Windows情報局ななふぉ出張所
“艦これ”高速化より世界で話題のSurface 2から“デスクトップ”タイルが消えた理由
Surface 2の発売にあたって、日本では“艦これ”が速くなったという話題が先行していますが、世界的には“デスクトップ”にも注目が集まっています。
↑10月25日に日本でも発売されたSurface 2。 |
その理由は、The Vergeなど海外メディアが報じた(http://www.theverge.com/2013/10/22/4868028/microsoft-drops-rt-from-surface-tablet-name)とおり、Surface 2のスタート画面からは“デスクトップ”タイルが取り除かれたからです。
モダンUIとデスクトップについて考察した前回(http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/179/179523/)に続き、今回はWindows RTとデスクトップの関係について改めて考えてみましょう。
■Surface 2から消えた“デスクトップ”タイル
Windows8のスタート画面からデスクトップを開くためのもっともわかりやすい方法が、デスクトップタイルをクリックすることです。しかしSurface 2では、このデスクトップタイルがスタート画面から取り除かれています。
たしかに日本版のSurface 2においても、スタート画面にデスクトップタイルは見当たりません。
↑日本版Surface 2のスタート画面。 |
プレス画像を元に作られたと見られるSurface 2の実寸大カタログにも、デスクトップタイルはありません。
↑Surface 2の実寸大カタログ。やはりデスクトップタイルはない。 |
また、Surface 2と同じくWindows RT 8.1を搭載するノキアの『Lumia 2520』についても同様です。すでに公開されているプレス画像にデスクトップタイルが見当たらないことから、実際に出荷されるLumia 2520からも同様の仕様となることが予想されます。
↑ノキアのLumia 2520も同じ仕様になりそうだ。 |
なお、一部のプレス画像ではSurface Pro 2からもデスクトップタイルが消えたように見えますが、出荷された実機ではスタート画面の一番左下のタイルとして配置されているようです。
このようにSurface 2では、スタート画面からデスクトップタイルが消えていることがわかります。とはいえ、アプリ一覧画面には従来どおりデスクトップという項目が残っており、それを自分でスタート画面にピン留めすることは可能です。また、Surface 2にMicrosoftアカウントでサインインした場合や、Windows RT 8.0からアップデートした場合のようにスタート画面が出荷状態ではない場合、デスクトップタイルが強制的に消されることはないようです。
実際、Windows RT 8.1においても機能としてのデスクトップ画面はしっかりと残っています。Office 2013 RTはもちろん、“エクスプローラー”や“メモ帳”といったデスクトップアプリを起動することも可能です。単に、Surface 2のスタート画面からデスクトップタイルが消えたという小さな変更に過ぎません。
■Windows RTのデスクトップは何のために存在するのか
しかしこの小さな変更により、Surface 2からデスクトップという存在がわずかに遠のいたことも、また事実と言えます。
そもそもWindows RTにおけるデスクトップには、何の意味があるのでしょうか。Windows RTのデスクトップには、前述のOffice 2013 RTや“エクスプローラー”、“メモ帳”など標準搭載のアプリ以外に、デスクトップアプリを追加することはできません。
現時点でマイクロソフトは、Windows RT向けのアプリ開発をWindowsストアアプリに一本化しています。また、プロセッサーのアーキテクチャーが従来のWindows(x86)とは異なるARMであることも、要因のひとつです。
しかしマイクロソフトは、ARMプロセッサー用にデスクトップアプリを開発するための技術情報をほとんど公開していません。ストアアプリ以外の開発者を拒絶しているといっても過言ではない状態です。たしかにVisual StudioにはARMプロセッサー用のC++コンパイラーが付属します。しかし開発に必要なライブラリーやドキュメントは不足しています。仮にいくつかの困難を乗り越えてARM用デスクトップアプリをコンパイルできたとしても、Windows RTで動作するデスクトップアプリには“マイクロソフトによるデジタル署名”が必要という、厳しい制限が課されています。
↑Visual StudioにARM用のC++コンパイラが含まれるものの……。 |
明らかにマイクロソフトは、サードパーティーがWindows RT上で任意のプログラムを動作させることを歓迎していません。プラットフォームに依存しない実行環境である.NET Framework用のアプリに非対応であることや、Office 2013 RTでVBAがサポートされないことも、このポリシーの延長線上にあるものと筆者は考えています。
その一方で、Windows RT 8.0では任意のARM用デスクトップアプリを動かすための“脱獄”手法が発見されています。しかしこの手法は脆弱性を利用していることもあり、Windows RT 8.1ではマイクロソフトによって対策されています。
現時点でWindows RTのデスクトップは、まだ“モダン化”されていないOffice 2013 RTのために存在しているといってよいでしょう。今後、モダンUI版のOfficeアプリが登場することで、ただちにWindows RTのデスクトップが無効化されるとは思えませんが、長期的にその重要性は下がっていくことになりそうです。
■スマートなアプリが必要な理由
開発者のなかには、Windows RTの普及のためにデスクトップを“開放”することが必要だと主張する人もいます。たしかに、単に“ARM用のWindows”を普及させたいのであれば、それは正攻法と言えます。
しかしデスクトップアプリには問題も多く、時代遅れな面もあります。たとえばデスクトップアプリでは、“レジストリを汚す”とか、“システムファイルを破壊する”、あるいは“OSごと落ちる”といった問題が報告されることがあります。これらはどれも、やろうと思えばできてしまう、自由度の高さの裏返しと言えます。
そのなかには、ウィルスなどのように意図的に記述された“悪意のある”プログラムも含まれています。しかしプログラマーの勘違いやタイプミスによって、意図せず生み出される“バグ”も含まれます。恐ろしいことに、両者の違いを明確に線引きすることはできません。
↑ストアアプリはビジュアルだけでなく“安全性”も高い。 |
これに対してWindowsストアアプリは、モダンUIによる新鮮なビジュアルばかりが取り沙汰されがちですが、デスクトップアプリが持っている様々なリスクを軽減しようと試みていることも事実です。OSレベルでのセキュリティー機構と人間の手による審査を組み合わせることで、完璧とは言わないまでも、機能性と安全性を両立したスマートなアプリ環境を実現しようとしています。
現時点ではストアアプリのラインナップが十分ではないため、これは机上の空論に感じられるかもしれません。しかしSurface 2からデスクトップタイルが消えたことは、Windowsのスマート化に向けた大きな一歩と考えてよいでしょう。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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