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12月24日は赤鼻のトナカイ“ビッグ・レッド・ワン”を追え!

2013年12月16日 22時00分更新

 人工衛星、レーダー網、偵察機と北アメリカ防衛網の力を結集し、プレゼントを配るため世界中を飛びまわるサンタクロースを追跡するビッグプロジェクト『NORAD Tracks Santa』が、今年も12月24 日に始まろうとしています。

NORAD2013

『NORAD Tracks Santa』は、アメリカとカナダ共同の統合防衛組織、北米航空宇宙防衛司令部NORADのイベント。では、アメリカの軍隊がなぜ、サンタクロースを追跡するのでしょうか?

■サンタクロース追跡は間違い電話から始まった

 きっかけは1955年12月24日。地元新聞に掲載されたシアーズ百貨店の広告では、百貨店のイベントのひとつとして、サンタクロースが「私に電話してごらん」と呼びかけていました。“電話番号を間違えないようにね!”と続いていたにも関わらず、掲載されていた電話番号が間違っていて、それがよりによってCONAD(NORADの前身機関)の司令官、ハリー・シャウプ大佐のホットラインの番号だったのです。

 おかげで子供たちからシャウプ大佐のもとに「もしもし、サンタさんですか?」といった電話が相次ぎ、シャウプ大佐はひと晩中、子供たちからサンタクロースに関する質問電話を受け続けました。

 大佐はその体験をいかして、翌年からはオペレーターにサンタクロースが北極を出発したあとの所在を伝えるよう指示。サンタクロースを待ちわびる子供たちのためにと、NORADのサンタクロース追跡が始まったのです。

NORAD2013
© NORAD Tracks Santa

 1958年、CONADはNORADへと組織が変わりましたが、専用電話に応える形でサンタクロース追跡は続けられました。続く冷戦時代にも北米のラジオ放送でサンタ追跡状況を伝え続け、1996年以降はインターネットで情報を公開するようになり、知名度も徐々に世界規模になっていきました。

NORAD2013
↑米海兵隊のスタッフ・サージャント(曹長)も子供たちからの電話に対応する(写真は2012年度のもの)。
© 2013, NORAD Tracks Santa ®

 インターネット時代になり、サンタ追跡に活躍したのは、人工衛星情報可視化ソフトウェアです。もともとNORADは人工衛星、核ミサイル、戦略爆撃機などの監視が主で、地球の軌道上の物体を監視したり、スペースデブリ情報の基礎となるデータ形式を定義した組織。1997年には、世界中の宇宙機関関係者が利用しているAGIのソフトウェア『Satellite Tool Kit』を導入し、天空を駆け抜けるサンタの映像を作成しました。

 2007年~2011年はGoogleの『GoogleEarth』に、サンタクロースの位置がマッピングされることで一気に知られるようになり、2012年以降はMicrosoftの『Bing Maps』とコラボレーションしています。(※ちなみにGoogleは今年、Google マップの最新技術とソリの特殊テクノロジーを使って追いかける『サンタを追いかけよう』(関連サイト)を独自で展開中。)

 現在では、8ヵ国語でのサービスを行ない、200ヵ国の1800万人以上からアクセスが来るほど定番化したものとなっています。iOS、Android、Windowsストアアプリなどからも、12月24日夜はサンタクロースのリアルタイム追跡が可能になり、今年は2000万以上のアクセスが予想されています。

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↑Windowsストアアプリも登場(ただし英語のみ)。24日まではゲームやムービーを楽しむことができる。
© 2013, NORAD Tracks Santa ®


■サンタクロース追跡のテクノロジー

 2013年にYouTubeで公開された『NORAD Tracks Santa』トレーラー映像を見ると、サンタクロースはコールサイン“ビッグ・レッド・ワン”と呼ばれています。

“レッド”はサンタクロースや米国陸軍・第1歩兵師団の愛称などを連想させますが、サンタクロース追跡の技術に理由があります。映像の中でアメリカ大陸を円を描くように探知しているのは、アメリカの早期警戒衛星DSPです。弾道ミサイルが発する赤外線を探知して警報を発する人工衛星ですが、そのDSPがサンタクロースの9頭立てトナカイそりの先頭にいる、真っ赤なお鼻のトナカイさんこと、ルドルフの鼻から発せられる“赤外線”を、静止衛星で探知しているのです。

NORAD2013
↑潜水艦も登場。レーダーで赤いお鼻を探し出す。

 赤外線でサンタクロース一行を追跡する衛星は、もうひとつ、アメリカ海洋大気局の気象衛星GOESがあります。現在は2010年に打ち上げられたGOES-15衛星が西海岸と太平洋を観測していますが、こちらも赤外線センサーをもっています。ふだんはハリケーンの探知をしているのですが、クリスマスシーズンにはNORADに協力。気象レーダーで捉えたサンタクロースの映像配信も行なっており、NORADのバックアップクルーといった役割を担っているのです(NASAも、協力機関のひとつです)。

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↑宇宙からサンタの位置を把握するために使われるGOES衛星。
© NASA/Honeywell Tech Solutions, C. Meaney


■サンタクロースはどこから来るの?

 サンタクロースの旅は北極から始まります。そりを最初に探知するのは、地上レーダー網です。NORADはカナダとアメリカ北部で1980年代以降、『North Warning System』と呼ばれるレーダー網を運用しており、470kmの探知能力をもつAN/FPS 117レーダーをはじめとした47ヵ所のレーダー設備を駆使して、サンタクロース出現の発見に全力をあげるのです。

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↑2013年9月、NORADに遊びに来たサンタクロース。
© 2013, NORAD Tracks Santa ®,Photo by Michael Kucharek
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↑イージス艦も登場。

 また、海上では、イージス艦搭載のレーダーがサンタクロースを追尾。世界を自由に旅するソリは各国の防空識別圏に侵入しまくるため、北米地域では、NORADのカナダ部隊がCF-18ホーネット戦闘機でのエスコートフライト任務を担当しています。サンタ飛行中には、各国の“サンタカム”ネットワークと呼ばれるカメラの前をそりが駆け抜けていく様子が順次配信され、このときのサンタの映像を中継するのが前述のAGIです。

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↑世界各地に配置された“サンタカム”でサンタの姿をとらえます。

 世界規模になったとはいえ、NORAD Tracks Santaはとてもアメリカ的なお祭り。もともと、キリスト教以前の民話や信仰にルーツをもつサンタクロースの伝説を、“クリスマスの日にトナカイのひくそりに乗って子供たちにプレゼントを運ぶ”という物語としてまとめあげたのはアメリカだからです。1823年に詩人クレメント・クラーク・ムーアが発表した『A Visit from St. Nicholas』の詩から、8頭のトナカイにダッシャー、ダンサー、プランサー、ビクセン、コメット、キューピッド、ダンナー、ブリッツェンの名前がつけられたと言われています(詩の作者についてはヘンリー・リヴィングストン・ジュニアとの説も)。

 さらに、1939年、アメリカの百貨店モントゴメリーワードのクリスマス景品として製作された絵本『Rudolph the Red-Nosed Reindeer』に9頭目のトナカイ、ルドルフが登場し、霧の夜道を照らす赤い鼻のイメージが完成しました。モントゴメリーワードと同じ、カタログ通販百貨店シアーズの広告から偶然にも始まった『NORAD Tracks Santa』は、テクノロジーが完成させたアメリカの新しいおとぎ話と言ってもいいでしょう。


※週刊アスキー本誌では、毎週、知っているようで知らない宇宙の知識を、優しく読み解く連載『2014年宇宙の旅』を掲載しています。ぜひ、あわせてお楽しみください。

■関連サイト
NORAD Tracks Santa
NORAD Tracks Santa | Facebook
Satellite Tool Kit

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