Windows 8の登場に伴って、Windowsタブレットにも注目が集まっています。国内でも富士通やデル、レノボが相次いでWindows 8搭載タブレットを発表しています。
↑Clover Trailタブレット『ThinkPad Tablet 2』。 |
中でも注目は、UltrabookやノートPCでよく用いられるCoreプロセッサーではなく、最新のAtomプロセッサー『Clover Trail』(Atom Z2760)を採用したタブレットです。
今回はこのClover Trailタブレットに焦点をあててみたいと思います。
■大きく3種類に分けられるWindowsタブレット
Windows 8世代のタブレット端末は、大きく分けると次の3種類があります。
・Coreプロセッサー搭載タブレット(Windows 8/Windows 8 Pro)
・Atomプロセッサー搭載タブレット(Windows 8/Windows 8 Pro)
・ARMプロセッサー搭載タブレット(Windows RT)
この中で最もパフォーマンスが高いのが、Coreプロセッサー搭載のタブレットです。しかし現時点では純粋なタブレット型デバイスは少なく、ノートPCから変形するコンバーチブル型が主流と言えます。Ultrabookと同等の処理性能が期待できますが、バッテリー駆動時間はそれほど長くありません。マイクロソフトによるもうひとつのタブレット『Surface Pro』も、Coreプロセッサー搭載タブレットです。
一方、OSにWindows RTを採用するARMタブレットはCPUアーキテクチャーが異なるため、単純な比較が難しい存在です。Windows RTの最大のデメリットは「既存のx86/x64向けデスクトップアプリが動かない」点にあるとされます。しかし裏を返せば「ウィルスやマルウェアも動かない」というメリットにもなります。いずれにしても外観はよく似ていますが、中身は大きく異なるので注意が必要です。
さて、Atomプロセッサー『Clover Trail』を搭載するタブレットはこの中間に位置しています。CPUアーキテクチャーとしては、32bitのx86プロセッサーとなり、従来のデスクトップWindowsアプリがそのまま動作します。一方、消費電力は低く、ARMプロセッサー並のバッテリー駆動時間を実現しています。いわば、両者の“いいとこ取り”をした存在と言えるでしょう。
■Clover Trailタブレットは16時間動く?
Clover Trailタブレットのバッテリー駆動時間について、正直言って筆者は懐疑的でした。いかにAtomプロセッサーといえども、ARMと比べればまだまだ消費電力の大きなプロセッサーという印象を抱いていました。
しかしClover Trailのバッテリー駆動時間は、ARMと同等か、それ以上の長さになる可能性がありそうです。たとえばThinkPad Tablet 2では、バッテリー駆動時間が次のように説明されています。
↑ThinkPad Tablet 2のバッテリ駆動時間。 |
・スタンバイ……25日(画面OFF、WiFi接続)
・音楽再生……150時間(画面OFF、MP3再生)
・動画再生……10時間(画面輝度200nit(カンデラ毎平方メートル)、720p動画再生)
・バッテリー駆動時間……16.4時間(JEITAバッテリー動作時間測定法)
たとえば第4世代iPadやiPad miniでは“WiFiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生”が最大10時間、Nexus 7では画面輝度100nitで720pの動画を再生した場合が約9.5時間と説明されています。Clover Trailタブレットには、これらの最新タブレット端末に匹敵するバッテリー駆動時間を期待できると言えます。
また、ノートPCのカタログなどでよく採用されるJEITA測定法では、16.4時間となっています。富士通の防水Clover Trailタブレット『ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J』でも、動画再生時に10時間の動作が可能となっており、ThinkPad Tablet 2とほぼ同じ長時間動作が期待できます。
↑10時間の動画再生が可能な富士通の『ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J』。 |
↑ARROWS Tabを製造する島根富士通では、水槽内に展示されている。 |
日本では未発表ですが、サムスンによるキーボードとドッキング可能なClover Trailタブレット『ATIV Smart PC』は、MobileMarkによるバッテリー駆動時間が14.5時間となっています。
↑14.5時間駆動のサムスン『ATIV Smart PC』。 |
たしかに、Ultrabookを含むこれまでのWindows PCでも、10時間以上のバッテリー駆動が可能なモデルはありました。しかしその多くはJEITA測定法のように比較的負荷の低いベンチマークによって測定された値で、実際の使用時間は長くても6~8時間程度というモデルが大半を占めていたのではないでしょうか。
また、現実的にはベンチマークテストのように満充電の状態から使い始めるとは限りません。スタンバイ状態で持ち運んだり、中途半端な状態からの再充電を繰り返すことで、実質的に使えるバッテリー量が減ってしまうこともしばしばあります。
しかしClover Trailタブレットなら、そういった悪条件下においても10~12時間使える可能性があります。通常のデスクワークや会議、外回りといった仕事では、丸1日充電しなくても使える長さと言えます。筆者は国際線の飛行機内で長時間PCを使用し、到着後そのまま充電せずに会議に出席するような経験がありますが、そういった過酷な状況にも対応できそうです。
ビジネス利用として興味深いのはデルのClover Trailタブレット『Latitude 10』です。他のClover Trailタブレット同様、マイクロUSB経由での充電に対応する上、タブレットとしては珍しくバッテリーの交換にも対応しています。まさにあらゆる要求に対応できるタブレットと言えます。
↑デルの法人向けClover Trailタブレット『Latitude 10』。 |
↑バッテリー交換、マイクロUSBによる充電にも対応。 |
■Clover Trailタブレットの注意点
このように、ARMタブレットに匹敵するバッテリー駆動と、既存Windowsアプリが動作するという魅力を兼ね備えているのがClover Trailタブレットです。しかし購入にあたってはいくつか注意点もあります。
まず、Clover Trailは32bitのプロセッサーであり、64bit版のWindows 8には対応しません。64bit OSを必要とするアプリケーションはそれほど多くないものの、いくつか存在します。たとえばWindows Phone 8の開発環境では、エミュレーターが64bit版のWindows 8を必要としています。『Adobe After Effects CS6』のように、64bit版しか用意されていないアプリケーションも使えません。
また、現時点で発表されているモデルはいずれも搭載メモリーが2GBとなっています。Windows 8ではメモリーの使用量がさらに効率的になっているとはいえ、メモリーを大量に消費する用途には向いていません。
キーボードやマウスを使わない、純粋なタブレットとしての利用では、アプリに不安が残ります。既存のデスクトップWindowsアプリをタッチ操作で使うのは困難です。一方、WindowsストアのModern UIアプリはまだ充実しているとは言いがたい状態です。また、Clover Trailタブレットによく見られる1366×768ドットという画面解像度では、ハイエンドのiOSやAndroidタブレットと比べて精細さに欠ける印象を受けます。
このように、Clover Trailタブレットも万能というわけではありませんが、本格的にARMタブレットに対抗できる可能性を秘めた存在と言えます。何より、既存のWindows向け周辺機器、Windowsデスクトップアプリ、Windowsストアアプリを活用できることは、大きな魅力です。みなさんも店頭でAtom搭載タブレットを見かけたら、ぜひ触ってみてください。
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