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『009 RE:CYBORG』が3Dアニメの常識を変える! 神山健治監督インタビュー

2012年11月01日 14時00分更新

文● 平野 撮影●岡田清孝

 石ノ森章太郎原作『サイボーグ009』が新たにアニメーション映画化。フル3DCGながら、セルアニメのような質感を実現した制作過程について、神山健治監督にお話を伺いました。

サイボーグ009

神山健治
『009 RE:CYBORG』監督

PROFILE
1966年3月20日生まれ。映画『ミニパト』(02)で初監督。代表作に『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『東のエデン』。

サイボーグ009

1968年、1979年、2001年と3度テレビアニメ化されている『サイボーグ009』ですが、原作やアニメを見たことがない人への説明をあえてカットしている気がします。

神山監督:『攻殻機動隊』のときもわりとそういう乱暴なつくり方でした。最近の若い人たちは知っているものを好んでみる傾向が強いので、そこは冒険な部分ではあるんですが、オリジナルの映画って基本的には知らないキャラクターと2時間対峙して、その中でキャラクターの本質を知り、その後を想像して終わるというのが好ましい姿だと思うので。今回の物語の中で誰にどういった形で感情移入して見れば楽しめるかということでいえば、原作を知らない人にも充分見てもらえるのではないかと思います。

サイボーグ009

――キャラクターデザインを現代的にかなり変更されました。

神山監督:あえて誤解を承知で言うと、ハリウッドが『009』を実写映画化したらどういう風になるかというイメージであのキャラクターはつくりました。等身も実際の人間に近い形にしました。昨今、コミックを実写映画化すると、髪の色や髪型まで原作に合わせるじゃないですか。実写でそこまでやる必要はないと僕は考えていて、「ちょっとそこまで」って半笑いになっちゃう部分が、アニメだとこのぐらいかなという落としどころが見つかる。リアルとマンガの間ぐらいです。原作のキャラクターのイメージをなるべく逸脱しないように、イメージは残しつつ、実写化したら役者さんはこんな感じになるんじゃないかなと、そういったイメージでのキャラクターデザインです。

 原作どおりにやれば、「原作どおりだね」とは言ってもらえると思うんですけど、「今の時代には合わない」部分も出てくると思います。等身などをリアルに変えてしまったとしても原作のイメージを踏襲していれば、最終的には好きになってくれるんじゃないかなと思っています。

サイボーグ009

――003(フランソワーズ)はプロポーションや動作もだいぶセクシーになった気がします。

神山監督:原作の柱の影でメソメソしながらいつもジョーを見守っているフランソワーズでは、今の時代にはさすがに合わない。原作では、ジョーはよくゲストのヒロインとラブストーリーを演じるのですが、映画は所詮単発。シリーズと違うので、ゲストキャラクターを描いている余裕はない。9人の中でちゃんと主人公とヒロインと、物語に寄与する登場人物を作らないと。そういう中でちゃんと彼女がヒロインになってほしいなという意味もありますね。

――ともえちゃんも魅力的な女の子ですよね。

神山監督:高校生のジョーにも素敵なガールフレンドがいるんじゃないかというイメージです。ジョーのファンの女の子にはイライラしてほしいですね。

アニマティックス
サイボーグ009
完成映像
サイボーグ009

――3DCGを使ってセルアニメ的な絵をつくるという方法をとられたのはなぜですか。空中戦など、3Dでないと表現できない場面が多々ありますが。

神山監督:今回は3Dの映画であるということが前提としてあったので、それを生かそうと、開発段階からスローモーションなど、今までのアニメの表現ではできなかった映像を想定しています。

 同時に僕は部分的にCGでのアニメーション制作に移行していくべきだと考えています。セルロイドに絵の具で塗っていた時代から、PCでの制作に変わったのがここ十年くらいなんですけど、いちばんのメインであるアニメーターと演出スタッフは、デジタル化の恩恵をほとんど受けていないんですね。フィルム時代の手描きスタイルを踏襲しすぎたあまり、固まってしまっているんです。そこをいずれ大きく変えていかないかぎり、我々の仕事は疲弊していくだろうと。

 せっかく可能性があるのに、やらないこと自体、僕はもったいないと思っていました。こういうビッグタイトルを制作する機会って大きな変革を生みやすい。ただ、成功しないと次がないので。コストを下げつつヒットしなくてはいけないという状況の中で、非常に責任感をもってやっているところはあります。状況を変えることってストレスでもあるんですが、変えない限り、未来はない。ぜひ成功させたいですね。

アニマティックス
サイボーグ009
完成映像
サイボーグ009

――“フル(1秒間に24枚)のCGからコマを抜いて、“リミテッド(1秒間に8~12枚) アニメに近づけたり、手付けで修正したりしていますが、それでも一枚一枚、作画するより効率的だったということですか?

神山監督:効率化されていますね。僕自身も楽でした。うまくすれば手描きのアニメーターにそれほどストレスを与えないまま移行も可能かなと思いました。鉛筆をマウスに持ち替えてほぼ同じ作業ができる。絵がうまい人にとってはむしろ苦しいかもしれないけれど、今まで絵を描くことに四苦八苦していた人にとっては非常に有効だと思うんですね。特殊能力なんですよ、うまい絵を描くって。特殊能力がない人でもアニメの制作に参加できる。裾野を広げることもできるし、そこに新しい才能がでてくる可能性もできる。

サイボーグ009

――ジェットが飛び上がる前の一瞬のタメなどは、アニメーターさんの手作業によるものですか?

神山監督:そうです。動きのタメっていうのは、アニメーターの才能によるところが大きい。フルコマでも同じことをやっているんだけど、コマを抜いた状態で“手付け”といわれる作業をしていくことで、同じことをやってるにも関わらず、ちゃんと映像に苦労が写る。

――ピクサーですらアニメーションは全部手付けですからね

神山監督:そうなんですかね? ただ、CGアニメは、昼寝している間にレンダリングしたら全部コンピューターが計算してくれて出来上がるだろうと思われがちですが、実はそんなことはない。

サイボーグ009

――“加速装置”をスローモーションで表現されたのは、監督の体験からだそうですが?

神山監督:二十代のころにオートバイ乗っていて、ご他聞にもれず、事故を起こすわけです。あ、やっちゃたと思った直後に、まず音が聞こえなくなるんですね。トラックのガーッという音がなくなって、ふと気がつくとすべてスローモーションで動いているんですよ。巻き込まれると思った予定のタイヤが非常にゆっくり回っていて、ボルトが錆びてるのまで見えた。で、お袋が泣くなというところまで考えましたね。ガードレールまでの隙間にハンドルをきった瞬間に、ザーッというトラックの音とバイクのアクセルを開けている音が戻ってきて、まわりの速度も同じになって、トラックの運転手の「バカヤロー」って声が聞こえてきた。

 それだけのことなんですけど、それ以降、事故にあった消防士とか、スポーツ選手が“ゾーン”に入ったときの話なんかを興味をもって集めていたんです。加速装置ってスポーツ選手でいうと世界記録を出しているときの感覚なんかに近いんじゃないかと。いろんなスポーツ選手にそういう話がありますよね。F1ドライバーがそのいちばん究極なんじゃないかな。加速装置で動いているジョーってF1ドライバーみたいな状況なんじゃないかと。偶然にも彼の前職はレーサーですしね。アイルトン・セナが優勝したときに「僕は神を見た」と言ってたたかれたりしましたけど、本当に見たんじゃないかな。

サイボーグ009

 今回、『神々の戦い編』を下地にしたときに、神っていうものは、脳がシナプスバーストを起こしたときに見ているものと、もしかしたら同じなんじゃないかと考えたんですね。神の存在みたいなものを加速装置の表現の果てに獲得できないかなと。表現手法としての3DCG、最適な表現としてのスローモーション、題材としてのサイボーグ、神とは何かということが、材料を並べていく中で同一線上に並んだ気がしたんです。

サイボーグ009

――神とは何かというテーマですが、正義を描くには難しい時代だと思いますが。

神山監督:それでも人類共通の正義というものもたぶんあると思うんです。シンプルにいえば、全人類が笑って暮らせるようにすることが正義だと思うんですよ。そこに向かおうとすることがね。そんなことは無理だってわかっているから、自分たちだけが幸せになる方法にこじつけた正義を捏造するのが今の時代なんですね。でもせめて物語の中では全人類共通の正義みたいなものをうたってもいいじゃないか、というかそれが物語の役目だと僕は思う。

サイボーグ009

 僕の思う正義ってたぶん石ノ森先生がずっと書いてきたことの刷り込みなんです。正義って誰かにほめられるからやるとかじゃなくて、他人のためになることをしなさいとか、おかげさまという気持ちを忘れるなとか、一人で生きているわけではないから自分の行為は他人のために存在するとか、そういう当たり前の道徳の延長として、正義感とかヒーロー像ってあったと思うんですよ。当たり前の道徳観を全員がまっとうしていれば、少なくても理論上は全人類が幸せになるはずなんです。石ノ森先生が描いていたのはそういうことじゃないかな。

サイボーグ009

009 RE:CYBORG

西暦2013年。超高層ビルが次々と崩壊する同時多発爆破事件が世界各地で発生。無差別テロはなぜ、誰の意志で計画されたのか。それぞれの国へと戻っていた、9人のサイボーグが再び集結する。

公式サイト(外部リンク)
●原作:石ノ森章太郎、脚本・監督:神山健治、音楽:川井憲次、キャラクターデザイナー:麻生我等
●新宿バルト9ほか全国公開中

(C) 2012 「009 RE:CYBORG」製作委員会

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