ノートPCにおいて、ディスプレーとキーボード側の本体をつなぎとめているヒンジについて考える機会が増えています。
最新の事例として富士通のスイーベルヒンジのモデルでは、これまでにない小型・薄型化を達成しています。
↑こちらはIdeaPad Yoga 13のヒンジ。ちょうつがいとしてドアなどにも利用されるが、ノートPCではディスプレイとキーボードのつなぎ目に重要な部品だ。 |
一方で、タブレットの増加に伴い、PCの存在が危ぶまれています。タブレットにヒンジはありません。この先、ヒンジはどうなってしまうのでしょうか。
■Windows 8と2in1によりヒンジが大幅進化
いまから2年近く前の2012年6月に開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2012では、Windows 8の発売を間近に控えていることから、多数のタッチ対応ディスプレーを搭載したPCが発表されました。このとき、当時OEM部門を統括していた米マイクロソフトのスティーブン・グッゲンハイマー氏が強調したのが「これからのノートPCでは“ヒンジ”が重要になる」という点でした。
↑2012年のCOMPUTEX TAIPEIでコンバーチブル型PCを次々と紹介しながら、ヒンジの重要性を訴えた米マイクロソフトのスティーブン・グッゲンハイマー氏。 |
手でしっかりと支えながら使うスマートフォンやタブレットとは異なり、ノートPCをタッチ操作で使うには、適度な固さのヒンジが求められます。ディスプレーを指で押しても簡単には向こう側に倒れない程度には固く、閉じたり開いたりする際に違和感を覚えない程度には柔らかいヒンジが必要となるわけです。
従来のクラムシェル型ノートPCでは、ヒンジに注目が集まることはあまりなく、画面を180度まで開くことができることをセールスポイントにした機種がいくつかある程度でした。しかしWindows 8世代で増加したコンバーチブル型PCや、その後のインテルによる“2in1”の提唱後は、タブレットに変形できるノートPCが急増します。その変形機構の鍵を握る部品として、ヒンジにスポットライトがあたる機会が増えてきたといえます。
↑『VAIO Duo 11』が採用するのが、サーフスライダー構造。タブレット状態からバネの力によりスタンドが立ち上がり、ノートPCに変形できる。 |
↑その後継モデルとなる『VAIO Duo 13』では、使い勝手はほぼ変わらないまま、スタンドが大幅にスリム化した。 |
↑360度回転の先駆者となったレノボのYogaシリーズ。写真の“テントモード”では、ディスプレーの天地が自動的に逆向きになるのがポイント。 |
PCメーカー各社からは、ヒンジを中心としたノートPCの変形機構について、様々な試行錯誤を重ねているという声をよく耳にします。その最新版として、富士通の「LIFEBOOK TH90/P」では、小型かつ薄型化したスイーベル型のヒンジを搭載。クラムシェル型のノートPCと同程度の外観を実現しています。
↑水平方向に回転するスイーベル型ヒンジを搭載した富士通のノートPC。こちらはMWC2014のブースに展示した、法人向けの『LIFEBOOK T904/H』。 |
↑従来モデルに比べてヒンジは小型化し、目立たなくなった。 |
■タブレットはキーボードとの接続に難点
このようにノートPCのヒンジが進化する一方で、タブレット型デバイスでは事情が異なっています。タブレットは板状であり、ヒンジは基本的に不要です。しかしデスクや膝の上で使うときには、タブレットを立てた状態で使いたいものです。仕事用のタブレットなら、キーボードとどのように接続するかも気になるところです。
タブレットを立てるための仕組みとして、『Surface』シリーズや『VAIO Tap 11』は、可動式のスタンドを備えています。これまでにない形状のスタンドとしては、レノボの『Yoga Tablet 8』もおもしろい存在です。
↑背面にスタンドを内蔵したSurfaceシリーズ。タブレットにおけるキーボード利用を前提としたデザインだ。 |
↑シリンダー状のスタンドを内蔵した『Yoga Tablet 8』。あえてタブレットを板状にせず、持ちやすさを重視している。 |
これらのスタンドは、しっかりした机の上ではたしかに安定します。しかしタブレットは、必ずしも机のある場所だけで使うとは限りません。たとえば電車の座席では、膝の上に乗せて使うことになります。Surfaceシリーズはこれらをかなり考慮したデザインになっているとはいえ、膝の上での安定性はクラムシェル型ノートPCが優れています。
別のアイデアとして、キーボードとドッキングするという方法もあります。Atom搭載のタブレットとして人気の高いASUSの『TransBook T100TA』は、専用のキーボードに接続することで、クラムシェルのノートPCのように使うことができます。さらにキーボード側には追加のUSB 3.0ポートを搭載し、モデルによってはHDDも搭載できるようになっています。
↑『TransBook T100TA』は、専用コネクタによりキーボードとドッキングすることでノートPCのように使える。 |
安定性ではやや劣るものの、Bluetoothキーボードにタブレットをはめ込むという方式もあります。日本エイサーの『Iconia W3』(関連記事)や、レノボの『ThinkPad Tablet 2』がこの方式を採用しており、他にもiPad用やNexusシリーズ用のキーボードとして、同様の構造をよく見かけます。
↑『ThinkPad Tablet 2』用のBluetoothキーボード。タブレットを溝にはめ込むだけの単純な構造だ。 |
↑『ThinkPad 8』を置いた状態。コネクターによる接続ではないため、厚ささえ問題なければ、たいていのタブレットと組み合わせて使えるのが嬉しい。 |
↑サムスンによる『GALAXY TabPRO』用のキーボード(ZAGG製)も、はめこみ式だ。 |
モバイルにおけるさまざまな利用シーンを想定すると、これが最も汎用性の高い方式という印象を受けますが、ディスプレーの角度を調節できないのは、やはり少し不便に感じます。また、キーボード側にUSBポートやストレージを搭載することはできず、タブレットの機能を拡張できない点も残念です。
欲を言えば、異なるメーカーのタブレットとキーボード間を相互に接続できるよう、コネクタの規格を統一してほしいところです。
■ヒンジの優位性によりノートPCは生き残る
このように、タブレットとキーボードを組み合わせたモバイル利用において、そこそこの使い勝手を実現する組み合わせはあるものの、しっかりしたヒンジを搭載するノートPCほど優れたものは見当たらないのが現状です。
最近はタブレットがノートPCを置き換える傾向にあるものの、性能を重視する用途では、ノートPCに優位性があります。それに加えてモバイル利用においても、キーボードを重視するユーザーにとって、ヒンジを備えたノートPCはまだまだ重要な選択肢であり続けるのではないでしょうか。
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