今年も、11月3日と4日の2日間、DIYの祭典「Maker Faire Tokyo(メイカーフェア・トウキョウ)」が東京お台場の日本科学未来館で開かれた。Makre Faireは、アメリカ発のテクノロジー系DIY工作専門雑誌『Make』が主催するイベントで、2006年にアメリカのカリフォルニア州で最初に開かれてから、毎年カリフォルニアとニューヨークで、今年からはヨーロッパでも開かれていて、日本では今年で2回目となるが、それ以前は「Make:Tokyo Meeting」という名前で7年間続いてきた。
「Maker(メイカー)」とは、ジャンルを問わず、とにかく作ることが大好きな人たちの世界共通の呼び名だ。Makerは自分の作品や開発した技術を秘密にするのではなく、互いに教え合い情報を共有することで、よりよいものを作ろうというオープンソースの精神を大切にしている。それがインターネットによって世界的なコミュニティーに発展し、第二の産業革命とも呼ばれるMakerムーブメントを引き起こしている。Maker Faireの規模が世界で年々大きくなっていることが、Makerムーブメントの盛り上がりを示している。
今回の「Maker Faire Tokyo」も熱気がすごかった。退場者には若い女性や家族連れも目立ち、小さな子供たちがワークショップで作ったLEDバッジを胸に光らせ、目をらんらんと輝かせて開場を歩き回る姿が印象的だった。今年の出展者数は約300。そのなかの、ほんの一部を紹介しよう。
スマポン
携帯電話の開発者である岡田貴裕さんが趣味で始めたプロジェクト。スマホの操作がすべてタッチパネルでいいのかと疑問に感じ、実際に手で触れられるインターフェイスを考えている。
写真の黒電話は、スマホの電話機能を黒電話に「戻した」もの。ダイヤルを回せば、接続されたスマホからちゃんと電話がつながる。かかってくればベルが鳴る。
そのほか、USBメモリーのようにスマホになぐだけで、アプリがインストールされて使えるようになるガジェットも作っていた。
今は趣味の段階だが、将来はこれを実際の携帯電話開発に役立てたいと岡田さんは話していた。
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16分の11拍子
超小型飛行体
超小型飛行体研究所は、ラジコンのウルトラライトプレーンや羽ばたき飛行機を作っている。特徴的なのは、羽ばたき飛行機のフレームやパーツを3Dプリンターで作っていることだ。
ラジコン羽ばたき飛行機のキットを販売しているのだが、手作りの少量生産のため、金型を起こして大量生産するのではリスクが大きすぎる。そこで3Dプリンターを使えば、少量を安価に作れるばかりか、短いスパンでどんどん改良できるという利点がある。そのため羽ばたき飛行機の骨組みは、速いペースで「鳥類の骨格の進化を追うように」改良が進んでいるという。
こちらも超小型飛行体研究所の製品なのだが、充電不要の携帯電話というジョークグッズ。
木の板に仏様が描かれているだけ。この研究所の所長、宗像俊龍さんが、息子さんに携帯電話が欲しいと言われたときに思いつき、洒落で作ったのだそうだ。だが、これを修学旅行に持たせてやると、京都で外国人に大受けし、どこで売っているのかと聞かれたので製品化したという。なんでも思いついたら作ってみる。それがMaker精神だ。
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超小型飛行体研究所
乙女電芸部
乙女電芸部(otoden)は、クラフトと電子工作と笑いを合体させた作品を作る「乙女」の会。フェルトで作ったお寿司が自分で回転する自走式回転寿司や、内蔵されたマイクロコントローラーがサーボモーターを制御しスポンジを動かして、かぶっている人の頭をなでなでしてくれる帽子など、最新技術を無駄に使ったお馬鹿な作品を展示していた。
LEDを好きな素材といっしょにレジンで固めて、オリジナルのLEDを作るコーナーもあった。ビーズやスパンコールなど、お客さんが選んだ素材を、好きな形の型にに入れて、LEDといっしょにレジンで固める。まるで縁日の飴細工のような雰囲気だ。小さな女の子たちに作る楽しさと、テクノロジーの面白さを教えたいということだった。
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乙女電芸部
OtOMO オトナ×コドモ×プログラミング
写真は、東京の三軒茶屋で子供たちを集め、子供向けの教育用プログラミング言語”スクラッチ”を教えているクラブOtOMOのメンバー。(左から)小学校4年生の鹿島悟くん、中学1年生の森田昌樹くんと佐藤連くんは、それぞれ自分で作った楽器を装備した"スクラッチンドン屋”として開場を歩いていた。
彼らが身につけている楽器には超小型コンピューターRaspberry Piが組み込まれている。彼ら自身が製作したプログラミングによってセンサーや音源を操り、いろいろな音を出す仕掛けだ。
スクラッチのプログラミングはとても楽しいそうだ。大人になっても「ずっとやっていたい」と佐藤くんは言っていた。みんな、最高にクールな大人になるだろう。
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OtOMO
軽量電動飛行機“立ち乗りくん”
鳥人間コンテストにも何度も参加している、飛行機好きが集まったTeam TAMADASHIは、現在開発中で年内の初飛行を目指している軽量電動飛行機“立ち乗りくん”の翼だけを展示していた。
鳥人間コンテストに使用するような機体は決められたパイロットが乗ることになっているが、ほかの仲間も飛びたい気持ちは同じ。そこで、誰でも気軽に乗って飛べる飛行機を作っちゃおう、ということになった。
飛行機というより、「ちょっと浮く感じ」を楽しむものだという。ラジコン飛行機用の電動モーターで推進する。「電気自動車でも電動飛行機でも、新しいコンセプトの乗り物は、こうした遊びの中から普及していくんだと思います」とメンバーのひとりは話していた。
ペーパークラフトロボット
兵頭吉博さんは、ゴム動力で二足歩行するペーパークラフトのロボットを展示していた。キットも販売しているのだけど、組み立てが難しすぎて、これまでに買った人から「できた」という報告はまだひとつも受けていないという。かなり難易度が高いために、対象年齢は15歳以上。かならず失敗するので、すべてのデータがデジタルファイルで付属している。失敗したら自分で紙に印刷して、何度でも挑戦できる。
機械技師の兵頭さんは、金属やプラスティックの機械は使われなくなると廃物になるが、紙の機械は朽ちて消えるところがいいのだと話していた。
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Mechanical Paper Model
クレイジーキッチン ケミカルカレー
電子音が鳴り響き、LEDが点滅し、ロボットが動き回る会場の一角に、白衣を着た人たちが白い粉を混ぜて遊んでいた。そこにはカレーの匂いが漂っている。彼らはニコ生企画放送局で知り合った料理仲間。クレイジーキッチンと題して展示実演していたのは、食品添加物だけでカレーを作ろうという企画。
とかく悪者にされる食品添加物だが、普通に市販されている安全な物質を組み合わせるだけで、いろいろな味が作れるところが面白いという。メンバーの野々村美緒さんは、食品添加物は「味の因数分解」だと話していた。味を構成する基本材料の組み合わせで、理論上はどんな味でも作れるという。
買ってきた食品に添加物がばっちり入っていたらいい気持ちはしないが、自分で理解して使うのはアリかもしれない。これも”メイク”の世界だ。
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[NKH]ニコ生企画放送局
カガクノート
Maker Faire Tokyoでは電子工作、手芸、LEDを使ったクラフトなど、さまざまなワークショップも開かれたが、科学実験を体験する“カガクノート”では、卵の落下実験ワークショップを行っていた。
紙コップやストローなど、与えられた材料だけを使って、生玉子を軟着陸させる”機体”を作り、実際に高所から落として結果を見るというものだ。
参加者が作った機体が、カウントダウンとともに順番に落とされる。かなり盛り上がっていた。
カガクノートは、科学の面白さを遊びながら学ぼうというコンセプトで、ワークショップやイベントを開いている、科学好きサラリーマンの団体だ。
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カガクノート
Z-Machines
Maker Faireの楽しみには、自作楽器やコンピューターシステムを使った音楽演奏などのパフォーマンス展示もある。なかでも圧巻だったのは、ソーシャル・パーティー・ロボットバンドZ-Machinesだった。
今回登場したのは、ギターロボットの“マッハ”とドラムロボットの“アシュラ"の2台。
これは、ZIMAを販売するモルソン・クアーズ・ジャパンの企画で製作されたプロモーション用のシステムなのだが、開発者たちによるトークショーから、いろいろな苦労話が聞けて興味深かった。
実際の演奏は短かったが、マッハはケーブルの髪の毛を振り乱して2台のギターを同時に弾き、アシュラは何本もの手を使ってドラムを叩きまくる姿には迫力があった。
すでに海外からも公演以来が多く寄せられているというのだが、どこかのクラブやパーティーで実際に出会えるかもしれない。
3Dプリンター
Maker Faireには、Makerばかりでなく、Makerを支援する機器の開発業者なども出展している。今年の目玉は、なんといっても3Dプリンターだ。メイン会場の入口には数々の3Dプリンターが展示されていた。
ほとんどのプリンターはアメリカ製なのだが、その中で、メイドインジャパンで頑張っているbonsai labがあった。
直駆動式ヘッドを採用して日本製ならではの精度を極め、しかも価格を20万円以下に抑えるという。学校教育に3Dプリンターを活用できるよう、教育関係者や現場の教師たちの意見を採り入れて、開発を進めている。
このクラスの3Dプリンターが採用している熱溶融積層造形法と呼ばれる方式は、もともとオープンソースであるため、bonsaiもオープンコミュニティーの一員として仕様を公開している。技術をクローズにして囲い込んでしまうより、オープンにしてコミュニティーの力を借りて開発していくほうが、「進歩の速度が断然速い」のだと言う。彼らもまた、Makerなのだ。
他のオープンな3Dプリンター製造業者とのつながりを作ることも、今回Maker Faireに出展した理由だという。「Maker Faireって、そういうところですもんね」と広報の白沢みきさんは話していた。まさに、そういうところだ。
Makerムーブメントは、確実に日本でも動き出していることを実感できたMaker Faire Tokyo 2013だった。
●そのほかにも気になる展示が!
↑チームスケルトニクス。人力によるロボットスーツのデモンストレーション。 |
↑Oscilloclock.com。オシロスコープの基板をそのまま利用した時計。 |
↑The-MenZ。HDDのディスクを利用したDJシステム。光学ドライブがスイッチングシステムになっている。 |
↑ズボンのチャックの空き具合をLEDで表示してくれる。 |
↑松下組婦人部「Haconiwa」。電池やLED(クマが光る)のブロックをフェルトで作成。ボタンでつないで回路を作っていく。 |
↑ロボット工房のらとりえ。手乗りの電子箱庭や電子基板スケールなどを販売していた。 |
↑Arduino互換のインテル「Galileo」で作成した、猫よけペットボトルシステム。猫が近づくとセンサーが反応し、レーザー光で威嚇。 |
●関連サイト
Maker Faire Tokyo 2013
Make:Japan
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