最近、企業や学校にタブレットを導入している、というニュースが増えています。教育現場の例として佐賀県の高校でのタブレットを本連載で取り上げたこともあり、特に学校現場において具体的にタブレットがどのように活用されているのか、個人的にも気になっていたところです。
今回、日本マイクロソフトやNEC、NTT東日本が共同で取り組んでいるタブレットを用いた21世紀型の教育環境が公開され、報道関係者向けの模擬授業が行なわれることになりました。さっそくレポートしてみたいと思います。
↑タブレット活用の実証研究の舞台となっている、目黒区立第一中学校。特にハイテクな学校というわけではなく、日本のどこにでもありそうなオーソドックスなスタイルの中学校だ。 |
■大型のタッチディスプレイや超単焦点プロジェクターを配備
目黒区立第一中学校は、日本のどこにでもありそうな普通の中学校という印象。とくにハイテクな新設校というわけでもありません。しかし教室を訪れてみると、いくつか気になるデバイスがありました。
まず目立っているのは、大型のディスプレーです。現場では電子黒板と呼ばれており、特殊な装置かと思いきや、その実体はNECディスプレイソリューションズ製の『MultiSync V651-TM』。65インチのタッチ対応フルHDディスプレーです。
↑電子黒板『MultiSync V651-TM』。65インチの巨大なタッチ対応ディスプレーだ。 |
背面にはWindows 8.1で動作するノートPCがあり、ここからVGAケーブルで外部ディスプレーに出力していました。
↑背面に設置したノートPCから画面を出力している。 |
このディスプレーには、電子教科書や先生がOfficeアプリで作成した教材、Flash教材などを表示し、授業に活用できるようになっています。
↑電子教科書。Windows 7でも動作するデスクトップアプリだが、タッチ操作による拡大や縮小が可能。 |
↑先生がPowerPointやExcelで作った教材も使える。写真は、タッチ操作でオブジェクトを動かしている様子。 |
教室にはプロジェクター設備も充実していました。一般的な三管式プロジェクターに加え、ホワイトボードの上には超単焦点のプロジェクターも設置。書画カメラを用いて、資料を投影する用途に使われるとのこと。筆者の時代は透明なフィルムに光を当てて投影する”“OHP”が主流だったのですが、そういう時代はだいぶ前に終わっていたようです。
↑ホワイトボードの上部にプロジェクターらしき装置が確認できる。 |
↑至近距離からでも映像を投影できる、超単焦点プロジェクターだった。大企業の会議室並みに充実した設備だ。 |
■ペン入力対応のWindowsタブレット70台を配備
それでは今回の実証研究の目玉でもある、タブレットについて見ていきましょう。2014年3月末時点で、70台のNEC製Windowsタブレットを配備。全生徒数は154名のため、1人1台とまではいかないものの、授業に用いる場合はクラス全員に行き渡る台数となっています。
↑タブレットはNEC製の『VersaPro J タイプVT』。ThinkPad Tablet 2と同型の、Atom搭載Windowsタブレットだ。 |
↑Atom Z2760を搭載。OSは『Windows 8.1 Enterprise』だが、通常のWindowsタブレットと大きな違いはなかった。 |
すべてのタブレットは教室内に設置されたWiFiにつながっており、専用のWindowsアプリを使うことで、画面内容を電子黒板と同期することができます。これにより、先生側から操作することで教室内のすべてのタブレットに特定の画面を表示することが可能。さらに、生徒がタブレットに入力した内容を電子黒板に同期することもできるという、双方向性が特徴です。まるでクイズ番組でよく見かけるようなシステムです。
↑先生の指示に従い、問題への回答を専用のWindowsアプリにペンで記入してみた。 |
↑生徒全員の画面内容を、電子黒板に同期。静止画ではなくリアルタイムに同期されており、ペンで書き込みをしている様子も確認できる。 |
もし紙を使って同じことをやろうとすると、先生が各生徒の机を見て回ったり、全員の紙を回収して採点する必要がありますが、タブレットと電子黒板なら、全員の回答をひと目で見ることができるのはもちろん、回答を書けていない生徒も、ひと目でわかります。
また授業によっては、タブレットを持って校舎内でモバイル利用するという活用もあるとのこと。たとえば校庭に行き、そこに生えている草花の写真を撮って、生育状況を調べるという理科の課題が紹介されました。ノートPCでは持ち運びに不便で、デジタルカメラでは書き込みや情報共有が難しいタスクです。まさにペン入力に対応したカメラ付きタブレットならではの活用方法といえるでしょう。
■21世紀型の問題解決スキルは身につくか
タブレット活用の今後の課題として、目黒区立第一中学校 校長の伊藤惠三氏は“持ち帰り学習”を挙げています。現在のタブレットは学校の備品扱いとなっており、自宅に持ち帰って使うことは想定されていません。しかしタブレットを自宅に持ち帰ることができれば、タブレットを使った宿題をこなしたり、下調べをすることができるようになります。その一方で、運用やセキュリティーの面で多大な問題があることも予想できます。
また、ネットワークも課題です。現在、一般的な中学校の校舎にWiFiは整備されていないため、タブレット導入時にはネットワークも合わせて導入する必要があります。
↑NTT東日本の協力により、天井にアクセスポイントを天井に2台設置することでクラス全員ぶんのタブレットをWiFi接続している。ただしWiFiが使えるのは学校全体でも2教室に限られているとのこと。 |
こうした新しい授業を採り入れる目的として、伊藤氏は“問題解決スキル”を挙げ、「先の見えない、グローバル化が進む時代において、異なる能力を持った他者と協力しながら課題を解決する力を身に付けてほしい」と学習の狙いを語りました。
↑教師から生徒への教育だけでなく、生徒同士でアイデアを出し合い、課題解決スキルを高めてほしい、と校長の伊藤氏は語る。 |
ちなみに伊藤氏によれば、いまどきの中学生は小学校の時点でPowerPointによる資料作成スキルを身に付けており、中学校での授業中に行なう発表に活用できる状態とのこと。たしかに教育現場へのタブレット導入には、さまざまな課題があります。しかしデジタルネイティブ世代、いやタブレットネイティブ世代は、それらを当たり前のように使いこなしていく印象を受けました。
山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります