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レノボはなぜモトローラが必要だったのか(石川温氏寄稿)

2014年01月30日 20時45分更新

うまくやったのはどっち?レノボがGoogle参加のモトローラモビリティのスマホ事業を29億ドルで買収

 レノボとグーグルは、グーグル傘下にあるモトローラ・モビリティのスマホ事業を買収する計画に合意したと発表した。買い取り価格は約29.1億ドル(約2910億円)となる。モトローラ・モビリティは、2012年に125億ドル(約1兆2500億円)で買収されたばかりだった。

 2012年当時、グーグルがモトローラ・モビリティを買収したのは、モトローラ・モビリティが所有する特許が欲しいという理由だった。アップルとの熾烈なスマホ競争を繰り広げる中で、特許を数多く所有している方が有利とされていた。もし、似たような機能や技術があれば、相手を訴えることもできるし、さらにライバルにライセンス供与することで、ライセンス料を得ることもできるからだ。グーグルとしては、Android OSを開発したものの、通信に関する特許などはほとんど所有していない。そこで、通信分野で歴史と実績があったモトローラ・モビリティを傘下に収め、アップルとの戦いを有利に進めようとしていたのだった。

Moto G

 モトローラ・モビリティはグーグル傘下になった後も、『DROID』シリーズや『Moto G』などの新製品を投入していたが、過去の栄光に比べれば、さほどプレミアムなブランドとも言えず、どちらかといえば、マイナーなブランドに成り下がっていた。グーグルとしても、本来の狙いだった特許が取得できたことで、モトローラ・モビリティのことを持て余すになった節がある。

 振り返ってみれば、グーグルとしては、モトローラ・モビリティを買収した当初は、特許取得だけでなく「メーカーになりたい」という願いがあったのかも知れない。当時、グーグル関係者に「なんで、モトローラ・モビリティを買収したのですか」と話を聞いたところ「OSで成功を収めたので、ハードをつくりたくなった」と語っていたことがある。確かに、グーグルは商品化せずに終わった『Nexus Q』といった製品を作るなど、メーカーにシフトし始めていた時期があった。

 しかし、去年ぐらいからのグーグルのスタンスや組織、人材に動きが見られ始めた。もしかするとその変化が、今回の買収劇に影響を与えているのかも知れない。

 グーグルがモトローラ・モビリティを買収した当時、Androidのトップはアンディ・ルービン氏が担当していた。その頃のグーグルは、Nexusシリーズをフラグシップとして位置づけ、Androidの方向性を見せようと必死だった。

 しかし、2013年3月にアンディ・ルービン氏からChrome OSを担当していたスンダール・ピチャイ氏がAndroidの開発統括を兼務するようになった。その後も、Nexusシリーズは継続されているものの、GALAXY S4やXperia Z UltraのGoogle Play Editionが出るなど、Nexusシリーズの役目を終わらせようとしている感がある。

 また、Nexusシリーズを積極的にアピールしていた、Android担当の上級副社長であるヒューゴ・バラ氏が2013年8月に中国の新興メーカーであるXiaomiに移籍している。

 グーグル社内において、Androidスマホのハードを自社で開発するというモチベーションがなくなりつつあるように感じるのだ。

 そんななか、持て余しつつあったモトローラ・モビリティの買収に興味を示したのがレノボだった。

 レノボは2005年にIBMからパソコン事業とブランドを取得して以降、世界的にも成功を収めつつある。ThinkPadといったパソコンだけでなく、中国や新興国市場では、スマホ事業にも積極的だ。従来は安価なラインナップが中心であったが、最近ではLTE対応モデルも投入するなど、ハイエンド路線にも進出し始めている。

 中国市場での成功もあり、世界的なシェアにおいてもサムスン電子、アップルに次いで3位という状況にある(ただし、スマホシェア3位はLGエレクトロニクスやファーウェイ、ZTEなども「うちが3位だ」だとアピールしている。調査会社や調査時期によって3位が入れ替わる団子状態であるため、自社の都合の良い数字を持ち出しているのが現状)。

 今回、レノボはモトローラ・モビリティを買収することで、確実に単独3位になることは間違いないだろう。

 レノボにとって、今回の買収は、まさにIBMからパソコン事業を買って、ThinkPadブランドを手に入れたのと同じ状況と言える。モトローラ・モビリティのブランドや製品ポートフォリオを手中に収めたことで、販路を拡大できる。これまでは中国や新興国だけが主戦場だったレノボのスマホ事業だったが、モトローラが得意としてきたアメリカ、さらにはヨーロッパにも足がかりができたことになる。

 また、モトローラ・モビリティが持っていた大半の特許をグーグルが所有することになったため、レノボが持っていなかった特許に関しても、グーグルからライセンス提供できるようになった。レノボがサムスン電子やアップルから訴えられる心配がなく、アメリカやヨーロッパに進出できるのは大きなメリットだろう。

 さらにレノボがモトローラ・モビリティを買収したことで、世界各国のキャリアとの交渉先を手に入れたというのも大きいだろう。
 たとえば、先日、レノボはタブレット端末「ThinkPad 8」を発表したばかりだが、日本ではLTE版が発売できずにいる状態にある。パソコンメーカーがSIMフリー端末を勝手に売るわけにはいかず、キャリアに接続試験などをお願いしないといけないようで、日本ではなかなかLTE版が製品化できていないとされている。将来的にはモトローラ・モビリティのルートが使えるようになれば、スマホやタブレットの販路としてキャリアとの交渉もやりやすくなるはずだ。

 日本でも、過去を振り返ってみれば、ドコモ、au、ソフトバンクでモトローラ製品を扱ってきた。タブレットだけでなく、レノボのスマホが日本市場で販売される可能性も一気に高まってきたと言えるのは間違いない。

●関連サイト
Motolora 公式ブログ該当エントリー(英文)

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