しないといけないため、すべての機能を本体に内蔵している。しかし、我々はさらに豊かな機能をロボットに追加するためにクラウドに新たな可能性を求めた」(ブルーノCEO)
クラウドにつながることで、Pepperとのやりとりが蓄積され、さらにアプリをインストールできるという、ロボットにおける新しい可能性が開けた。しかし、一方で、クラウドに蓄積された個人情報が、悪意のある人間によって流出する危険性もありえる。
その点、アルデバランではどのように考えているのか。
「Pepperとのやりとりをクラウドに預けるというのは個人にとっては価値があるが、一方で、データを預かる企業にとっては大きな責任も伴う。
個人データを保護して、第三者から利用されないようにしないといけないし、お客さんのなかにはクラウド接続を断るケースもあると思う。
クラウドに接続することでどういうメリットとデメリットがあるか、しっかりと説明するので、それを聞いた上で判断してもらいたい」(ブルーノCEO)
もうひとつの懸念材料がPepperアプリの“マルウェア”だ。スマホと同様に悪意を持った人間が、悪質なアプリをばらまけば、Pepperユーザーに多大な影響を及ぼしかねない。
Pepperとの会話が漏洩する可能性もあるだろうし、遠隔操作でPepperがヒトを傷つける恐れもある。エロPepperアプリを作って、Pepperに卑猥なことをさせることも不可能ではないだろう。
その点についてブルーノCEOは、
「Pepper向けアプリは、我々が提供するアプリストア経由でないと入れることができない。こちらがアプリをチェックして、技術的に上手く動いているか、データのコードもチェックして、わいせつな動作をしないか、ロボットを遠隔操作しないなどをチェックするつもりだ」という。
アップル“App Store”と同様に、予め厳しく管理することで、Pepperの暴走を阻止する考えだ。
Pepperは将来的には世界展開を狙うが、まずは日本市場で地道にビジネスを進めていくという。
「市場からは良い反応があるが、台数がどれだけ売れるが、全く予測がつかない。まずは日本でビジネスモデルを作った上で、世界に展開していきたい」(ブルーノCEO)
ブルーノCEOは6月5日に行われたPepper記者会見で「今日はロボット物語の最初に過ぎない」と語っていた。では、ブルーノCEOはロボット物語の最終章には、どんな世界観を描いているのだろうか。
「この物語には終わりはない。ますますロボットは洗練されていき、我々の生活をサポートしてくれるようになる。各家庭に複数のロボットがいる時代が来るだろう。今後、演算能力がどれだけ増えていくか、人工知能の進歩がどれだけ進むかということによるだろう」
1981年にIBMがパソコンを作り、それが当たり前のように各家庭に普及したことを考えると、いまから数十年後には、ロボットと当たり前のように生活を共にする時代が来るのだろう。Pepperはその第一歩と言えるのだ。
●関連サイト
ソフトバンク ロボット(Pepper特設サイト)
ALDEBARAN(メーカーサイト)
よしもとロボット研究所
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