3Dプリンターは量販店にも10万円以下で置かれ始めるなど、だんだんと身近になってきた。一言で3Dプリンターと言っても、造型方式や精度はまさに千差万別だ。
個人が買える20万円前後の3Dプリンターは、現在のところ熱溶解積層方式が主流であり、ABSやPLAの樹脂を溶かしながら積み重ねていくものだ。
しかし、この方式は細かい部分の造型が苦手であり、色も樹脂の色がそのままの単色型となる。もっと精密なものが作りたい!とかフルカラーにしたいという場合は、100万円以上の高価で大型の3Dプリンターが必要となる。
たとえば石膏を使ってフルカラーで造型できる3Dシステムズの『ProJet660Pro』は本体価格が1000万円前後と目が飛び出るほど高い。
↑3Dシステムズの石膏積層型フルカラー3Dプリンター『ProJet660Pro』。
とても個人では無理と思うかも知れないが、実は個人でもこれを使って造型する方法がある。それが3Dプリント出力サービスで造型を依頼するという方法だ。
日本でもいくつかの会社がこの機械で3Dプリントサービスを行なっており、新宿区にあるオフィス24が運営する『Office24 Studio』もこのフルカラープリントサービスを行なっている会社のひとつだ。そこで実際にどんなサービスを利用できるのか、さっそく行って体験してみた。
Office24 Studioは新宿駅西口からほど近いビルの1Fに店舗を構えている。
■全身3Dスキャンにて世界でただひとつのフィギュアがつくれる
↑3D全身スキャンと3Dフルカラープリントを合わせて、記念フィギュアのサービスを行なっている。
Office24 Studioのサービスのスゴイところは、高価なハイエンド3Dプリンターでプリントサービスが受けられるのはもちろん、3Dスキャナーを使った記念フィギュア作成サービス、つまり記念写真の3D立体版だ。
七五三や成人式、結婚式など人生の節目で記念写真を撮った経験がある人は多いだろう。これからの時代は二次元ではなく、三次元の立体で記念写真ならぬ記念フィギュアをつくろうというものだ。これを編集部のハッチが体験してみた。
撮影用のブースに衣装を着てボーズをとる。ハッチはふだん眼鏡を掛けているが、眼鏡を掛けている状態では出来上がりのときに表情が出てこないので、今回は裸眼でトライ。
3Dスキャンの場合はハンディスキャナーを使って全身にまんべんなく当てて細かくスキャンしていかなくてはならないため、10分前後はポーズを決めてじっとしている必要があるので、ちょっと大変。なお、3DスキャナーはArtec Group Inc.製『Artec Eva™ 3Dスキャナ』を使用。
髪の毛などの細かい部分はマイクロソフトのキネクトを使ってスキャン。キネクトは物体の形や動きをセンサーで読み取れるので、それを3Dスキャナーとして応用している。
↑スキャンした場所ごとにデータを繋げて1つの立体に加工していく。手間がかかる作業だ。
あとはオペレーターが3Dデータとして加工し、フルカラープリントまでやってくれる。スキャンした部分をひとつひとつ地道に繋げていく手間の掛かる作業だ。
↑そして完成した3Dデータがコレ。服のシワや色の再現がなかなかリアル。
さらにこのデータをフルカラーの3Dプリンター『ProJet660Pro』で出力したものがコレ。全高15センチほどの石膏でできたフィギュアが完成。
実際のハッチ
肌の質感まで超リアルというわけにはいかないが、どう見てもハッチそのもの。ただし、当たり前だが体型はそのまま表現される。フォトショップで写真を加工するように、ちょっとスリムにして~といったことはできないので要注意だ(笑)。ちなみに、制作は3Dデータの製作から造型までやや時間が掛かるため2週間ほど必要。
何十年かしてハッチがこのフィギュアを見たら「昔の俺ってこんなんだったんだ!」って驚くかも知れない。写真と違って、横顔や背中などその人の外見全てが記録として残るため、写真に比べて圧倒的に情報量が多い。まさに記念や記録としてうってつけだ。
なお、このスキャンから造型までの価格は5万8800円(現在は期間限定で3万9800円で受付中。詳細は店舗までお問い合わせください)。なお、フィギュアだけではなくメッセージ入りの台座つくってくれるので、撮影日や何の記念で作ったかもセットで残すことができる。
金額はやや高めと思うかも知れないが、成人式の記念撮影でもキチンとしたアルバムをつくると同じぐらいはするので、決して高すぎる金額ではない。
子供の入学式や卒業式など晴れ姿をこうして残せると思えば、思わずつくってみたくなる親御さんは多いのではないだろうか。例えば子供の姿を何年かおきにフィギュアにして、子供が結婚するときに披露宴会場に並べてみるとおもしろいかも知れない。
ほかにも社長の姿をフィギュアにして銅像よろしく会社の玄関に飾ってみたり、若いときの自分を残しておきたいというちょっとナルシストな人にもピッタリなサービスだ。
徳川家康は三方ヶ原の敗戦の際に自分の苦渋に満ちた表情を顰像(しかみぞう)という絵に描かせ、自分を戒めるために生涯側に置いたという。かなりネガティブな利用法だが、何かで大失敗した際には自分の姿をフィギュアにして机に置いて自分を戒めれば、天下を取れる人物になれるかも知れない(?)。
■ほかにもこんなサービスが利用できる
↑現在トップレベルに高精度な造型ができる3Dシステムズの『ProJet 3500 HDMax』。お値段は1300万円前後。高級車どころか家が買えるレベルだ。
Office24 Studioではほかにも様々な3Dプリンターで立体を出力することができる。たとえば製品の試作品や模型など高精度なものをつくりたいなら、3Dシステムズの『ProJet 3500 HDMax』を使うと良いだろう。精度と耐久性が高い“UV硬化アクリル”を使用する3Dプリンターで、最小積層ピッチはなんと16ナノ(0.016ミリメートル)だ。
これを使えば、PCケースなども製品レベルのものが作れてしまう。なお、既にあるデータを造型する場合の見積もりや製作の依頼はWebページから行えるため来店しなくてもサービスが利用できる。
↑『ProJet 3500 HDMax』で小型アンプのケースを作った作例。基板がピッタリとはまっている。
納期は基本7日間となっており、50パーセント料金増なら最短で3日で完成する。料金は物体を造型する時間と重量によって決まるため、気になるなら一度見積もりを出してみるといいだろう。(16µモードで1時間につき1500円、造型する物体1グラムにつき300円~100円。ほかデータ処理やサポート材除去で料金が発生。)
↑家庭用の3Dプリンター『CubeX Duo/Trio』や3Dスキャナーを使ったセルフプリントコーナー。
上記のフルカラーや高精度な3Dプリントは基本的にOffice24 Studioのスタッフが行なうが、店内には家庭用熱溶解積層方式の3Dプリンターを使ったセルフプリントコーナーがあり、自分で持ってきたデータを造型したり、3Dスキャンすることもできる。
なお、使用できる3Dプリンターは3Dシステムズの『CubeX Duo/Trio』、3Dスキャナーはローランドの『LPX-60DS』だ。それぞれ15分につき1200円で利用できる。
■オフィス24STUDIO 新村店長に聞いてみた!
オフィス24STUDIOの店長 新村 雅彦氏に3Dプリントに関する現状を伺ってみた。
Office24 Studio 店長 新村 雅彦氏
シバタ:フルカラーのプリントサービスの利用状況はどうでしょうか?
新村:かなり増えてきていますよ。特に4月は入学や卒業式のシーズンでしたから、かなりの方に利用して頂きました。やる気満々のお父さんが真新しい制服を着たちょっと照れくさそうな娘さんを連れていらしたり。そのお父さんは何日か後に別な娘さんも連れていらっしゃいました。やはりお子さんの姿を残したいという需要は高いですね。ほかにもフランスの方が日本に観光に来た記念に自分のフィギュアをつくりに来たということもありました。完成したフィギュアは後日フランスまで発送いたしました。あと、建築業界さんに建物の完成模型として利用して頂くケースが多いですね。
シバタ:高精度なアクリル造型ができる『ProJet 3500 HDMax』の利用状況はどうでしょうか?
新村:こちらはもっぱら、企業の方が多いですね。需要としては、フルカラーとアクリルで同じぐらいあります。例えばある食玩メーカーさんは製品の試作品を作りに定期的に来て頂けるようになりました。最初はアーリーアダプターの人が多かったですが、徐々に会社の業務の一部として使って頂けている実感が出て来ました。3Dプリンターはもはや珍しいものではなくも社会に徐々に浸透しつつあります。
シバタ:ほかにもユニークな利用法の事例などはいかがでしょう?
新村:Office24 Studioでは3Dプリントだけではなく、スキャンも行なっているので、それを活用した例としては、紙粘土で車用の“ボルテックス・ジェネレーター”というパーツの原形を作ってきて、3Dプリンターで量産した方がいらっしゃいました。このパーツは多数必要らしいのですが、紙粘土の原形を3Dスキャンしてデータにしてしまえば量産できるのがポイントですね。ほかにも模型を複製して別なバリエーションをつくりたいとか、正直ショップである我々よりもお客様の方が活用方をよく知っていらっしゃると感じます。
↑オフィス24STUDIOの利用者が紙粘土(上)で原形を作り3Dプリンターで造型して量産した(下)車用のパーツ。
新村:iPadで原形を作って3Dプリントするワークショップを先日開催いたしましたが、参加者全員が真剣に取り組んでおられました。
シバタ:最後に聞きにくい話ですが、拳銃を3Dプリンターで造型してニュースになった件について、いかがでしょうか?
新村:私の印象では、逮捕された方はある程度物を作る能力に長けていますので、正直3Dプリンターでなくても拳銃を作ってしまえると思います。たまたま造型に利用した道具が3Dプリンターだったというだけですね。それに拳銃を作るには、家庭用の3Dプリンターで作った部品だけでは強度や熱の問題で弾丸は発射できないです。
シバタ:個人的には3Dプリンターで作った銃は暴発が怖くて撃ちたくないですが……。
新村:私もそうですね。あと、弾を撃ったところできちんと命中させられるものを作るのは難しいです。これはいくらプリンターの精度が上がったとしても、元となるデータをどう作るかという問題ですから、誰でも簡単にできるというわけではありません。
とはいえ、今回の件への対応として、公序良俗に反すると判断されるデータに関しては造型をお断りさせて頂く旨を注意書きに加えてデータをチェックし、我々も犯罪行為を未然に防ごうと思います。
シバタ:ありがとうございました。
●関連サイト
Office24 Studio
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