SSDメーカーとしてのサムスンといえば、今年4月に独自のコントローラーを搭載した『Samsung SSD 830』を投入し、優れたコストパフォーマンスでSSD市場に激震を起こしたメーカー。そのサムスンが早くも830の後継モデル『Samsung SSD 840』および『同840 Pro』をリリースした。840がお値段お手ごろのメインストリーム向け、上位版の840 Proがエンタープライズ/エンスージアスト向けという位置づけになっている
この上位版については、平澤氏が別記事で『Samsung 840 Pro』をレビューしているのでそちらをご覧いただきたいが、自作erとしてはお買い得感のある840も気になるところ。そこでざっくりと840のベンチマーク等をお届けしたい。
↑黒っぽいボディーにオレンジ色のワンポイント、という基本のデザインは830と同じ。厚みは7ミリだった。 |
↑中のチップを見てやるぜー! と息巻いてみたものの、フタを固定しているネジはまだ工具の流通量も少ないペンタローブ! 『MacBook Air』の裏フタを固定するのにも使われている形状だが、840のネジはMacのそれより穴の径がやや大きい。 |
3bitずつ記憶する“Enhanced TLC”を採用
840の一番の目玉は、USBメモリーやSDカード等では一般的なTLC(Triple Level Cell)方式のフラッシュメモリーをSSDに採用した点にある。現在のSSDのフラッシュメモリーは1セルに2bit記録できる“MLC”が普及したおかげで値段が一気に下がったが、3bitずつ記録するTLCにすることでチップひとつあたりの容量がさらに増え、低価格化が期待できる。
だがSLCからMLCへの過渡期にあった論争と同じように、TLCはMLCよりもさらに寿命が短い。同じプロセスルールではMLCの5分の1程度になると言われているが、これは予備領域(オーバープロビジョニング領域)を多めにとることで回避できる。MLCを採用した840 Proの容量が128/256/512GBとなっているのに対し、840は120/250/500GBと微妙に少ないのは、TLCの寿命問題を回避するための仕様なのだ。ただし840の保証期間が3年に設定されている点から考えても、ある程度の耐久性が担保された上でのTLC採用と考えることができる。
さらにサムスンは840に搭載されているメモリーチップは、ただのTLCではなく“Enhanced TLC”だと謳っているが、何が“Enhanced”なのかは不明だ。
また、同社独自のトリプルコアコントローラーの動作クロックが向上(220MHz→300MHz)、キャッシュ用DRAMの容量が512MBへ倍増(ただし120/128MBモデルは256MB据置き)などの足回り強化については、840 Proと共通仕様になっている。
ベンチ環境は?
ではベンチを見る前に、今回のベンチマーク環境から紹介しよう。純粋にデータドライブとして使った場合のパフォーマンスを比較する。
CPU:Intel『Core i5-3570K』(3.4GHz)
マザー:ASRock『Z77 Extreme6』(Intel Z77)
メモリー:DDR3-1600 4GB×2
グラフィック:CPUに内蔵
起動用SSD:Intel『SSDSC2CT120A3K5』(120GB)
電源ユニット:玄人志向『KRPW-G630W/90+』(80Plus GOLD)
OS:Windows7 Professional SP1(64ビット)
テスト対象となるSSDは次の2台を用意した。
●Samsung SSD 840『MZ7TD250』(250GB)
●Crucial m4 SSD『CT256M4SSD2』(256GB)
読み出しは速いが書き込みは……
では定番『CrystalDiskMark』の結果から見ていこう。設定は1000MB×5回および4000MB×5回のテストを、ランダムデータ(デフォルト)およびゼロフィルデータの2通り、都合4回のテストで比較する。まずは手ごろな1000MB×4のテスト結果だ。
CrystalDiskMark 1000MB×5、ランダムデータ
Samsung SSD 840 |
Crucial m4 SSD |
CrystalDiskMark 1000MB×5、ゼロフィルデータ
Samsung SSD 840 |
Crucial m4 SSD |
まずランダムでもゼロフィルでも性能に大差ない点は両者とも同じ。圧縮がかかると爆速になるSandForce系コントローラーではなく、純粋にコントローラーさばきで性能を稼ぐタイプのSSDであることがわかる。さらに840の読み出し、特にキューデプス32のランダム4K読み出しが凄まじく速い。ランダムアクセスに特化したコアを備えるサムスン自慢の“トリプルコアコントローラー”の威力を再認識できる結果だ。
しかし、それとは対照的に、書き込み速度はテストによってわずかに遅い部分もあるが、概ね『m4』と同等。TLCはMLCより遅いのが欠点とされているが、この程度なら気にせず使えそうな性能だ。
次に4000MB×4をチェックしてみよう。
CrystalDiskMark 4000MB×5、ランダムデータ
Samsung SSD 840 |
Crucial m4 SSD |
CrystalDiskMark 4000MB×5、ゼロフィルデータ
Samsung SSD 840 |
Crucial m4 SSD |
m4を基準にした場合、データサイズが大きくなると書き込み性能の落ち込みが少々大きくなるが、書き込み性能の速さは相変わらずだった。シーケンシャル書き込みが500MB/sec以上をキープできているので、メインストリーム向けとしては十分高い性能をもっているといえる。
AS SSD
もうひとつ、『AS SSD Benchmark』での結果も掲載しておこう。
Samsung SSD 840 |
Crucial m4 SSD |
左上のシーケンシャル・ランダムアクセス性能の傾向はCrystalDiskMarkと同じだ。つまり840は読み出しが全体的に速く、特にキューデプス付きの読み出し(4K-64Thrd)がm4よりも各段に速い一方で、書き込みはm4より控えめになっている。
また、中央下のCompression Benchmarkからも、840はデータの圧縮を使わずに性能を稼ぐタイプのSSDであることがわかる。ただ読み出し性能(緑のライン)の安定度はm4が抜群に高く、840は変動幅がかなり大きい点が気になる。だがこの原因がファームウェアのチューニング不足によるものなのか、TLCを扱うがゆえの仕様なのかは不明だ
消費電力
最後に消費電力を『ワットチェッカー』で計測してみた。SSDへの電力供給はACアダプター電源を使い、SSD単体が消費する分だけ計測している。
SSDだけあって電力消費量はわずかだが、書き込み時はわずかながらm4よりも840の方が電力を消費するようだ。残念ながら今回は同容量クラスの旧モデル(830)が入手できなかったが、サムスンによるとコントローラーコアの高クロック化による消費電力の増加は、同社の技術“Advanced Geometory”により大幅に低減されたとしている。単にメモリーチップだけ取りかえたのではなく、SSDというシステム全体でブラッシュアップした製品といえるだろう。
250GBで1万円台中後半の注目株
さて気になる価格だが、予想価格は250GB版で199.99ドル。国内では1万5000円強になりそうだ。言うまでもなく、これはSSD価格競争に新たな一席を投じる存在になる。TLCゆえの寿命の短さが、本当にオーバープロビジョニング領域で担保されているのか、寿命が突然来たらデータの内容は保持されるのか、などは今後の検証を待たねばならないが。
だが、この840でTLCの実用性が証明できれば、今後のSSD価格をさらに下げるきっかけをつくった製品になることは間違いない。堅実・安定性を第一とする人にはまだ“青い果実”ではあるが、新しモノ好きの自作erなら、いち早く味わってみたい新SSDといえる。
※10月1日22:08追記 『CrystalDiskMark』の測定条件についての記述を修正しました。
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