2月13日、日本マイクロソフトはこれまでにも何度か行なっているWindows XPのサポート終了に関する説明会を開催し、“サポート終了まで残り55日”を宣言しました(関連記事)。いよいよ4月9日のサポート期限が目前に迫っています。
↑2月13日の説明会で、Windows XPのサポート終了まで「残り55日」を宣言した、日本マイクロソフトの加治佐俊一氏。 |
日本マイクロソフトの数値目標では、2014年4月時点でのWindows XPの残り台数は全体の1割。果たして移行は現実的に可能なのでしょうか。今回はXPのサポート終了にまつわる問題を、いくつかの観点から分析していきます。
■XPサポート終了=販促キャンペーン?
現時点で、Windows XPからの移行は順調に進んでいるのでしょうか。ビジネス市場ではPCの出荷台数が伸びており、積極的に移行が進んでいるものとみられます。年度ごとの予算やアプリの移行といった問題で、4月のサポート終了には間に合わない企業も少なからずあるものの、2014年度(2015年3月末まで)には完全に移行できるように計画を立てている企業が多いのではないでしょうか。
気がかりなのは、コンシューマー市場です。2013年上半期時点で国内のコンシューマー市場におけるWindows XPのシェアは21%(IDC Japan調べ)。にも関わらず、PCの出荷台数は減少傾向が続いています。一般家庭に残るXPをいかにして新しいOSに置き換えていくか、これが大きな課題といえます。
昨年11月から日本マイクロソフトやWDLC(ウィンドウズ デジタルライフスタイル コンソーシアム)は、一般層にも知名度が高い東進ハイスクールの林修先生を起用したキャンペーンを展開中です(関連記事)。林先生の本業であり塾講師は、“学校では教えてくれない知識を授けてくれる”というイメージがあり、いわゆる”家電芸人”とは一線を画した効果があったものと感じられます。
↑林修先生を起用したキャンペーンのサイト。最新PCの魅力について、家電量販店の店頭で授業をし始める林先生の動画などが楽しめる。 |
問題は、この『最新パソコン、買うなら今でしょ!』キャンペーンが、新しいPCを売り込むための、単なる“販促”に見えてしまうという点です。確かに、家電量販店で配布するパンフレットには、XPのサポート終了にともなうリスクや危険性についての記述があります。実際のPC売場ではそういった負の側面を強調する独自のPOPを見かけることもありますし、販売スタッフもそれをセールストークに組み込んで活用しているかもしれません。
しかし昨年11月の発表会で日本マイクロソフトの藤本恭史氏が「PCの買い換えを促す上で、ポジティブな面を訴えていきたい」と語っていたように、現在のキャンペーンはポジティブな面を中心に打ち出していますが、これでは、家電量販店によくみられる、一般的な販促キャンペーンと似たトーンになってしまいます。
実際に筆者もいくつかのPC売場を見て回りましたが、“MNP一括0円”のように派手なキャンペーンがひしめく携帯電話売場と、そういった装飾を排除することで逆に存在感を際立たせるアップル売場の間で、埋没してしまっている印象がありました。
■XPはスマホやタブレットに自然淘汰される、という説
Windows XPから移行先のOSとして、日本マイクロソフトは最新のWindows 8.1を推奨しています。XPから8.1への移行する方法として、PCを買い換えるだけでなく、OSだけを入れ替えるという方法もあるはずです。しかし林先生によるキャンペーンでは、後者については積極的に言及していないようです。
↑マイクロソフトは機能やセキュリティの面から最新のWindows 8.1を推奨するものの……。 |
たしかにXPから8.1へのアップグレード時には、Windows 7のように、既存の環境を引き継ぐことができません。以前の環境を復元するには、自分で改めて構築する必要があり、比較的ハードルが高いといえます。もちろんXP世代のPCでは8.1が快適に動作しないものが多数あることや、8.1のポテンシャルを引き出すためにもタッチ対応マシンを購入した方が良いという理由もあるでしょう。WDLCのメンバーであるNECや富士通といったPCメーカーとしても、できれば新しいPCに買い換えてほしいはずです。
これに対して、“果たして本当にPCの買い換えが必要なのか”、という疑問も生じてきます。これだけスマートフォンが普及した今、自宅にPCを置いておく必要はあるのでしょうか。スマートフォンやタブレットで済むのなら、それで十分ではないでしょうか。
特にPCをあまり使っていないユーザー、あるいはあまり使いこなせていないユーザーにとって、XPのサポート終了は、PCを買い換えるほど十分な動機付けとはいえません。エアコンから風が出てこなくなったり、洗濯機が回らなくなれば、誰の目にも壊れたことは明らかですが、XPのサポート終了はソフトウエア的な寿命であり、これを理解するには、一般の家電製品とは異なるリテラシーが必要となります。
今後あり得るシナリオは、次のようなものです。
ライトユーザーはXPのサポート終了について正しく理解しないまま、スマホやタブレットに慣れ親しみ、徐々にPCを使う機会は減っていきます。一方、ヘビーユーザーはとっくの昔にWindows 7や8に移行しています。これにより、時間の経過とともにXPは“自然淘汰”され、世の平和は保たれるというわけです。
■終了間際にさらなるキャンペーンはあるのか
もちろんこのような“進化論”に運命を委ねるわけにはいかないのが、マイクロソフトとPCメーカーの事情でしょう。スマートフォン市場では国内にWindows Phoneはなく、タブレット市場においてもWindowsストアアプリが充実していない現在では、Windowsタブレットへの展開は限定的にならざるを得ません。
一方で、サポート期限は着実に迫っています。個人的にはセキュリティベンダー各社から、“このパッケージを買えばXPを延命できる”といった代替案が出てくることを期待していました。しかし今回の説明会では“移行を強く推奨する”という点で、ベンダー各社が足並みを揃えていたのが印象的です。
↑マイクロソフトは機能やセキュリティの面から最新のWindows 8.1を推奨するものの……。 |
また、質疑応答では、サポート終了後もXPを“安全・快適に使い続ける”ための書籍の存在も指摘されましたが、これについても日本マイクロソフトは遠回しに否定しました。
もしXPのサポート終了後に、その脆弱性に起因する社会問題が起きた場合、世間の反応は2通りになると考えられます。ひとつは「XPのサポートを打ち切ったマイクロソフトが悪い」というもの、もうひとつは「XPを使い続けているユーザーが悪い」という反応です。
マイクロソフトとしては、XPからの移行を声高に訴えておくことで、不測の事態が発生した場合でも、世論が後者の方向に傾くようにしておきたい――同社の関係者と話していて、そういうニュアンスの発言が増えてきたように思うのは、筆者だけでしょうか。
間近に迫った2014年4月9日のサポート終了に向けて、あっと驚くような秘策や、これまでにないお得なキャンペーンが登場するのか、注目したいところです。
■関連サイト
WDLC カンタンすぎる最新パソコン、買うなら今でしょ!
山口健太さんのオフィシャルサイト
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