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100年前の「寓話」がなぜ今? 新書『ビジネス寓話50選』の筆者に迫る

2012年12月29日 23時00分更新

 短い寓話からたくさんのビジネスのヒントを学べると好評の『ビジネス寓話50選』(アスキー新書)。その著者、博報堂ブランドデザインの宮澤正憲さん、山田聰さん、ボヴェ啓吾さんの三人にヒットの要因を伺った。

――そもそものお話ですが「博報堂ブランドデザイン」とはどのようなことをやっているのでしょうか?

宮澤 簡単にいえば、ブランドに関する何でも屋で、企業や地方自治体、教育機関などのブランドにまつわるコンサルテーションをやっています。

 ブランドというものをキチンと説明すると長くなるのですが、我々はブランドを一言で説明するときに「らしさ」と言っています。その企業とか、その商品、その組織の「らしさ」をどうやって作ったらいいかを考えています。

 「らしさ」を作るには、企業の組織を変えることもあれば、企業の風土や商品を変えることもある、ウェブサイトも広告も変える場合がある。このように「らしさ」の構成要素は非常に多様なので、我々のメンバー構成も、経営コンサルタントやマーケッター、リサーチャー、デザイナー、コピーライター、一級建築士や人事の専門家などといった様々な属性を持つメンバーがそろったチームです。

博報堂ブランドデザインの3人
『ビジネス寓話50選』を執筆した博報堂ブランドデザインの3人。左から、宮澤正憲さん、ボヴェ啓吾さん、山田聰さん。

――ブランドの仕事と寓話にどういった関連が?

宮澤 我々は講演やワークショップの場で話すことも多いのですが、そういうときに寓話を例に出すことがあります。こういった寓話は古い話であっても、今の先端のビジネスにすごくフィットしていることがあって、ビジネスの普遍的な知恵があるに違いないと気づいたんです。そこで「とにかく寓話を集めてみよう」という話が出たのが発端です。

 また、我々はマーケティングやブランディング、経営に関する書籍を作ったこともあるのですが、ビジネス書はターゲットが絞られていて、特定の方にはアプローチできるが幅広い人に届けるのが難しい、と常々考えていました。そこで世の中一般の人や忙しいけど本を読みたい経営者などに、新書という形でビジネスの本質などを伝える本を作りたいと思っていたのも本書の企画に結びつきました。

宮澤正憲さん
博報堂ブランドデザイン 宮澤正憲さん。

――寓話のセレクションの基準は?

山田 ○○という解説を載せたいから、××という寓話を選ぼう、みたいな調整はしませんでした。とにかく優先したのは、まず、寓話単体として面白いことと、読んだ後に心に何か引っかかる、ということ。

宮澤 「こうだろう」という仮説を立ててから入るとつまらないものになる。仮説を持たずに調べてから、気づくことを大事にしています。どうなるかわからないけど、寓話を集めてみたら、面白いものがたくさん見つかった、というのが正直な部分でもあります。

 同時に刊行した『ビジネスは「非言語」で動く』という新書があるのですが、その本で述べていることが、「言語にならないことにこそ、潜在的なチャンスが隠れていて、ビジネスの宝の山になる」という本です。なんとなく言葉にできないけど、気にかかることが実は重要だったりします。そもそもビジネスそのものが、そういう側面を持っていたのに、経営の効率化やスピード重視の中で忘れられている状況が10年くらい続いて、限界にきているのかな、と。

山田聰さん
博報堂ブランドデザイン 山田聰さん。

――ひとつひとつの寓話に、ビジネスの視点からの解説があることが、寓話の味わいを深くしてるように思えます。

ボヴェ 最初は寓話を並べるだけでも、面白いかなと思ってたんですよ。でも、寓話を集めて、みんな議論してみるといろんな解釈が出てきて、新しい発見がある。そういう意味で、掲載した解説を押し付ける気持ちはまったくありません。

 ひとつひとつに解説があることで、逆に「いや、そうじゃないんじゃないの?」という考えが浮かんだり、違う読み方をしたけど解説を読んで、「そういわれてみれば、そういう見方もあるな」と思ってもらえると、いいなと思ってます。

山田 チームのみんなと一緒に議論してみると、最初に読んだときに心に引っかかった理由が解き明かせるものがあるんです。

宮澤 本書に掲載した解説でも、我々スタッフの中でも違った視点を持つ者もいます。僕はこう見るけど、彼らはこう見るんだな、とかということが分かったのも制作するうえで面白かったことですね。

ビジネス寓話50選
ビジネス寓話50選 物語で読み解く、企業と仕事のこれから (アスキー新書)

――この本が受け入れられている理由はどのあたりにあると思いますか?

宮澤 第2話の「漁師ティコとウォールストリートのアナリスト」が象徴的です。右肩上がりの時は目標が明確でやることも決まっていた。スピードと効率がすべてだった。しかし、人口が減少していて、国内の市場は伸びずに、減っていくという時代になった。そういう認識を持った時に、「ビジネスで何をやればいいんだろう?」という疑問を多くの人が持っているのではないか? 「何のために仕事をするのか?」という回答探しをしている人に、読んでもらっているんじゃないかと思います。

山田 知人からは「この寓話が面白かったよ!」とか「こう解釈したよ!」とか「こんな寓話もあるよ!」といったメッセージをもらっています。

 前書きで寓話の持つ力として、「体験させ力」「感受させ力」「参加させ力」という話を書いているんですが、読んでくれた人が自分ゴト化して参加したくなる魅力を感じてくれたのはうれしかったですね。

ボヴェ この一冊を読むだけで何かが変わるわけじゃないし、この本以外にもそんな便利なものはこの世には存在しないと思う。たぶん、何かの答えが欲しいわけじゃなくて、自分自身でモノを考えたいという人に読んでもらえているのかな、と。

 今の時代は単に受け身でいるより、自分で何かを発信したり、人に勧めたりすることが面白い。この本も寓話をひとつ読んだら、解釈を考えて、人に伝えたくなったり、「自分はこうだと思う」という主張をしたくなるのが、ひとつの快感になっていると思う。

 単に「いい寓話を読んだ」というだけじゃなくて「寓話を読んでいろいろ考えた」という刺激があるんじゃないかなと思います。

宮澤 そういう意味ではデジタルメディアに近いですよね。SNSで盛り上がるコンテンツと似ている。人に勧めるとか、コメントできるとか、加工できるとか。

ボヴェ 寓話を探して、いろんなビジネス書を読んでいるときに、同じ寓話なのに違った解釈をしている本もありました。また「最初に知ったときは違う話だった」とか「自分が知っているものとは解釈が違う」みたいなことも多かったんです。やっぱり人と人の間で語られていたもので、時代時代に合うような解釈や伝えたいメッセージに合わせて寓話の内容が変わるところもあるんでしょう。

宮澤 先ほどの粘土の話とも共通しますが、柔軟性があって、手が入れられそうなところも寓話のいいところなんでしょうね。第13話の「暗闇の中の象」も調べていくと、舞台がインドだったり、中国だったり、話も長いものから短いものまであったり。第29話の「天国と地獄の長いスプーン」も、スプーンではなく、お箸の話だったりとか。

ボヴェ啓吾さん
博報堂ブランドデザイン ボヴェ啓吾さん。

――最後にこれから読んでくれる方々にメッセージを。

ボヴェ 今の時代に、なぜ寓話なのか? いろいろと変化してる時代だけど、どこかで本質に回帰しているんじゃないか、という気がしています。物事の根本的なことを考えていくべきなんじゃないかと。そういう意味で、100年前の寓話なのに、これからのビジネスに役立ちそうだ、という感性を大事にしてほしい。100年前の人が言ったことにいいね!と思えることは素晴らしいことだと思います。

山田 とびきり面白い寓話を50個選んでいます。いかに面白い広告をつくるか、いかに面白いストーリーをつくるか、という仕事をしている会社の中で、集めて厳選したものですから寓話自体の面白さには自信があります。ビジネスというと小難しくと感じる人もいるかもしれませんが、気楽に読んでも楽しんでいただけると思います。

宮澤 楽しいとか面白い、というのが大事。ビジネスは堅苦しくとらえるのではなく、本書をきっかけに、今までとは違った視点から仕事をしてみたり、まったく新しいビジネスに挑戦してもらえれば、きっと仕事は楽しくなる。仕事を真面目に、かつ楽しむ人が増えてくれれば、今の日本がもっともっと活性化していくんじゃないかと思います。

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