↑ドイツ、ベルリンで開催したIFA2013では、壁にずらりとレンズスタイルカメラ『DSC-QX100』、『DSC-QX10』が並んでいた。 |
↑IFA2013のプレスデイでは、多くのマスメディアが競うように取材していた。 |
9月6日~11日まで、ドイツのベルリン・メッセで開催された世界最大のエレクトロニクス展示ショー『IFA2013』。9月4日には開催に先立って世界各国から集まったマスメディア向けにカンファレンスが行なわれ、そこでソニーの平井一夫社長兼CEOから「One Sony」というキャッチフレーズのもと、ソニーが抱える様々なセクションの垣根を超え、技術力を結集したスマートフォン新モデル『Xperia Z1』をはじめとするオリジナリティー溢れる新製品が続々と発表された。
とりわけ注目を集めた新製品、レンズスタイルカメラ『DSC-QX100』&『DSC-QX10』、ミュージックビデオレコーダー『HDR-MV1』について、IFA会場に展示の準備のために訪れていたソニーのエンジニアとマーケティング部門の方々に、お忙しい中、開発秘話をお聞きすることができた。
↑写真は左から、ソニー株式会社デジタルイメージング事業本部マーケティング部門の中富優さん、同社ソフトウェア設計本部ネットワークアプリケーション設計部門の壱岐優さん、同社ソフトウェア設計本部デジタルイメージングアプリケーション設計部門の得能あゆみさん。 |
↑ソニーイーエムシーエス株式会社設計部門の野口博和さん。 |
↑iPhone5に取り付けたレンズスタイルカメラ『DSC-QX10』。 |
――今回、“レンズスタイルカメラ”というカテゴリーを初めて目にしましたが、具体的にはどのようなカメラを意味するのでしょうか?
中富さん「スマホで写真を撮影することが当たり前になっている現代、弊社の『Xperia Z1』はカメラ機能が大幅に強化されました。そこから更にステップアップできるのがこの”レンズスタイルカメラ”です。スマートフォンとWiFiで接続して、あたかも一眼レフカメラのような撮影スタイルで、写真や動画撮影が楽しめます。レンズ、CMOSイメージセンサー、イメージプロセッサ、ズームレバーやシャッターボタン、電源ボタン、メモリーカードスロット、バッテリーなどのすべてがボディーに内蔵されています。『DSC-QX100』は、1.0型の大型の裏面照射型CMOSイメージセンサーと光学3.6倍ズームのF1.8大口径レンズ(Carl Zeiss Vario-Sonnar T*)を搭載し、高級コンパクトカメラである『DSC-RX100 II』と同等の高画質撮影が可能です。つまり、スマホでF1.8のボケ味を楽しむことができるわけです。『DSC-QX10』は光学10倍ズーム(Gレンズ)を搭載して、遠くの被写体の撮影に威力を発揮します。 どちらも今までのスマホのカメラにない魅力を備えています。」
得能さん「スマホに取り付けるばかりではなく、タブレットを使って操作することもできます。また、開発のモニター調査の段階ではスマホから外して様々なアングルからの撮影を試される方もいらして、“フリースタイル・シューティング”という新しい使い方を提案できたのではないかと考えています。」
――スマホで写真を撮るメリットとはなんでしょうか?
中富さん「撮った写真をアプリで加工してお友達にプレゼントしたり、SNSにアップして共有したり。撮影する、人に見せる、喜ばれる、そういった一連の流れがスマホだとスムーズですよね。大きな画面をモニターとして使えるところも良いと思います。」
↑世界中のマスメディアがレンズスタイルカメラに注目。 |
――NFC(Near Field Communication:近距離無線通信)でワンタッチ機器認証ができるそうですが、具体的にはどういった操作が必要ですか?
壱岐さん「NFCを搭載したことで、NFC対応スマートフォンなどを本機にかざすだけで簡単にワイヤレス接続し、スマートフォンからの遠隔操作で撮影できるアプリ『PlayMemories Mobile』※を自動的に起動できます。もしお手持ちのスマホにPlayMemories Mobileがインストールされていなければ、自動的にGoogle Playでダウンロードしていただくように促す画面が立ち上がります。NFCが搭載されていないスマホの場合はパスワードを入力することで使用できます。一度認証されれば二回目からは入力は不要です。」
注:※PlayMemories MobileはiOS4.3-6.1.4、Android2.3~4.2に対応(2013年9月12日時点)。NFC機能はAndroid4.0以降でのみ対応。
――開発で苦労された点はどこでしょう?
中富さん「レンズスタイルという新しい形状のカメラへの挑戦は、本体構造面でも大きな工夫をしました。まず、基盤・ICなどの部品をレンズのうしろにすべて積み上げる形になるので、それらをレンズの最大外形に収まる大きさにしました。また、通常四角い形であるカメラが、円筒形になりますので、部品を収納するとデッドスペースができて、(部品の)実装効率が悪くなるのですが、隙間部分にマイクやボタンなどを入れ、本体のコンパクトさを保ちながら操作性を上げる工夫を行ないました。スマホに装着しながらも自然にカメラの操作できるように、シャッターボタンやズームボタンの位置は何度も修正をしながら検討を重ねました。それ以外ですと、お客さまがお持ちのスマホにぴったり取り付けて、装着しやすく、着けた時に安定感のあるアタッチメント(ここでいうでいうアタッチメントとは『DSC-QX100』&『DSC-QX10』をスマホをはさみこむようにとりつける伸縮性の装具)であることですね。前後左右に対して強度を保つ構造にするため、机に置くスマホホルダーや、車のダッシュボード上で使用する吸盤型のものなど、カメラ関連の商品以外でも「つかむ」、「くっつける」様々なものの研究を重ねて、現在の安定した形状にたどり着いたのです。また、スマホはケースを装着して使用されている方が多いので、『Xperia Z』専用のオリジナルアタッチメントケース『SPA-ACX1』も用意し、こちらは通常はケースとして使用しながら、レンズスタイルカメラも取り付けやすくしています。」
↑アタッチメントケース『SPA-ACX1』に取りつけた『DSC-QX100』。 |
↑ミュージックビデオレコーダー『HDR-MV1』(ヨーロッパ11月発売予定、国内未発表)。 |
――新カテゴリーのビデオカメラ製品、ミュージックビデオレコーダー『HDR-MV1』ですが、これはどういったコンセプトの製品ですか?
中富さん「ひとことで言って、非常に良いマイクを使って高音質・高画質の動画が撮れる(ビデオ)カメラです。」
――どのような背景からこのカメラは生まれたのですか?
中富さん「YouTubeをはじめとする動画文化を分析すると、パフォーマーが自分で歌ったり、演奏したり、踊ったりしたコンテンツをウェブにアップし、そこでバズ(ネット上の口コミ)が起こって世界に広がっていくという現象が見られます。開発に先立って、ソニーミュージックをはじめとする実際のミュージシャンなどから、身近にあるカメラを使って自分撮りした場合の不満や希望、現在の練習環境などをヒアリングしました。そこから、狭い室内でも全身が収まる画角の広いレンズ、手軽に撮れて、それでいて画と音のクオリティーが高いものが求められていることがわかりました。」
――具体的にはどのように高性能なのでしょうか?
中富さん「マイクカプセルは弊社PCMレコーダーと同等性能のものを使っています。レンズは弊社アクションカム同様、画角120度のカールツァイステッサーレンズでフルハイビジョン撮影が可能。色づくりは室内の撮影向けになっており、低照度に強いことが特徴です。音の記録形式もリニアPCMの非圧縮フォーマットのほか、ウェブへのアップロードに向いたAAC音声圧縮形式に対応しています。」
――開発はどのように進められたのですか?
中富さん「開発の段階では社内のオーディオ担当や、ソニーミュージックのレコーディングエンジニアにも意見を求め、音楽録りに最適なマイクの指向角や記録音圧を決める参考にしました。」
――開発にあたってこだわった点はどのあたりでしょう?
野口さん「まず音の邪魔をするものはマイクのまわりから極力排しています。NFCやWiFiを搭載しており、スマホからのリモコン操作が簡単にできるため、画角確認もスマホなどの画面を利用されることをオススメします。ちなみに、NFCやWiFiではスマホなどへの動画転送も可能です。左右120度のx-y配置されたマイクの形状・構造に関しても高音質を考慮したものになっております。F特性(音の周波数特性)も低域~広域までフラットで臨場感のある音が録れることを重視し、原音に忠実な音に近づけるため、1Hzずつ設定しては聴き、設定しては聴きといった地道な合わせ込みを数ヵ月かけて行ないました。数百(約400種類)存在するパラメーター設定値の中から、音の抜け、音の定位、左右の音のバランスなどなどの判定条件の中で“これ”というパラメーターを選定する作業を行ない、細部にまでこだわった音づくりをしています。アナログがきれいに録れないと、AD変換しても音が悪い訳で、そういった意味ではアナログ部分にこだわったと言えます。」
中富さん「ディスプレー上には録音レベルを確認できるレベルメーターが表示されます。入力の音圧設定もマニュアルでできますし、ローカットフィルターで低周波の空調音などをカットすることが可能です。」
野口さん「ラインイン端子には外部マイクも使用できますが、最近ではマルチトラッキングレコーダーなどを使われる方も多いので、そういったユーザーも想定しています。また、大きな音が入ってきてもリミッターがきつくかかり過ぎないように自然に聴こえるようにチューニングされています。」
――苦労された点をお聞かせください。
野口さん「開発当初は画角を75度で進めていたのですが、市場インタビューやフィールドテストを続けるうちに、より広角(120度)のほうが使い勝手が良いということでCMOSの選定を変えてまで広角にしました。それにより、収音エリアと画像エリアがほぼ一致し、自然な動画が撮れるようになりました。マイクを120度配置にしていますので、画角がそれより狭くなると、画面に見えている領域と、音が入ってくる領域に不一致が生じて、違和感のある動画に見えてしまうのです。また、開発の途中までは実はNFC非対応だったのですが、よりユーザービリティーを良くするために、急遽設計の変更を行ないNFC搭載にしました。すでに本体の実装がかたまっているなかでの追加でしたので、外観に影響を与えず、かつ性能が十分とれるように機能を盛り込むことに苦労しました。」
ベルリンのIFAで世界に向けて発表された発売前の新機種のお話、いかがだっただろう? 若いエンジニアや、マーケット担当者のインタビューを通して、新しいソニーのビジョンが見えてきた気がする。 様々な懐を持つソニーの力を合わせた「One Sony」の世界に期待したい。
なお、ソニーはモバイルデバイスのアプリ開発者向けに、ソニー製カメラをスマホやタブレットからWiFi経由でリモート操作して、撮影したり、ライブビューを行なったり、ズーム操作やタイムラプス制御、アップロードを行なう機能などを開発できるAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)「Camera Remote API beta」を公開している(関連サイト)。こちらからはAPI仕様書やサンプルコード、ドキュメントなどがダウンロードできる。APIを広く公開することで、世界中のアプリ開発者が参入できるようになり、今後は公式アプリだけではなく、より使い勝手の良いアプリや、新しいアイデアに満ちあふれた対応アプリなどもGoogle Playなどストアに登場し、僕らを楽しませてくれるのではないだろうか。
■関連サイト
ソニー
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります