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ネットから自由が失われていく! 角川アスキー総研が第1回シンポジウム

2013年09月30日 23時00分更新

 9月27日、今年2月に設立された株式会社角川アスキー総合研究所の第1回シンポジウムが、東京都港区の明治記念館で開催された。MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏、Rubyアソシエーション理事長のまつもとゆきひろ氏をプレゼンターに迎え、この顔ぶれによるパネルディスカッションも行われた。

ネットから自由が失われていく! 角川アスキー総研が第1回シンポジウム

 伊藤穰一氏は、「『創造性のコンパス』モデル」と題して、サイエンスとエンジニア、アートとデザインという4つの領域を比較。サイエンスとアートは直感的な要素が強く、技術とデザインはロジックの世界だ、と述べた。

 伊藤氏によれば、いまのコンピュータは、直感的な領域が苦手で、ロジックの部分でしか人とコミュニケーションをとれていない。また、いまの教育も、同じようにロジックで教えている。ところが、人間が意識している脳のロジック部分というのは、そんなに頭がよくはない。人間のロジックはDeception、つまり自分を欺いて事実を変えてしまう癖があり、むしろ、無意識のほうが正確な事実と情報を捉えている。メディアラボでウソ発見器に似た発汗などを記録するデバイスを学生が1週間装着して記録したデータでは、そうした意味での“(無意識の)学び”は授業中よりも寝ているときのほうができている。無意識が、直接リアルワールドと関係していくインターフェイスやアーキテクチャを設計していく必要があると締めくくった。

ネットから自由が失われていく! 角川アスキー総研が第1回シンポジウム

 川上量生氏は、スタジオジブリ刊行の『熱風』で前後編で掲載予定のテーマ「インターネットに国境はできるか?」を中心に講演。 現在、ユーザーは「居住する国家」、サービスを提供する会社は「サーバーの存在する国家(実質的には治外法権に近い形)」の法律に従っているが、現実は「巨大ネットサービス」の影響が大きくなっていると述べた。

 また、ニコニコ動画は違法動画を自主的にパトロールして公開停止にしているが、こういうことをやっているのは日本だけで、米国では指摘があったらすみやかに対処すればよい、など各国の法律も異なっている。消費税についても、海外サイトからデータで提供される電子書籍などに関しては納める必要がないのが現状だ。プライバシーに関してもサーバーが存在する国や私企業に検閲される可能性がある。これらについては国際協調も難しく、国が統治していくには「アクセス制限」を検討せざるを得ない。インターネットに国境をつくるべきだと考えているわけではないが、アクセス制限が国家の自衛手段のひとつとして研究もされていない日本の状況はおかしいのではないかと述べた。

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 まつもとゆきひろ氏は、「ポストPCの時代~インビジブルコンピュータ」と題して講演。世界最初のコンピュータともいわれる「ENIAC」から、大型の汎用機の時代をへて、PCの登場を例に、かつてのスーパーコンピューター並みの能力をもつ、スマートフォンやタブレットが登場したことを強調。伝統的なコンピュータは消えて“インビジブル(不可視)”になる、と述べた。さまざまな製品にいまと同程度の能力をもつコンピュータが組み込まれ、最初はウェアラブル、その先は『スタートレック』のように「コンピューター」と語りかけると答えてくるようなものが登場するだろうと予測したうえで、我々がいま使っているスマートフォンの中にもソフトは入っているが、処理の多くはインターネットの向こうにある雲の上、データセンターの無数のコンピューターで行われている。小さくなって見えなくなるのに加え、遠くなって見えなくなる、というケースも増えている、と述べた。そうしたコンピュータの時代ではGoogle Nowのようにシステムがユーザーの状況に合わせ適切な情報をどんどん提供してくるようなことが考えられる。いままでのようにアプリを起動して使うのではなく、コンピューターはGoogleやアップルなどの巨大プラットフォーマーにデータを送信するだけ、という状況になれば、デバイスが進化するにしたがって、インターネットの自由は逆に阻害されることになるのではないか、と警鐘を鳴らした。

ネットから自由が失われていく! 角川アスキー総研が第1回シンポジウム

 引き続き、角川アスキー総合研究所の遠藤諭主席研究員を司会に行われたパネルディスカッションでは、会場からの質問を中心に進行。「誰でもメディアを発信することができる時代に、コンテンツ制作を社員が行うのか、企業で作らないほうがいい時代が来ているのではないか?」、「インターネットにおける国境に関係して、社会のしくみとしていま法律というメカニズムがそろそろ限界に来ているのではないか? 新しい法律に代わって社会を健全化する仕組みがあるとすればどんなものか?」、「クラウドソーシングなど、ソーシャルなしくみが広がっているが、どんどん進展して増えていったときにどこに行き着くのか?」といった質問に対して、活発な討論が行なわれた。

 3人の登壇者は、それぞれ別の言葉ではあったがプラットフォーマーの支配が強くなることに対して、自由をどう確保するかが大きな課題になると述べた点が印象的だった。まつもとゆきひろ氏は、クーテンベルグの時代以降、たとえば印刷機をもつことで情報を発信することができたが、現在はネットによって最低限の自由は確保されるものの、これからはそれを阻害する支配からの脱却が大きなテーマになってくる、そのときに必要となるのがプログラミングの力だと述べた。そうした支配や検閲から逃れるためには、個々人がソフトウェアが何をしているのかを知るためにソースコードを読み、ルールやロジックを理解、表現する能力を身につけることが重要ということで議論は一致した。

ネットから自由が失われていく! 角川アスキー総研が第1回シンポジウム

 シンポジウムの最後には、角川グループを代表する株式会社角川アスキー総合研究所社長の角川歴彦氏が、来場者へ「ご挨拶」として登壇。慶應義塾大学の村井純氏と3人が代表監修者となって『角川インターネット講座』全15巻の刊行を予定していることや、電子書籍のフォーマット名を冠した角川EPUB選書シリーズ、雑誌『アスキークラウド』など、KADOKAWAのインターネットに対しての取り組みを紹介。また、人気のブラウザゲーム「艦隊これくしょん(艦これ)」についても多くのメディアでの展開が予定されていると語り、「艦これ」の成功にコンテンツビジネスの未来が現れるだろうとの感想を述べて締めくくった。

 懇親会には、慶應義塾大学環境情報学部長の村井純教授も現われ、華やかなシンポジウムとなった。

ネットから自由が失われていく! 角川アスキー総研が第1回シンポジウム

パネルディスカッションの進行に従ってリアルタイムに映し出されたスクリーン。角川アスキー総研では、今回のシンポジウムの内容をまとめたものを、近く刊行物として提供する予定だ。

角川アスキー総合研究所
http://www.lab-kadokawa.com

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