先週、佐賀県の県立高校が富士通製のWindows 8タブレットを導入するというニュースが話題となっています。
12月10日には佐賀県教育委員会と“Windowsクラスルーム協議会”(日本マイクロソフトなど45社で構成)が、教育の情報化についての共同研究を開始すると発表。12月13日には佐賀県教育委員会が、高校に導入するタブレットの機種を『ARROWS Tab Q584/H』に決定したと発表するなど、詳細が明らかになりました。
↑佐賀県の県立高校の新入生が購入する富士通製タブレットの同型機『ARROWS Tab QH55/M』。 |
このWindows 8タブレットの購入にあたり、県立高校の新入生は1人あたり5万円の負担が求められます。今回はさまざまな観点から、この取り組みを検討してみたいと思います。
■タブレットに5万円負担、は高いのだろうか?
佐賀県教育委員会によれば、導入するタブレットは『ARROWS Tab Q584/H 佐賀県学習用パソコン特別モデル』とのことです。Q584/Hは『ARROWS Tab QH55/M』の法人向けモデルとなっており、こちらをベースに高校生向けにカスタムしたモデルと考えられます。
スペックは、プロセッサとしてAtom Z3770(Bay Trail)を搭載、メモリは4GB、ストレージは64GBなど、基本構成を踏襲しています。着脱可能なキーボードは本来オプション品ですが、佐賀県向けモデルではキーボードを含んだ“2in1”仕様となっています。
↑キーボードがセットのため、タブレットとしてもノートPCとしても使える”2in1”仕様。 |
アプリケーションは『Office Professional Plus 2013』を搭載。これはボリュームライセンス用のOfficeで、『Access』、『InfoPath』、『Lync』を含む上位エディションです。そのほかにも辞書ソフトとして、三省堂の国語辞典、英和辞典、古語辞典を含みます。保証期間は、本体は3年間と長く、ペンとバッテリーは1年間保証となっています。
これらの構成を富士通の直販サイトで購入しようとすると、Officeやキーボード、3年間の保証を含めると、価格は少なくとも12万円以上。一方、佐賀県向けモデルでは本体価格が7万4千円となっており、かなりの割引が設定されていることがわかります。
実際には、このほかにも電子教科書など1万円ぶんの教材が含まれているため、総額は8万4000円程度。新入生が負担する金額は5万円なので、残りの超過分は佐賀県が補助するとしています。さらに、タブレットに含まれる2万円相当の紙の教材を購入する必要がなくなることから、実質の負担額は3万円程度になるとのことです。
公立高校において、全員が5万円のタブレットを購入しなければならないという点は、たしかに議論の余地があるといえます。たとえばすでにタブレットを購入してしまった家庭では、二重に購入することになるからです。しかし最新のWindows 8タブレットがこの価格で手に入る機会はめったになく、十分に魅力的なオファーという印象を受けました。実際の負担額である5万円についても、奨学金や分割払いを可能にする貸付制度が用意されるようです。
■“全部入り”タブレットの優位性
これに対して、そもそもARROWS Tab Q584/Hは適切な機種なのか、という指摘もあるでしょう。たしかにこのタブレットは、10.1インチ(2560×1600ドット)のディスプレイを搭載しており、Bay Trailタブレットの中でもかなりのハイエンドモデルです。もっと安いタブレットなら、新入生の負担を減らすことができるのではないか、と。
しかし私は、さまざまなWindows 8タブレットが存在する中で、この機種を選定した佐賀県教育委員会は、なかなか良い判断をしたという印象を受けました。たとえばバッテリー駆動時間はカタログ値で15.5時間(JEITA 1.0)と長く、実稼働時間で考えても丸1日の利用に十分耐えられます。仮に、前日の晩に充電することを忘れたとしても、何とかなりそうなスペックです。
また、Q584/Hは脱着可能なキーボードに対応していることに加え、デジタイザーによるペンを利用した手書きにも対応しています。これによりキーボード、タッチ、ペンの3種類の操作をフルに活用できることになります。近い将来を考えても、この3種類の操作方法をマスターしておけば、およそ困ることはないでしょう。
似たような位置づけのタブレットとして『Surface Pro 2』もありますが、Q584/Hは防水仕様となっており、よりラフな条件でも利用できる点がメリットといえます。
■将来に役立つのはWindows?
このようにARROWS Tab Q584/Hは、なかなか魅力的な選択肢であることがわかりました。これに対して、そもそも”Windows 8タブレット”はどうなのか、という指摘もあるでしょう。
しかし、この点については、昨日今日の議論でWindows 8を採用したわけではないようです。佐賀県の県立高校では2013年度からiPadとWindows 8タブレットの2機種を用いた実証研究を行なっており、その結果を踏まえた上で、Windows 8を選定しているからです。
その理由として、教員が教材の手直しや加工を行う際に、各学校に設置されているWindows PCを使えること、データのやりとりが容易であることを挙げています。このように、すでに職員室などでWindows PCが多数使われていることや、OfficeやFlashで作られた教材をそのままWindowsタブレットで使えることが、Windowsの優位性になったといえます。
もちろん、Windowsは自由度が高い反面、危険性もあります。さまざまな管理ツールでWindowsに制限をかけるくらいなら、2013年11月からSurfaceを導入した立命館小学校のように、より安全にWindowsを利用できるWindows RTという選択肢もあり得るでしょう。
一方で、教育現場向けタブレットとしてiPadを採用する事例も増えています。Windowsタブレットが出遅れたことや、親が購入したiPadを子供にも使わせる家庭が増えているといった背景から、今後は子供の頃からiOSに慣れ親しんだ“iOSネイティブ”世代が急速に増えてくると考えられます。
筆者の周囲でも、“iOSなら安心できる”という声が多いのも事実です。また、ソフトバンクBBは11月にスマート玩具を発表しましたが、これらはiPhoneやiPadを組み合わせて遊べるようになっています。これに合わせて来日したスマート玩具の開発者も、子供向けにはiOSの人気が非常に高いと語っていたのが印象的です。
↑ソフトバンクによるスマート玩具はiPhoneやiPad対応が中心。 |
↑おもちゃと組み合わせて遊ぶアイテムが増えていることからも、子供の頃からiOSに慣れ親しんだiOSネイティブ世代が増加しそうだ。 |
しかしながら、社会に出てから使う仕事用のPCとしては、今後も当分はWindowsが使われ続けていくでしょう。PC出荷台数は落ち込んでいるものの、企業環境ではWindows XPからWindows 7や8へのリプレースが進んでおり、少なくとも2020年くらいまではWindowsがビジネスにおける重要なインフラとして使われるものと考えられます。
こうした変化に対応する上でもっとも重要なのは、デバイスに依存しないリテラシーを身に付けることだと筆者は考えます。その上で、将来を見据えたとき、iOSとWindowsのどちらを積極的に使っていくべきかは、なかなか悩ましい判断を迫られる段階に来ているのではないでしょうか。
■コンピューターならプログラミングも体験できる
筆者の個人的な体験を振り返ると、中学生の頃、学校にパソコンルームが新設され、富士通の『FM TOWNS II』が導入されました。当時の筆者はPCに触れたことがありませんでしたが、何とかしてゲームを作りたいと考えました。そこで昼休みや放課後に中学校のパソコンルームに忍び込み、BASICのマニュアルを見ながらひたすらプログラミングをしていた記憶があります。
そういう意味では、先日、アメリカのオバマ大統領がプログラミング教育の重要性を訴え、アプリを使ったりゲームで遊ぶだけでなく、つくってみることを呼びかけたことには感銘を受けました。
たしかにiOSでも、適切なアプリを使うことで、プログラミングを学ぶことは可能です。しかし高校生ほどの年齢になれば、自由に使えるコンピューターを手に入れてほしいところです。そのためにはWindowsでも、あるいはMacでも構いません。何らかの形で、プログラミングによってコンピュータを理解してほしいと筆者は考えています。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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