8月にJAXAが打ち上げ予定の新型ロケット『イプシロン』。
イプシロンの機体に搭載される惑星分光観測衛星『SPRINT(スプリント)-A』が、6月8日、JAXA相模原キャンパスで披露された。
(C)JAXA |
↑先端部はわずかのほこりも嫌うため、打ち上げ直前まで覆われたまま。機体中央に貼られたパネル状の部分は、重さ10分の1になった薄膜太陽電池の実験用品。衛星に電力を供給する太陽電池パネルは、たたまれた状態で本体横に取り付けられている。
SPRINT-Aは、世界初となる惑星観測用の宇宙望遠鏡だ。惑星の磁気圏(※)の観測を専門とし、“極端紫外線”と呼ばれる波長のごく短い紫外線を観測する。
※磁気圏:惑星の周りを取り巻く固有の磁場に、太陽から吹く太陽風(太陽の表面で巨大な爆発が起こり、大量のプラズマ粒子を吹き出す現象)が流れ込んで形作られる空間のこと。
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太陽風が強くなると、高エネルギーの電子が生じ、惑星にオーロラのような現象を起こすことが知られているが、その物理メカニズムはいまだに謎だ。木星のオーロラとプラズマトーラス(※)を同時観測することで、磁場の中で何が起きているのか、その発光を引き起こす物理メカニズムを解明しようというのだ。
※プラズマトーラス:木星の衛星“イオ”には活発な火山活動が確認されており、イオから噴出した火山性ガスが、木星を周るイオの軌道に沿ってドーナツ状に分布し、発光する現象を”イオプラズマトーラス”と呼ぶ。
また、太陽風によって惑星の大気が失われる謎についても迫る予定だ。
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最近では、地球型惑星の中でも地球、金星、火星は太陽系初期に近い環境を持っていたことがわかり、地球に比べて火星と金星は磁場が弱いことも判明している。現在も火星の大気が少しずつ失われていることから、太陽系誕生時期に激しく吹き荒れていた太陽風が、10億年以内の期間、磁場の弱い惑星の大気に直接作用し、大気を宇宙空間に流出させてしまったと考えられている。SPRINT-Aで磁気圏を観測することで、火星がなぜこれほどまで乾燥した大地になったのかといった、太陽系の歴史の解明も期待される。
SPURINT-Aにはもうひとつ、科学衛星のための100cm角程度の小型標準衛星バス“SPRINTバス”を実証するという重要な目的もある。
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衛星バスとは、電源系や搭載コンピューター、姿勢制御機構、熱処理、通信機器など、人工衛星に欠かせない基本部品のセットのこと。この上に、ミッションに必要な機器を追加すれば人工衛星が簡単に完成する。科学衛星においては、ミッションごとに軌道や条件、環境が違うため、これまではなかなか衛星バスを共通化できないでいたのだ。SPRINT-Aは、その問題を解消するため、多様なミッション要求に対応できる新型バスを採用している。
↑惑星分光観測衛星SPRINT-Aの模型。中央より上、台形の形状から突き出た部分までが望遠鏡部分。竹を割ったような先端の形状から、一部で“門松衛星”とも呼ばれている。約1年に及ぶミッションの終了後は、土星や系外惑星の観測を希望する声もあるとか。
低コストで、短期間で開発できる小型衛星というコンセプトは、即応性が高いイプシロンロケットとも相性がいい。イプシロンロケットであれば、打ち上げの3時間前まで衛星にアクセスし、搭載機器の維持管理ができるからだ。
そのほか、SPRINT-Aでは将来の宇宙探査に備えた新しい電源技術の開発を目指す、軽量化した薄膜太陽電池の実証実験”NESSIE(ネッシー)”ミッションも予定している。
SPRINT-Aという名前は、実はコード番号のようなもの。打ち上げ後にはミッションをより身近に感じられる愛称を発表する予定だ。
↑極端紫外線による観測を行なうことから“きょくタン”といった候補もあるんだとか。「採用されることはないと思います……」とは澤井プロマネージャー。
宇宙科学の新しい分野への期待を乗せるSPRINT-Aは、今年8月22日、鹿児島県肝付町 JAXA内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット第1号機で打ち上げられる予定。
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