本記事は、誰でもできる上手な文章の書き方を解説した本『Webライティング実践講座』(関連サイト:Amazon)から、一部を抜粋したものです。ブログや仕事で活かせるテクニックがいろいろ紹介されているので、気になった方はぜひどうぞ。前回はこちら↓
「見出しから作る」がライティングの基本――迷わず書くための文章術(1)
起承転結は「転」から考える
平凡な人生、同じことが繰り返される毎日。FacebookやTwitterで「リア充」ぶりをアピールしていても、ほとんどの人の日常には、黙って過ごせば何のドラマも起きません。だからこそ、誕生日のサプライズパーティーを企画したり、知らない場所に旅行に出かけたりするのです。コンテンツも、そんな日常から抜け出す手段のひとつです。
小説や映画の世界では大事件が起き、主人公とその仲間はいくつもの苦難を乗り越えて目的を達成します。自分は何もしなくても、小説や映画の世界で突拍子もないことが起きれば、日常から抜け出せるし、その程度の非日常が味わえるだけで、案外楽しく過ごせるものです。もちろん、本書で紹介するWebライティングは、小説や脚本など、高度にクリエイティブな文章を書くテクニックではありません。しかし、商品を説明し、ニュースリリースを書いても、「ストーリー」がなければだれかに読んでもらい、印象に残り、話題になることはありません。たとえ数行の商品説明やニュースリリースでも、小説や映画に似た非日常を味わえる工夫が必要です。
起承転結を「起」から書き始めるとストーリーは書けません。とりあえず「起」から書き出して、書き進めながら「転」を考えようと思っても、「承」と「転」がうまくつながらなかったり、「転」から「決」に自然な形に結びつかなかったりします。困ったあげく、「そもそも起承転結が悪い」と思うと、文章に構造がなくなります。「転」のあるストーリーを作る方法は大きく3つあります。
【方法1】
当たり前を「転」にする
「起承転結」でもっとも重要なのは「転」です。しかし、世の中があっと驚くテーマがしょっちゅうあるはずがなく、ニュースリリースや商品説明など、すでにテーマが決まっていると、「転」を考えるのは無理に思えます。もっとも悪いパターンは、テーマから書き始めてしまうことです。たとえば、「東京ビッグサイトで開催される『日本の味展』で、当社の総料理長が手打ちつけ麺を実演し、できたての味を提供します」というストーリーを起承転結で書こうとすると、以下のように大失敗してしまいます。
起:東京ビッグサイトで『日本の味展』が開催されます
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承:当社は総料理長自らが手打ちつけ麺を実演します
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転:実際は何千食も手打ちでは作れないのでレトルトも混ざっています
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結:見た目だけ実演を楽しんでください
もちろん、こんなあらすじの文章を公開するのはあり得ませんが、起承転結で書こうと思ってメインテーマを「起」や「承」にすると、「転」でメインテーマをひっくり返さざるを得なくなり、「起承転結」は実務では使えない、と思ってしまうのです。
特別の驚きがないテーマを扱うときは、メインテーマを「転」にして、「転」とは反対の状態を「起」にします。
起:総料理長はふだんはテストキッチンにいて表に出てきません
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承:東京ビッグサイトで『日本の味展』が開催されます
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転:なんと総料理長自らが手打ちつけ麺を実演します
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結:午前10時から100食限定の手打ちつけ麺をお楽しみに!
起承転結を「転」から考えれば、特別な驚きがないことでも、日常に変化をもたらすイベントにできるのです。
【方法2】
常識を覆して「転」にする
テーマそのものを考えてよいなら、「転」は常識をひっくり返すことで量産できます。というと、中途半端な常識人は、自分には常識があるので、常識をひっくり返すなんてできない、うちの会社は保守的だから、そういう方法論は役に立たない、と思ってここで読むのをやめてしまうでしょう。
でも、ちょっと待ってください。iPhoneの登場でケータイからテンキーがなくなったり、ケータイでワンセグ方式のテレビが見られるようになったりしたのは2007年からです。「テレビは都合の付く時間に見るもの」という常識は、家庭用ビデオデッキがなかった1970年代の前半にはありませんでしたし、「東京から大阪なら日帰りで出張する」という常識は、新幹線がなかった1960年代にはありませんでした。歴史をさらにさかのぼれば、「栽培したコメや小麦を加工して食料にする」という常識は、紀元前1万年にはありませんでした。常識ほどすぐに変わってしまうものはないのです。
もちろん、奇抜さは簡単には常識に変わりません。ケータイがテレビリモコンのようにボタンだらけになっても「転」ですが、たぶん不便なので受け入れられません。「テンキーがない」ほうが便利だから、ケータイよりもシンプルなスマートフォンが受け入れられたはずです。ビデオデッキや新幹線、農業も、以前に比べれば奇抜ですが、便利だから受け入れられたのです。
「転」を量産する方法は、「発想法」として定型化されています。
「当たり前」を覆す
- 一般的な素材と真逆の性質
- 大きい→小さい、小さい→大きい
- 丸い→四角い、四角い→丸い
- 安い→高い、高い→安い
常識とされることを疑ってみる
- マスコミや昔から言われていることを科学的に検証してみると実は違いがあった
- いままで○○が今後は△△
劣等感を刺激する
- 弱い立場の○○が強い△△に勝利
- あなたより格下の○○が△△に成功
優越感を刺激する
- 強い立場の○○が弱い△△に敗北
- あなたより格上の○○が△△に失敗
もっとも簡単な「転」は当たり前を覆すことです。たとえば、以下のようにはじめに「当たり前」を考えます。
クッキー
- 材料:米粉、マーガリン、卵なし
- 色:ココアを混ぜて濃い茶色
- 大きさ:直径20センチ
- 形:棒状
- 価格:1枚1000円
コーヒーカップ
- 材料:紙
- 大きさ:直径2センチ
- 形:球体
- 価格:1万円
スマートフォン
- 材料:木製
- 色:透明
- 大きさ:3センチ
- 形:立方体
- 価格:20万円
Web制作
- 材料:HTMLとJavaScriptのみ、画像はcanvas要素にJavaScriptで描画する
- 作り方:ユーザー企業で内製
- 大きさ:1000万ページ
- 形:トップページからスライド方式でめくる
- 価格:無料
米粉クッキー、紙製コーヒーカップ、木製スマートフォン、画像ファイルを使わないWebページは実在します。長さが20センチの棒状クッキーや球体コーヒーカップは、解放された気分の観光地なら買ってしまうかもしれません。3センチの立方体スマートフォンは、ガジェット好きなら興味をそそられるでしょうし、トップページから順に見ていかないと全1000万ページが見られないWebサイトも話題にはなるでしょう。しかし、「転」にしては何だが地味ですし、「だから何?」という気がします。単に要素をひっくり返しただけでは受け入れられないのです。
■「転」が解決策なら常識は覆せる
米粉クッキーは、小麦アレルギーのお菓子好きには切実な解決策です。大規模なパーティ会場なら、洗わずに済む紙製コーヒーカップは労力の節約になります。画像ファイルで送信するより速くて表現力に差がない用途なら、JavaScriptでクライアント側が描画する方法が普及するでしょう。毎日のニュースで「おっ!」と思うのは、実はこの程度の「転」で十分なのです。
● 小麦アレルギーでも安心のおいしい米粉クッキーレシピ
● 使い終わったら捨てるだけ!紙製コーヒーカップに高級仕様
● 全画像JavaScript化で転送量を最少化したWebサイト
一方で、NTTドコモの木製スマートフォン「TOUCH WOOD SH-08C」は間伐材の有効利用や1台ごとに木目が違う、という主旨は共感されても、それでだれかの問題がすぐに解決するわけではありません。「おっ!」と思わせる見出しやストーリーでも、それで何かの問題が解決したり、みんなが幸せになって社会全体が便利になったりしないと、常識は覆せないのです。
さらに詳しく知りたい方はこちらの本で。
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