週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

“アニソンはハイレゾ業界の起爆剤になる” e-onkyo musicの中の人に訊いた

 このところ、対応機器が続々と発表されるなど人気の高まりを見せているハイレゾ・オーディオ。ハイレゾ音源配信サイト『e-onkyo music』の黒澤拓氏に、その背景やコンテンツ配信の舞台裏、今後の展開などを聞いた。

オンキヨーエンターテイメントテクノロジー株式会社
ネットワークサービス部 音楽コンテンツ企画課 ディレクター
黒澤拓 氏

e-onkyo

■ハイレゾ・オーディオは趣味性が高い“男子の世界”

――最近、ハイレゾ・オーディオが盛り上がっているのはどういう理由なんでしょうか?
黒澤 高音質に興味があっても、聴きたい作品がなければユーザーには意味がないですよね。その意味で、コンテンツが増えてきたのがやはり大きいです。2012年はワーナーやユニバーサルといった大手レコード会社がハイレゾ音源の提供を始めたことで、業界として転機になったと思います。

――e-onkyo musicでもほかの配信サイトでも、ジャズやクラシックの作品が他ジャンルと比べて多くそろうのはどうしてですか?
黒澤 第一に、スタジオやコンサートホールでの“空気感”が大事にされているジャンルだからですね。すべての作品がそうというわけではありませんが、ロックやポップスと比べてそのあたりの音質にこだわった録音をしている作品が多く、ハイレゾ音源とCD音源で聴き比べた際に音質の違いがわかりやすいということが言えます。また、ハイレゾ音源の高音質に価値を見出すユーザーがジャズやクラシックのファンには多い点も挙げられます。ハイレゾ・オーディオのユーザー層はオーディオファンとほぼ重なっているのですが、やはりオーディオの世界では「ジャズとクラシックがいちばん」という認識が少なからずあるのかもしれません。配信サイト側もユーザーが求めるものを優先して配信していきますので、そういう偏りが生まれるわけです。

――e-onkyo musicのユーザー層は?
黒澤 男女比は圧倒的に男性が多くて、やはり趣味性が高い“男子の世界”という感じですね。残念ながら、高音質を求める女性というのはまだまだめずらしい存在です(笑)。年齢のほうは40~50代が中心で、約6割を占めています。60代以上も15パーセントほどいて、30代以下は残りの4分の1程度です。

e-onkyo music
e-onkyo
↑2005年にサービスを開始した老舗サイト。WAV、FLAC、DSDファイルで配信。約2万3000曲(2013年10月現在)という国内最大級の品ぞろえが魅力だ。

■良い作品をみつけるのは“宝探し”みたいなもの

――サイトでの配信作品の紹介で、工夫をしている点はありますか?
黒澤 CDでもそうですが、ユーザーが音楽を探すうえでとっかかりになるのは、やはりアーティストの知名度なんですね。ですので、知名度がある作品はそれをきっちりと見せていく。一方で、知名度はそれほど高くないけれど、良い録音がされていてハイレゾ・オーディオのすばらしさを十分に感じられる作品というのもあります。こういう作品はこちらでシリーズ化することで、サイト上でユーザーと出会いやすくなる工夫をしています。e-onkyo musicのおすすめであることを明確に打ち出すことで、ユーザーが安心して購入してくれればいいなと思っていますね。

――では逆に、苦労している点は?
黒澤 ユーザーのあいだでは「良い作品をみつけるのは“宝探し”みたいなものだ」とよく言われます。録音にいたる経緯とか使用した機材、関わったエンジニアなどを手がかりにして、良い作品を探し出していくわけです。ですので、配信する側はそういう情報を充実させないといけないのですが、レコード会社や作品などによってはそれが提供されないこともあるので、なかなか難しいのが実情です。今後、業界全体で統一フォーマットを作る必要があるのではないかと思いますね。

――レコード会社にとって、マスターは“虎の子”ですよね。それをハイレゾ音源で配信してしまうとCDなどのパッケージが売れなくなるという懸念から、出し渋る傾向があるように感じるのですが。
黒澤 そういう傾向がないとは言えないでしょうね。特に日本はパッケージが世界でいちばん売れているので、その傾向が強いのかもしれません。ただ海外では、デジタル化がドラスティックに進んでいるので割り切っている部分も大きい。ワーナーやユニバーサルといったグローバル展開している大手が日本でも配信に踏み切ったことで、今後はその流れに傾くでしょう。CDを買ったことがない若いユーザーも出てきていますし。

