6月20日、サムスンはロンドンでGALAXYやATIVブランドに関する発表会を開催しました。ATIVブランドのPCについて、山根博士による現地取材レポートを見てもわかるとおり、コンバーチブル型の『ATIV Q』が特に話題となっています。
↑サムスンの最新コンバーチブルPC『ATIV Q』。 |
13.3インチ・3200x1800ドットの超高解像度ディスプレーやインテルの第4世代Coreプロセッサーを搭載、9時間の動作が可能で1.29kgといったスペックもさることながら、注目したいのは“WindowsとAndroidのデュアルOSに対応”している点です。
そこで今回はこの“デュアルOS”の仕組みや可能性について考えてみたいと思います。
■デュアルOSとは?
ATIV Qが対応するデュアルOSとは、WindowsとAndroidをひとつのPCで動作させる機能です。ATIV Qのスタート画面には“Dual OS”というタイルが登録されており、これをタップすることでWindowsからAndroidに、あるいはその逆に切り替えることができます。
↑ATIV Qのスタート画面に登録された“Dual OS”タイル(山根博士のレポートより)。 |
ハンズオン動画などを見る限り、両OSの切り替えは非常にスムーズ。切り替えにかかる時間も、1~2秒程度に感じます。また、Windowsのスタート画面にはAndroidのアプリをタイルとして登録することもできるようになっており、スタート画面から任意のAndroidアプリを直接起動することもできます。
WindowsとAndroidが両方動作するPCとして、COMPUTEX TAIPEI 2013ではASUSが『Transformer Book Trio』を発表しました。このPCにはWindows用とAndroid用に別々のCPUが搭載されており、両OSがそれぞれ独立して動作するようになっています。
これに対してATIV Qでは、Windows上でAndroidを動作させるような仕組みを採用しています。たとえばAndroidアプリを使いながら、Windowsストアアプリをスナップ表示することもできるようになっているのです。
実はこのデュアルOSについて、筆者はとてもよく似たものをCOMPUTEX TAIPEI 2013で取材していました。それがAmerican Megatrends Incorporated(AMI)による『DuOS』です。
■ATIV QはDuOSを採用した最初のPC
COMPUTEX TAIPEI 2013では、PC用のBIOSなどでおなじみのAMIが、WindowsとAndroidの2つのOSを1台のPCで実行するDuOSという製品をブースに展示していました。
↑COMPUTEX TAIPEI 2013のAMIブースに展示されたDuOS。 |
↑サムスン製と見られるPCで動作するDuOS上のAndroid。 |
ブースで展示されていたデモ機はサムスン製の『ATIV Tab 7』(ATIV Smart PC Pro)と見られるPCでしたが、なぜかサムスンのロゴに目隠しのテープが貼られていました。ブース担当者によれば、DuOSはOEMメーカー向けの製品で、具体的にどのOEMメーカーが採用するかについては今後発表する、とのことでした。
ATIV Tab 7は一般的なCoreプロセッサー搭載のタブレットであり、ASUSの新製品のようにCPUを2つ搭載しているわけではありません。このことから、Androidが何らかの仮想マシン技術で動作していることが推測できます。また、DuOSの特徴のひとつが、Windows8のスタート画面にAndroidのアプリをタイルとして登録できることなのです。
COMPUTEX TAIPEIのデモ機と、ATIV Qのスタート画面を比較したところ、名前こそ“DuOS”から“Dual OS”に変わっているものの、アイコンは同じものが使われていました。
↑DuOSとDual OSはアイコンが同じ。 |
この点をAMIに確認したところ、「たしかにサムスンのATIV QはDuOSを採用している」(AMI担当者)とのこと。「サムスンはDuOSの最初のライセンス供給先。名前はサムスン独自の“Dual OS”となっている」との回答が得られました。
現時点でサムスン以外のOEMは発表されていないものの、「今後はもっとほかのOEMメーカーにも売り込んでいく。すでに複数の日本企業がDuOSに関心を持っている」とのこと。残念ながら現在のところサムスンは日本市場にPCを展開していないため、ATIV Qの入手は難しいところです。しかしそう遠くないうちに、日本のPCメーカーからもデュアルOS機能を搭載したPCが発表されるかもしれません。
■Windows上でx86用のAndroidを仮想マシンとして実行か
1台のPCでWindowsとAndroidを両方動作させる方法として、ASUS製品のように、それぞれのOSに専用のCPUを搭載するという方法もあります。しかしDuOSは、特別なハードウェアの追加を必要としていません。そのため、「DuOSは仮想マシンの一種なので、ハードウェア面で追加コストは不要」(AMI担当者)というメリットがあるとのこと。PCメーカーにとっては、DuOSのライセンス費用だけで、自社PCをデュアルOSに対応させることができると言えます。
具体的にデュアルOSを実現する仕組みについて尋ねたところ、「OEM向けに提供しており、企業秘密」(AMI担当者)とのこと。しかし実機の動きを見れば、おおよその仕組みは想像できます。
Windows上でAndroidを動作させる方法は大きく分けて2つ。ひとつめは、スマートフォンやタブレットによく採用される“ARMプロセッサー”を、インテルのx86プロセッサー上でエミュレートするという方法です。もうひとつは、Atomプロセッサー搭載のAndroidスマートフォンやタブレットに用いられている、x86プロセッサー用のAndroidを実行させるというもの。後者の方法では、仮想マシンを実行するためのオーバーヘッドはあるものの、プロセッサー自体をエミュレートする必要がないので、より高速な動作が可能になるはずです。
COMPUTEX TAIPEI 2013におけるDuOSのデモや、ATIV Qのハンズオン動画を見る限りでは、デュアルOSの動作は実機に近い、非常にきびきびしたものとなっています。このことから、DuOSは、x86用のAndroidを仮想マシンとして実行する技術であると考えられます。
■デュアルOSは“2-in-1”型PCに最適?
気になるのは、一般的なWindows PCでAndroidアプリを使えることに、どのようなメリットがあるのか? という点です。
特に有効と思われるのが、タブレットに変形・分離できるコンバーチブルやデタッチャブル型PC、いわゆる“2-in-1”型PCへの搭載です。Windows8をタブレットとして利用する場合、ストアアプリの数が8万本を超えるなど増加のペースは速いものの、ほかのアプリストアに比べてまだまだ充実しているとは言いがたいのが現状です。
これに対してAndroidでは50万本以上のアプリが公開されており、最新のアプリやゲームについても、iOS用に匹敵するペースでAndroid向けにリリースされる傾向にあります。タブレットとしての優位性は、まだAndroidに分があると言ってよいでしょう。
一方、2-in-1型PCをノートPCのように利用する場合、Windows8はOfficeを中心としたデスクトップアプリを利用できることから、ほかのOSに比べて圧倒的な利便性があります。ノートPCとしては、ぜひWindowsを利用したいところです。
もともと2-in-1型PCは、ノートPCとタブレットの“いいとこ取り”を狙ったフォームファクターです。それならばOSについても、ノートPC用にWindows、タブレット用にAndroidという“2-in-1”を採用するのが、現状ではベストの組み合わせと言えるのではないでしょうか。
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