著作権法違反幇助裁判で無罪を勝ち取ったWinny作者の天才プログラマー、金子勇さんと交友のあった複数の関係者から追悼コメントをいただきました。順不同で紹介します。
■金子勇氏の著書、『Winnyの技術』担当編集者で、金子さんと交友のあった赤嶋映子氏
金子さんが自身の最高裁の判決を知ったのは、実はウェブのニュースからでした。最高裁の判決は、ある日突然決定文が郵送されて結果がわかるという仕組みです。裁判所から届く郵便物にロクな思い出のなかった金子さんは、郵便受けに裁判所からの配達不在票(決定文だということはわからない)を見つけて、「書類、面倒!」ということもあったでしょうけど、あまり見たくないという気持ちもあったようです。部屋の隅に押しやったままにしているうちに、ニュースで自分の結審を知ったのでした。この写真は、翌日、いまだに決定文を読んでいないことを聞いた大学の同僚たちが、仕事の合間に金子さんを車で神田郵便局に連れて行き、やっと書状を手にしたときのものです。
結審のニュースが駆け巡った2012年12月20日の夜は、東京で緊急に記者会見が開かれましたが、その時書状はまだ郵便局。金子さんも弁護団も決定文の内容を確認できないまま記者会見に臨むことになりました。
(C)三浦健司 |
金子さんにとって、プログラムを書くのは呼吸をするのと同じ。いつも何かプログラムのアイデアを考えていて、そういうアイデアを話しているときは、本当に楽しそうでした。
作るプログラムは、物理シミュレーションに題材を得ていることが多かったですね。まだ裁判が続いているころ、人の音声を別の人の音声に置き換えるボイスチェンジャーを思い立ったこともありました。実現すれば、亡くなってしまった俳優さんの録音から新しい吹き込みができそうですが、でも「あんた、また匿名性ネタですか」、と周囲に指摘されて、頭をかいてやめたということがありました。
昔からずっと構想をあたためていたもののひとつは、脳神経の信号処理の仕組みを模した、ニューラルネットワークというAIの手法で、「学習」を実現させることでした。
既存のニューラルネットワークを「生物の神経系ではありえない」と一刀両断、自分で作った「オレ様」モデルに、「既存の方法より実際の脳に近い」「面倒なパラメータ調整も不要」「並列化もしやすい」と、ひそかに自信を持っていて、応用をあれこれ探していました。
物理系のモデルと組み合わせた格闘ゲームの習作が、自身の暇プロサイトで公開されています。
NekoFight(http://homepage1.nifty.com/kaneko/nfight.htm)
人間が操作するキャラクターによって、ニューラルネットワークを組み込んだ対戦相手が振る舞いを学習するというもののようです。
東大の情報基盤センターに着任したあとは、並列計算機が使えるようになり、ニューラルネットワークの大規模実験もできるようになりました。そう、嬉しそうに話していたことを思い出します。
ニューラルネットワークの技術は、いまグーグルにも有力な研究者が移籍してニュースになるなど、再び注目が集まり始めています。
新しい成果を見ることが叶わなくて残念です。
※編集部注:金子さんが取り組んでいたニューラルネットワークのプログラミング技術については、2009年開催の『第参回天下一カウボーイ大会』で登壇した際の動画でも触れられています。ユビキタスエンターテインメントが無償公開した動画はこちらです。
『実際の神経系からヒントを得た新型人工知能モデル』
■金子さんがファウンダー兼CINOを務めていたSkeed社の皆様より
金子さんと私たちとは、千里の波濤を越えて航海するため、Skeedという船を力を合わせて一から造り上げてきました。
長い航海に備え、ようやく目指すべき大海原に漕ぎ出す準備が整いつつあるところでした。
ひとりでは造れなかったであろうこの船が、思いもよらない形をとって出来上がってくるのを金子さんはとても面白がってくれていました。
それなのに突然、大海での旅を金子さんとともに楽しむことができる日が永遠に失われてしまったことは、無念という他ありません。
今はただ、精神の自由と答えの見えないチャレンジとをこよなく愛した金子さんが、安らかに眠られることを祈るばかりです。
平成25年7月8日
Skeed社員一同
故人のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申しあげますと共に、心からご冥福をお祈りいたします。
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