黒澤氏の愛用機材はコレ!
e-onkyo
↑イタリアのブランド『BUTTERO』製の専用皮革ケースが高級感を醸し出す『Astell&Kern AK120』。通勤中などに使用しているとのこと。

■アニソンはハイレゾ・オーディオ業界の起爆剤になる

――過去の作品も徐々にハイレゾ音源化されていますが、アナログとデジタルなど、録音状況の違いは影響がありますか?
黒澤 アナログ録音とデジタル録音では“質感”にやはり違いがありますね。主観的な部分にもなってくるのですが、アナログはツヤがあるというか、丸みのある音が特徴です。デジタルのほうはエッジが立った感じになりますし、ノイズが少なくて透明感も際立ちます。今でもアナログで録音しているスタジオもありますし、そこは音楽ジャンルや好みによって使い分けられている状況です。たとえばマイクでも、最先端のテクノロジーが投入された製品がある一方で、ノイマンのビンテージマイクなどはいまだに高値で取引されていますよね。だから、アナログ録音であってもその“味”がしっかり残るようにエンジニアが作業をしていれば、デジタル化しても魅力は失われないと思います。

――ハイレゾ音源化が難しい作品というのはありますか?
黒澤 '80年代前半にCDが登場して録音環境も徐々にデジタル化されていくのですが、'80年代後半から'90年代にかけては技術が進化していく過渡期だったので、デジタルでも16bitとか20bitでしか録音できなかったんですね。だから、そのころに録音された作品は、アナログマスターも存在しないし24bitデジタルでもないという状況です。その作品群をどう扱うかというのは課題としてあります。

――その時代の音楽のファンはCD音源で我慢しないといけない?
黒澤 ただ、その解決策がないわけではなくて、たとえばビクタースタジオが独自開発した“K2HD Processing”という高音質化技術があります。これは16bitとか20bitの音源を24bit化するものですが、単純なアップサンプリングとは違って、独自のアルゴリズムで失われた音を甦らせることができるんですね。しかも、これを使ったあともマスタリングをしっかりしてできあがった音を確認もしているので、ファンも納得できる音になっています。e-onkyo musicで配信しているKiroroとか夏川りみなどの作品はこの技術を使ってハイレゾ音源化した作品ですが、けっこう売れています。配信サイトとしても、'80年代後半から'90年代というのはCDがものすごく売れて作品数もヒット作も多い時代なので、それを放置しておく手はないだろうという考えですね。

――今後を考えると、若いユーザーにどうアピールするかも課題になると思いますが、彼らに人気のコンテンツとしてアニメソングの配信はどうでしょうか?
黒澤 それは取り組みを始めているところです。2013年前半にはポニーキャニオン作品の配信を開始しましたし、10月30日からはランティス作品5タイトルも配信を開始します(関連記事)。高級ヘッドホンでアニメソングを聴くユーザーも増えていますし、ハイレゾ・オーディオ業界の起爆剤になる可能性は十分にあると期待しています。

●ランティス ハイレゾ配信 第1弾(10月30日配信予定)

『ラブライブ!』 シングル5種 (TRUE STUDIO MASTER)
1st 僕らのLIVE 君とのLIFE CW/友情ノーチェンジ
2nd Snow halation CW/baby maybe 恋のボタン
3rd 夏色えがおで1,2,Jump! CW/Mermaid festa vol.1
4th もぎゅっと"love"で接近中ぱ CW/愛してるばんざーいぱ
5th Wonderful Rush CW/Oh,Love&Peace!

●ランティス ハイレゾ配信 第2弾(11月下旬配信予定)

『麻生夏子』 シングル8種 (HD RENEWAL MASTER)
1st Brand new world CW/Good smile season
2nd Programming for non-fiction CW/Music for science&magic (AL 購入者には表題曲の未発表リミックス音源プレゼント)
3rd Perfect-area complete! CW/Dream into action!
4th Everyday sunshine lineぱ CW/Teadrop of Rain
5th More-more LOVERS!! CW/Twinkle night star (AL 購入者にはCW 曲の未発表リミックス音源プレゼント)
6th ダイヤモンドスター☆ CW/starry-eyed future
7th 恋愛向上committee CW/Sweet Sweet Sweet
8th エウレカベイビー CW/Pop step trip!

e-onkyo
e-onkyo
e-onkyo
e-onkyo
e-onkyo

●関連サイト
e-onkyo music

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります