iPad Air発売前日の10月31日、インテルが開催したソフトウエア開発者向けのフォーラムにおいて、ドコモ・インテル・サムスンの3社がTizenについての最新情報を共有しました。
第3のOSのひとつとして知られるTizenは、ドコモが参加していることもあり、国内でも注目が高まっています。今回はこのイベントで発表された内容をもとに、Tizenの可能性を検証してみたいと思います。
↑ドコモからはプロダクト部技術企画担当部長の杉村領一氏が登壇。同時にTizen AssociationのChairmanも兼任しており、ドコモが果たしている役割の大きさがわかる。 |
■現在のTizenはモバイル向けと自動車向けの2系統
現在、OSとしてのTizenはスマートフォン向けの“モバイル”プロファイルと、車載用の“IVI”プロファイルの2系統に分かれて開発が進んでいます。
モバイルプロファイルは、携帯電話やスマートフォンを想定しています。主にローエンドをターゲットとしているFirefox OSとは異なり、より幅広いレンジを想定。HD/WVGA解像度でメモリーは512MB以上という“Full”仕様のほかに、HVGA/QVGA解像度でメモリーは256MB以上という"Lite"仕様もあり、様々な価格帯のスマートフォンを実現できるようになっています。
↑幅広い価格帯のスマートフォンを想定した仕様となっている。 |
まだTizenを搭載したスマートフォンは発売されていないものの、開発機としてGALAXY S IIやIIIにTizenをインストールした端末が利用されています。
一方、IVIプロファイルは“車載用インフォテインメント”と呼ばれるシステムで、現在のカーナビやカーオーディオなどを統合したデバイスとなります。これまでのカーナビは、メーカー各社が独自にOSを開発してきたものの、インターネット接続やアプリ対応など、求められる機能はどんどん増えています。そこでTizen IVIは、車載用システムの共通OSとして、有力な候補になっています。
↑システナによるTizen IVIシステムの例。カーナビ上で、スマホとの連携によるパーソナライズ化やFacebook連携などを利用できる。 |
たとえばカーナビに表示する地図にFacebookアカウントを結びつけ、ユーザーが関心のある飲食店やショップを優先的に表示するといったパーソナライズが可能になります。カーオーディオとして音楽のストリーミングサービスを聴いたり、後部座席のモニターでYouTubeを見るといった機能も想定されています。
■今後のTizenはマルチデバイスへと向かう
このように、現時点でのTizenのターゲットはモバイルと自動車ですが、今後はテレビやカメラ、プリンターといったプロファイルが提供される予定です。このマルチデバイス展開は、2014年第2四半期リリース予定の“Tizen 3.0”の目玉機能となっています。
組み込み向けの新OSとして、最近ではAndroidやWindows Embeddedの人気も高まっているものの、Tizenの魅力はWeb標準技術を中心とした、デバイス間連携の容易さにあるとのことです。
↑Web標準技術を中心に、様々なデバイス間での連携を実現。 |
また、Tizenの面白いところはデジタル家電だけでなく、白物家電の分野を含めて幅広い製品群を持つサムスンやパナソニック、富士通が参加している点にあります。特にサムスンは、デジタルテレビ製品のOSとしてTizenの採用を決定したとのこと。今後、白物家電や調理家電がスマート化して相互に連携する“スマートホーム”も視野に入れた仕様となっている印象です。
↑幅広い家電製品を揃えるサムスンやパナソニック、富士通の存在が目立つ。 |
■Tizenスマホは日本で発売されるのか?
とはいえ、現在のデジタル家電の主役であるスマートフォンの分野においてTizenがどれくらい受け入れられるのか、日本では未知数の部分も大きいところです。
特にドコモは、2013年冬春モデル発表会でTizenを発表するのではないか、という見方が有力でした。しかし発表会直前には開発の遅れにより来年に延期となったという新聞報道がなされ、実際にTizen端末は発表されませんでした。
この点についてドコモの杉村氏は、「よりよいものをお届けするために開発を続けている段階」とコメントとしています。また、「グローバルでのタイミングも見ている」とも発言していることから、海外キャリアと協調した動きになる可能性もあります。いずれにしても杉村氏はグローバルを強く意識していることから、来年1月のCESや2月のMWCでの発表にも期待が高まります。
また、9月にドコモがiPhoneを発売したことも、Tizenには影響しないとしています。その理由として、ドコモはOSに依存しないサービス環境を構築したいというビジョンを持っていることを杉村氏は挙げています。この言葉を文字どおり解釈すれば、OSに依存しないHTML5アプリを充実させたいということになりますが、その一方でアップルやグーグルに依存しない“ドコモ独自OS”を持っておきたいという思惑も感じられます。
杉村氏は「できれば実際に動いている端末をお見せしたかった」としており、すでにドコモ社内にはTizenが動作する実機があることを示唆しています。2014年には、ほぼ確実にTizenを搭載した端末が発売されると考えてよいでしょう。
■日本ではWindows Phoneよりも先行か
このようにドコモがTizenへの取り組みを強化する一方で気になるのは、同じく“第3”のポジションを狙うWindows Phoneです。米国を始めとする海外ではシェアが確実に上昇している一方で、ドコモやKDDIはWindows Phoneに対して様子見の姿勢を取っています。
日本マイクロソフトの元Windows Phone担当者も「社内的には進展なし」との回答。かつて数名いたWindows Phoneのプロダクト担当者は、配置転換や退職により、現在ではいなくなってしまったとのことです。少なくとも米マイクロソフトによるノキアの買収が完了するまでは、同社としても様子見の姿勢が続くものと見られます。
このことから、2014年に登場する“第3”のプラットフォームとしては、まずはTizenが先行して注目を集めることになりそうです。
山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります