レノボ・ジャパンから4月下旬に発売された『ThinkPad Helix』。Helixが最初に登場したのは今年1月にラスベガスで開催されたCESですが、その米国を差し置いていち早く日本市場に投入されました。
↑ThinkPad Helix(ノートPC状態)。 |
ThinkPad HelixはタブレットとノートPCの両方で使えるUltrabookですが、それに加えて“タブレット+”モードをサポートするなど、独自のギミックが満載です。さらに特筆すべきは、冷却面でこれまでにないシステムを採用しています。
今回はこれまでのCoreプロセッサー搭載タブレットについて振り返り、ThinkPad Helixの優位性を確かめてみたいと思います。
■Coreプロセッサーの難点は冷却
Windows8採用のタブレットは、Atomプロセッサーを搭載した製品が主流となっています。コンバーチブル機構によりタブレットに変形するUltrabookを除けば、Coreプロセッサー搭載のタブレット機というのは意外と少ないのです。
たとえばAcerの『ICONIA W700』、日本未発売のサムスン『ATIV Smart PC Pro』、マイクロソフトの『Surface Pro』などがあります。
なぜCoreプロセッサー搭載のタブレットは少ないのでしょうか。たしかにAtomタブレットと比べて、ディスプレー・メインボード・CPU・メモリー・ストレージ・バッテリーといったPCのあらゆるコンポーネントをタブレットのなかに詰め込まなければならないという条件は同じです。しかしCoreプロセッサーは消費電力が大きく、それに対応した冷却機構や大型バッテリーの搭載が必要となることから、タブレットは厚く、重たくなりがちです。
たとえばマイクロソフトのSurfaceでは、Coreプロセッサー搭載のSurface ProとARMプロセッサー搭載のSurface RTとで、厚さや本体背面の構造が大きく異なります。
↑Surface Pro(左)とSurface RT(右)。 |
↑Surface Pro(上)とSurface RT(下)。 |
Surface Proは分厚いだけでなく、本体背面の外周を囲むようなスリット"Perimeter Venting"を備えており、これが通気口として機能します。また、動作中はマグネシウム合金のバックパネル全体を使って放熱するため、背面が温かくなります。
Atomプロセッサーとの比較ではどうでしょうか。サムスンのATIV Smart PCには、ほぼ同じ形状のAtomプロセッサー版とCoreプロセッサー版が存在するので、容易に比較できます。
Atomプロセッサー版の『ATIV Smart PC』は、タブレット/クラムシェル状態の厚さが9.9ミリ/20.5ミリ、重さは744グラム/1.45キロとなっています。
↑Atomプロセッサー搭載のATIV Smart PC。 |
一方、Coreプロセッサーを搭載した『ATIV Smart PC Pro』は、11.89ミリ/22.34ミリ、重さ888グラム/1.6キロとなっています。タブレットは1.99ミリ厚く、144グラム重い計算になります。
↑Coreプロセッサー搭載のATIV Smart PC Pro。 |
外観の違いとして、Coreプロセッサー版にはタブレット背面にたくさんのスリットが設けられ、エアフローを確保していることがわかります。
↑Atom版の背面はすっきりしている。 |
↑Core版の背面は多数のスリットが確認できる。 |
■Helixはキーボード側から強制冷却する
これに対してThinkPad Helixは、興味深い冷却機構を採用しています。
ThinkPad Helixのタブレット側は、一見するとAtomタブレットかと思うほどすっきりしたデザインとなっています。通気口はタブレット上下に用意されていますが、これ以外に大きなスリットは見当たりません。
↑タブレット上部の通気口。 |
↑タブレット下部の通気口。 |
冷却ファンは、タブレット本体に“プライマリファン”を内蔵。そして“セカンダリファン”が、なんとキーボード側に搭載されています。
↑キーボード側にツインファンが内蔵されている。 |
↑通常利用時はカバーに覆われるが、すき間から空気を取り入れる。 |
タブレットをキーボードにドッキングすると、セカンダリファンがちょうどタブレットの通気口の位置にくることがわかります。ノートPCとして利用する際には、背面から吸い込まれた空気がタブレット下部から送り込まれ、タブレット上方に抜ける仕組みになっています。
この機構により、ノートPCとして使う際にはCoreプロセッサーの性能を最大限に引き出す冷却が可能となっています。
また、ThinkPad Helix独自のスタイルが“タブレット+”モードです。これはタブレットをノートPCとは逆向きにキーボードに取り付けて倒した状態を指しています。
↑“タブレット+”モード。セカンダリファンで冷却しつつタブレットとして使える。 |
“タブレット+”モードはノートPC状態と同等の冷却ができるわけではありませんが、タブレットとノートPCの中間の冷却能力となります。その結果、パフォーマンスも両者の中間となります。ピュアタブレットに比べて、冷却による高い性能が発揮できること、キーボード側に内蔵されたバッテリーを利用できるというメリットがあります。
■難点もあるが、ほかに代替品がないユニークな存在
ThinkPad Helixはこれまでにない冷却機構を採用することで、Coreプロセッサーの性能を最大限に引き出せるタブレットであると言えます。Windows8のポテンシャルをフルに引き出せると言ってもよいでしょう。
一方でThinkPad Helixについて、筆者は決して万人におすすめできるUltrabookであるとは思いません。構成によっては簡単に20万円を超えてしまう価格や1.6キロを超える重量、膝の上に置いたときの重量バランス、ファンの騒音など、悩ましい点があるのも事実です。
また、高い負荷をかけ続けるとタブレット背面が非常に熱くなること、従来のThinkPadシリーズとは使い勝手の異なるクリックボタン一体型のタッチパッドなど、設計に疑問を感じる点もあります。
それでも、ここまで開発者のこだわりを感じる入魂の“作品”は、そう滅多にあるわけではないというのも事実です。高性能なタブレットとノートPCの両方をモバイルで活用したい人にとって、ThinkPad Helixはほかに代替品のない、唯一の選択肢となる可能性も秘めています。機会があれば、ぜひHelixの魅力に直接触れてみてください。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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