MacPeopleにて好評連載中のコラム「我が妻との闘争」。Macを愛し、毎夜ホームページ作成に挑むサラリーマン、呉エイジさん。新製品やOSを買いたい気持ちはやまやまですが、小遣いは月2万、加えてとにかく無駄使いを嫌う奥さまに「Macを卒業しろ」「金食い虫」「ダメ夫」と嫌みを言われる毎日。本作は鬼嫁の迫害に耐えながらMacを愛し続ける男の悲しい記録です!
すでに紙版で発売されている1〜4巻と、2009年1月号から2011年6月号までの全30話を収録した第5巻が9月26日に電子書籍で発売されました。
ここでは、「第4巻 悲劇のマイホーム編」から、「悲惨な童話」を丸ごと掲載しちゃいます。実は、本連載は4巻の途中である2005年の8月号で一度最終回を迎えました。「悲惨な童話」は、2008年の3月号に連載を再開した記念すべき1回目です。なのにこの悲惨さったら……。
悲惨な童話
ある晴れた日曜日、私は部屋の中を歩いていました。最初、テレビの部屋で寝ころんでいたのですが、寝ころんだと同時に嫁が「なんか埃っぽいな。掃除しよ」と、言って昼寝の邪魔をするように私の耳元で爆音を立てて掃除機をかけるので、今度はスタスタと台所の方へ歩いていきました。
そこは唯一タバコを吸える場所なので、私はライターを手に取りました。
すると嫁が、
「30分前に吸うたとこ違うんかい」
とドスの効いた声で嫌味を言うので、私は大好きなタバコを吸えなくなってしまいました。昼寝もダメ、換気扇の前でタバコもダメ、私は居場所がなくなったので、仕方なく2階のMacの部屋へ向かいました。
あっ、読者の皆さんに報告です。一度連載を終えてからしばらくして、
私は2階建てのマイホームを買わされました。
「頭金がないのはアンタのMac道楽のせいや。アンタの小遣い、2万円から1万8000円にならんか?」と、引っ越し直後に嫁は聞いてきました。
私は「鬼を伴侶にしてしまった」と、そのとき確信しました。
少しでも早くローンを返したいのか、嫁は以前にも増して口うるさくなり、ケチになりました。
この前もどうでしょう。新入社員の歓迎会のときに、私はたいそう酔っ払いました。後輩を景気付けようと、お酒がそんなに強くないのにハシゴをしました。
「ウチは新人が育ってないんや。期待してるで」
私は上機嫌で後輩の肩をピシピシ叩きました。だいぶ引っ張ったので電車がなくなってしまいました。私はいいところを見せたくて後輩にタクシー代を渡しました。そして私は運転代行を利用して帰宅しました。それをそのまんま嫁に報告しました。
先っぽが「サザエさん」のヘアースタイルみたいな形をした洗濯物を叩く棒で、私はフトモモを本気で叩かれました。
「1万円ないんかい。行くときに渡した1万円がスッカリないんかい」
嫁は半狂乱で怒り叫びます。社会に出ればそういう場面もある、というこちらの意見はまったく聞いてもらえませんでした。
1週間後、私の携帯に「ちょっと思ってたよりキツいんで、やっぱ辞めます」と、後輩から電話がありました。辞表とか、出勤して口頭で説明するとか、一切なしで電話だけです。私はあまりのヘタれぶりに泣きそうでした。1万円を返せ、と心の中で叫びました。大事に置いておけばメモリーが買えていました。
だいぶお話が脇道にそれまくりました。私はマイホームでの自分の居場所を求めて、2階のMacの部屋に向かいました。そして、これを聞いた瞬間に貴方は耳を疑うかもしれませんが、ほかの部屋はすべてエアコン装備なのに、
私のタンスMacルームだけエアコンがありません。
「部屋にこもるから」という理由でテレビの配線もありません。ほかの部屋には全部ついているのです。ここでも嫁の陰謀が働いていて、6畳の部屋に婚礼ダンスを3つも入れているので、私の自由なスペースは県住時代と変わっていません。
そして今年の猛暑、私のMacのアップグレードカードからとうとう煙が出ました。扇風機だけではやっぱり無理だったのです。Power Mac G4の1.4ギガヘルツが一瞬で壊れました。いまは元の400メガヘルツのカードに逆戻りです。Mac OS X 10.4の時代だというのに、マイホームのおかげでアップグレードのめどはまったく立っていません。本当に泣いてしまいそうです。
漫画化になった「我が妻との闘争」を連載中の金平もMacユーザーです。新しくてピカピカのMac miniを持っています。
「呉、ついに出たよな。レオパルドン」
「俺、今度買おうかと思うねん。オマエはどうよ」
私はあまりに自分に不幸が続くので、
「レオパルドンじゃなくレパードだよ」
と、訂正をしてあげませんでした。収入が使い放題の独身貴族野郎は、店に行って恥をかけばいいと思います。「当店では扱っておりません」と、店員さんに笑われながら店を追い返されればいいと思います。
またお話が脇道にそれまくりました。私が2階のMacルームで愛機の起動スイッチを押し、しばらく待っていたら足元に殺気を感じました。私の座るイスから階段が見えるのですが、その階段に嫁の首だけが乗っかっていました。目は上を向きすぎて、白目に近い状態で私を睨みつけていました。私はもう少しで心筋梗塞を起こすところでした。
「部屋を与えたらスグこれや。昼間はMacつけへんって約束したんと違うんかい」
掃除機は1階で「ゴーッ」と音を立てたままです。そっちこそ電気代の無駄遣いではありませんか。「自分に優しく他人に厳しく」がモットーの嫁に、言い返す度胸はありませんでした。
涙をのんでMacを終了させると、私は再び1階に降りました。そうして部屋をグルグル歩きました。洗面所に行って髪をかき上げてポーズを決めてみました。そうしてまたテレビの部屋に行き、グルグルと歩きました。
私は気が付いてしまいました。私からMacを取り上げたら、マイホームでなにもすることが見つからない事実に愕然としました。タバコもダメ、昼間のMacもダメ、マイホームのせいで残業を前より増やして頑張っているのに、生き地獄のような状態になってしまいました。あまりの仕打ちに窒息しそうになったので、私はMacPeopleを手に取って便所に駆け込みました。
誌面には最新マシンの紹介や、新しいソフトの説明で溢れていました。至福の時間でした。便座と一体化したような気分でした。結局、便所に入ったのが午後3時で、出てきたのが4時でした。みっちり1時間でした。
「どんだけ長いんじゃ」
と、嫁さんは真剣になって怒りました。
これを読んでいる独身者諸君……
自分の家で「便所」が一番居心地のいい
場所になってしまったらそれは危険信号
と、ひと言いっておきたい。
このほか第4巻では、涙なしでは読めない1度目の最終回「果てしなき闘争」や、祝連載再開の回であった「悲惨な童話」などのエピソードを収録しています。どうして連載を終了させなければならなかったのか? ぜひ全編お読みください!
「我が妻との闘争」1〜5巻は、「BOOK☆WALKER」で9月26日から発売開始。1〜4巻は300円、5巻は800円。iBookstoreやAmazonをはじめ、各電子書籍ストアでの発売は10月10日以降。配信が決まり次第、お知らせいたします。
●関連サイト
・BOOK☆WALKER
・Kure's Homepage
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