30年も前に発売されたパソコンなど普通は誰も使っていない。しかし、「さすがに古くて最近のディスプレーのインターフェースであるHDMIに対応してないのは困るなー、よし作るか」とか言って作ってしまうユーザーがいるのがMSXである。
MSXというパソコンの共通規格が産声を上げたのは1983年。今年でちょうど30年になる。週刊アスキーおよび週アスPLUSでもそれを記念した連載記事『スロット&スプライト』をお届けしてきた。その“補講トークショー”なるイベントが、8月11日(日)に東京・池袋で行なわれた。主催は、記事を執筆してくれたMSXアソシエーション。やはり元MSXユーザーの人たちだ。
↑会場は、池袋にあるBigBangBoxというライブハウス。当日は、運悪く猛烈な雷雨直後の開始時間だったが、多くの(濃い)人が訪れた。 |
■MSXのHDMI出力カートリッジを自作する
HDMI出力端子を、MSXのスロットに挿すカートリッジとして制作中なのが、ひとり目のゲスト、金沢大学総合メディア基盤センター教授の大野浩之さん。「電子工作は趣味、本業の研究でこんな論文出しても評価されない」と言う。
↑金沢大学大野教授。HDMI出力カートリッジは『スロット&スプライト』連載の9回目でも少し紹介した。 |
『Raspberry Pi(ラズベリーパイ)』という小さなボードコンピューターを、MSXの特徴のひとつである拡張スロットに挿すことで、HDMI出力を実現。ラズベリーパイはそれだけでひとつのコンピューターで、最初からHDMI出力やUSB端子を備えている。そこで、これをMSXの下請けとして使い、MSXの画面出力ポートを読み取って、HDMIに出力すればいいのではと考えて実験試作中とのこと。
↑「ラズベリーパイは“名刺サイズ”という人が多いが、実は“MSXカートリッジサイズ”だ」と、カートリッジと大きさを比較。ほぼぴったり重なる。 |
今後の展開としては、画面をネットワークで飛ばしてほかのパソコンからの遠隔操作、フロッピーディスクのエミュレーション、(MSXの)メモリーの拡張、ウェブページの表示などを考えていると言う。また、カートリッジケースも3Dプリンターで作る予定とのこと。そして究極の目標が下の写真。
もし、カートリッジが完成し販売されるようなことになれば、押し入れに眠っているMSXが復活するかもしれない、夢のある話だ。
ところで、ラズベリーパイのCPUは32ビット(700MHz)なので8ビット(3.57MHz)のMSXなどエミュレーターとして動かすことができる。「はい、その通りです。今やろうとしていることは本末転倒と言えるかもしれない。でも、だからこそ楽しい」と大野さん。本当に楽しそうで、笑いの絶えないお話だった。
■MSXマガジンを休刊した理由(わけ)
2人目のゲストは、『MSXマガジン』の3代目にして休刊時の編集長だった宮野洋美さん(現映像・出版プロデュース宮野事務所代表取締役プロデューサー)。MSXマガジンはアスキーから発売されていたMSX専門誌で、1992年5月号をもって(雑誌としては)休刊した。
↑“Mマガ”最後の編集長・宮野洋美さん。ちなみに週アスの編集長も宮野という名字だが血縁関係はないとのこと。 |
トークショーは、MSXアソシエーションの人が話をふり、それにこたえるという形で進行。当時のMSXマガジンについて、「表紙を加藤直之さんに変えたのはボクがSF好きだったから」、「実は表紙イラストには毎回どこかに“MSX”という字を入れている(後半なくなったかも)」、「(宮野さんが)編集長に就任したときには実はMSXマガジンの休刊は決まっていた」、「MSX用のゲームがほとんど出なくなっていたので、『吉田工務店』などのソフトを自分たちで作るしかなく大変だった」、「休刊後に発売されたムック(1992年夏号)はよく売れたのだが、同じ部署で作っていたゲームの攻略本のほうがもっと売れていたので、そちらに注力するため続きが作られなかった」ことなどが明かにされた。登壇者もお客さんも当時を懐かしむような始終明るい雰囲気で、やはり一時代を築いた当事者の口から出る話はおもしろい。
↑会場風景。宮野さんの記憶があいまいなところはお客さんから答えが出されるほど濃い人たちが集まった。 |
■MSXは今でもユーザーに愛されている
トークの合間にはMSXアソシエーションの人が、MSXPLAYerや1チップMSXを作ったときのウラ話などをした(ここには書けないことが多い)。
「MSX20周年の機会に『MSXマガジン永久保存版』を3冊作ったが、これは単なる復刊ではなく、MSXを恒久的に使い続けていくための文化活動の一環と考えている。だから、なるべく多くのゲームを収録し、かつMSXの技術資料は巻末技術資料記事とCD-ROMに保管していたものをすべて収めた」とのこと。
↑MSXアソシエーションの中の人D(左)、中の人C(右)。ぶっちゃけトーク(アスキーへの不満とか)で会場を沸かせていた。 |
イベントを通じて感じるのは、MSXは今でも本当にユーザーに愛されているということ。今年30周年を迎え、MSXは静かに盛り上がっているようだ。
↑会場の隅に置かれていた『MSXPC』なるキーボード一体型パソコン。実態はMSXPLAYerをプリインストールしたウィンドウズXPマシン。アスキーソリューションズからMSX20周年記念として発売された。 |
最後にMSXアソシエーションさんの言葉をもって締めとします。
「30周年なので、なにかけじめとして1冊くらいMマガ的なのをやっておかねばと考えています。でもMSXユーザーの人って、もう年とっちゃって仕事が忙しいからか本当に反応ないんですよね。何かMSX関係の本とか出たら、とりあえず黙って買うって感じ。記念本や次のMSXを作るにしろ作らないにしろ、みなさんの意見を渇望しています。どっちの方に行けば良いのか、ぜひツイッターなどに書いてください。週アスPLUS連載の『スロット&スプライト』にも厳しい意見や感想、ツッコミなどドシドシお寄せください。」
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