米国の調査会社IDCが5月16日(米国時間)に発表した世界のスマートフォン市場調査(外部サイト)において、2013年第1四半期にWindows Phoneのシェアが3位に上昇したことが話題となっています。
同四半期のWindows Phoneの出荷台数は700万台で、スマートフォンOSとして3.2%のシェアを確保しています。そこで今回はこれまでのIDCによる調査を振り返りつつ、Windows Phoneが3位になった背景を考えていきましょう。
■Windows PhoneがBlackBerryを抜いて3位に
まずはIDCによるプレスリリースから、2013Q1の出荷台数とシェア、前年同期のデータをまとめた表を抜粋します。
2013Q1 出荷台数 (百万台) | 2013Q1 市場シェア (%) | 2012Q1 出荷台数 (百万台) | 2012Q1 市場シェア (%) | 前年同期比(%) | |
Android | 162.1 | 75.0 | 90.3 | 59.1 | 79.5 |
iOS | 37.4 | 17.3 | 35.1 | 23.0 | 6.6 |
Windows Phone | 7.0 | 3.2 | 3.0 | 2.0 | 133.3 |
BlackBerry | 6.3 | 2.9 | 9.7 | 6.4 | -35.1 |
Linux | 2.1 | 1.0 | 3.6 | 2.4 | -41.7 |
Symbian | 1.2 | 0.6 | 10.4 | 6.8 | -88.5 |
その他 | 0.1 | 0.0 | 0.6 | 0.4 | -83.3 |
合計 | 216.2 | 100.0 | 152.7 | 100.0 | 41.6 |
今回の調査結果で最初に注目したいのは、Windows Phoneの出荷台数がついにBlackBerryを上回ったという点です。これまでBlackBerryは下落傾向にあり、Windows Phoneは上昇傾向にあったため、将来的に両者が逆転することが期待されていました。
両プラットフォームの推移を端的に示すために、IDCの過去の調査をもとにWindows PhoneとBlackBerryの出荷台数を抜き出したグラフを作成しました。
グラフは2011Q1~2013Q1の2年間を示しています。これを見ると、2013Q1にWindows PhoneがBlackBerryを見事に逆転したことがわかります。
今年のMWC以降、“第3のOS”としてFirefox OSやTizenが話題となる機会が増えました。しかし世界シェアという観点では、これまで第3位だったBlackBerryをWindows Phoneが追い抜いたことで、Windows Phoneが“第3のOS”になったといっていいでしょう。
■いま勢いのあるスマホOSはAndroidとWindows Phoneだけ?
各プラットフォームの勢力を分析する上で、出荷台数やシェアと同じくらい興味深い値が“Year over Year Change”(前年同期比)です。IDCの調査では、スマートフォン市場の四半期ごとの前年同期比はだいたい40%台。やや成長は鈍化しつつあるものの、これは“スマートフォン市場が前年同期比で40%拡大する傾向が続いている”ことを示しています。まだまだ成長を続けているわけです。
しかし40%という市場平均の伸び率を上回っているスマートフォンOSは2つしかありません。2013Q1では、Android(前年同期比79.5%増)とWindows Phone(同133.3%増)です。特にWindows Phoneは2012Q2以降、4四半期連続で100%以上の伸び率を示しており、かなりの存在感を示しています。iOS(同6.6%増)もプラスで推移しているものの、徐々に頭打ちの傾向にあります。
BlackBerry・Linux・SymbianなどIDCが調査対象としているそのほかのOSは、いずれも前年同期比で減少に転じており、市場全体の伸びに追いついていないことがわかります。
それでは、今後もWindows Phoneが伸び続けると仮定して、将来的にAndroidやiOSを上回る日はやってくるのでしょうか。この点で筆者が注目しているのはWindows PhoneとほかのOSの出荷台数比率です。IDCの調査をもとにして、Windows Phoneが1台売れるごとに、AndroidやiOSが何台売れているかをグラフに示してみます。
たとえば最新の2013Q1の時点で、Windows Phoneが1台売れるごとにAndroidは23.2台、iOSは5.3台売れていることがわかります。グラフが示すように、台数は大きく上下しています。ただ、急速に広がったり、縮まったりする傾向は見られません。現時点でWindows Phoneは健闘しているものの、AndroidやiOSとの差を急速に詰めるほどではない、といってよいでしょう。
■Windows Phoneの行く手はなかなか厳しい
このように第3のOSとしてじょじょに存在感を高めつつあるWindows Phoneですが、一方でスマートフォン市場のプレーヤーはAndroidとiOSの2つに絞られつつあります。これを端的に示すために、同じくIDCの調査にもとづいて、AndroidとiOSのシェア推移をグラフ化しました。
2011Q1から2013Q1の2年間、Androidのシェアは上下しつつも伸びています。iOSは横ばいといったところでしょう。しかしここで注目したいのは、AndroidとiOSのシェアを合計したオレンジの線です。この2年間、AndroidとiOSの合計シェアは一貫して伸び続けており、2012Q4にはついに90%を突破しました。
以前から、スマートフォン向けアプリやサービス、周辺機器の多くが、iOSとAndroidにのみ対応する傾向にありました。このように市場の寡占化が進むことにより、その傾向が今後も続く、あるいは強化される恐れがあります。これはWindows Phoneにとって逆風となるでしょう。
また、Androidがスマートフォン市場の75%を占めていることで、Googleの影響力が大きすぎる点も懸念されます。GoogleはWindows Phone用アプリの提供に積極的ではなく、Windows PhoneはGoogleのサービスを使いやすい環境とは言えません。この状況を改善するには、マイクロソフトがGoogleとなんらかの取り引きをするか、さもなくばマイクロソフトの独自サービスによりGoogleを代替することが必要になるはずです。
最後に、ノキアについての懸念を挙げておきます。現在のWindows Phoneの勢いの大部分は、ノキアのLumiaシリーズによるものという見方が有力です。たとえば5月14日にはグローバル向けに『Lumia 925』を発表。米Verizon向けには『Lumia 928』を提供するなど、積極的に新端末をリリースしています。
↑米Verizon Wireless向けの『Lumia 928』。 |
また、米国のスーパーマーケット“ウォルマート”ではT-Mobile USA版の『Lumia 521』を130ドル(約1万3500円)で販売。大きな話題となっています。
↑ウォルマートで話題の『Lumia 521』。現在は品切れ中。 |
しかし、このようにノキアへの依存度が上がることは、Windows Phone市場にとって健全なことなのでしょうか。すでにAndroid市場では、サムスンの存在が大きすぎることが問題となっています。
規模は異なるものの、Windows Phone市場もまた似たような構図になる可能性があると言えます。たとえばノキアの株主は、Windows Phoneを主力OSとする事業計画に不満を抱いており、経営陣に対して方針転換を求めつつあります。いまのところノキアはWindows Phone路線を堅持していますが、Windows Phoneの将来を考える上では大きな火種と言えます。
(2013年5月22日20時32分追記)“Windows Phone 1台あたりの出荷台数の推移”の表の単位が誤っていました。お詫びして訂正いたします。
山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります