A10-5800K |
A8-5600K |
AMDの『AシリーズAPU』と言えば、CPUとGPUの設計技術を融合させたGPU統合型プロセッサーのことだ。昨年6月に登場した第1世代(開発コードネーム“Llano”)は低コストなCPUにも関わらず、ローエンドGPUに匹敵する高いグラフィック性能で注目された。そのAシリーズAPUが今年に入り、開発コードネーム“Trinity”の名で知られていた、第2世代AシリーズAPUにアップデート。ノートPC版は5月に登場したが、ようやくデスクトップPC版(以降これをTrinityと表記する)の登場がもうまもなくというところまできた。 AMD新開発のAPUの性能はいかほどのものか、さっそく性能をチェックしてみたい。
ただし、本日(9月27日)紹介できるのは、Trinity内蔵GPUを使ったゲームベンチの結果と消費電力のみ。価格やゲーム以外の性能は後日あらためて紹介することとなる。
内蔵GPUがRADEON HD7000番台にグレードアップ?
では、ざっくりとTrinityの特徴をおさらいしよう。製造プロセスは第1世代Llanoと同じく32nmプロセス、CPUコアがBulldozerアーキテクチャーの改良版“Piledriver”になり、それにGPU機能としてRADEONを組み合せたもの。このあたりの技術解説は笠原氏によるモバイル版Trinityの解説記事(関連記事)が詳しいので、そちらを参照するとよいだろう。
今回手に入れた第2世代AシリーズAPUは、倍率ロックフリーな『A10-5800K(定格3.8GHz)』と『A8-5600K(定格3.6GHz)』の2種類。注目したいのは内蔵GPUのスペックに微妙な差がついていること。A10-5800KはSP数384基の『RADEON HD7660D』なのに対し、A8-5600Kは256基の『RADEON HD7560D』となっている。
A10-5800K |
↑『CPU-Z』および『GPU-Z』で、A10-5800Kの情報をチェック。CPUのコア電圧が1.472Vというえらく高い数値が気になるが、今回はGPU-ZのSP数やメモリーバス幅に注目して欲しい。 |
A8-5600K |
↑SP数はA10-5800Kよりも少なくなっている。 |
さて、ここで気になるのが、RADEON HD7000シリーズといえば28nm世代なのに、Trinityは32nm世代。さらにAMDによるとGPUのアーキテクチャーは「Graphics Core Next(GCN)」ではなく「VLIW4」とのこと。つまり、GPUの設計としてはRADEON HD6000番台の設計をほぼ流用したものと考えてよさそうだ。
もうひとつ重要なのは、TrinityとLlanoのパッケージは非常に似ているが、両者に互換性は一切ないことだ。Trinityでは電源管理まわりの設計を強化するために、ピンアサインが大きく変更されているため、対応ソケットは従来のFM1と互換性のない“FM2”となる。ソケットAM2とAM2+のように、新CPUは旧ソケットに挿せるみたいな技は(現状では)一切使えないのだ。
FM2ソケット |
ASUSTeKのFM2対応マザー『F2A85-M PRO』 |
A10-5800Kの裏側 |
↑裏側のピン配置は一見同じだが、中央4スミのピン配置が微妙に違うことがわかる。さらにFM2のピン本数はFM1より1本少ない904本。ソケットFM1搭載マザーを使っているAMDユーザーでも、マザーごと買い替えるしかTrinityを使う術はないのだ。 |
A8-3870Kの裏側 |
第2世代AシリーズAPUのラインアップ |
↑Trinityのラインアップ。OCに適したK付きモデルは2種類のみ。また、今回未入手だが、下位モデルにはさらにSP数の少ないGPUが用意されていることがわかる。 |
早速ベンチで性能をチェック!
Llano世代との性能差はもちろんだが、安価なCore i5/i3との差も見てみたいはず。そこで今回は以下のパーツを準備した。ロークラスグラボとの性能差も見たいので、A10-5800Kに『RADEON HD7750』を追加した環境も用意している。また、AMDのGPUドライバーはCatalyst 12.8を使っている。
第2世代AMD Aシリーズ(Trinity)
・A10-5800K(4GHz/RADEON HD7660D)
・A8-5600K(3.9GHz/RADEON HD7560D)
第1世代AMD Aシリーズ(Llano)
・A8-3870K(3GHz/RADEON HD6650D)
第3世代Core iシリーズ(Ivy Bridge)
・Core i5-3770K(3.4GHz/Intek HD Graphics 4000)
・Core i3-3225(3.3GHz/Intek HD Graphics 4000)
●Trinity環境
マザーボード:ASUSTeK『F2A85-M PRO』(AMD A85)
メモリー:DDR3-1600 4GB×2
ストレージ:Intel SSD330 120GB
電源ユニット:玄人志向 KRPW-G630W/90+(630W、80PLUS GOLD)
OS:Windows7 Professional SP1(64ビット)
ドライバー:Catalyst 12.8
比較用グラボ:ASUSTeK『HD7750-1GD5』(Radeon HD 7750)
●Llano環境
マザーボード:GIGABYTE『A75M-UD2H』(AMD A75)
※その他はTrinity環境と共通。
●Core i環境
マザー:ASUSTeK『P8Z77-V PRO』(Intel Z77)
※その他はTrinity環境と共通。
Core iシリーズ内蔵GPUよりも確実に速い!
では、実ゲームでの性能をチェックしていこう。まずは軽めのDX9ベースの『ファンタシースターオンライン2』(以下、PSO2)から。公式ベンチマークの前半部分のフレームレート(fps)を『Fraps』で測定している。画質は「5」、解像度1920×1080ドットのフルスクリーン表示でテストした。
A10-5800K(HD7660D)とA8-5600K(HD7560D)差がほとんどない。Core i5/i3で内蔵GPU性能はLlanoに追いついたが、Trinityで再び引き離された感じだ。ただし、メモリー帯域が遅いせいか、RADEON HD7750より最高2倍以上遅くなっている。最低fpsが奮わないのも、メモリー帯域の影響が大と言えそうだ。
↑ちなみにスコアーはこんな感じ。画質を落とすか、解像度を下げるなどすれば、なんとか狩り回れそうな性能になっている。 |
次も軽めの『MHFベンチマーク【大討伐】』で比較。こちらは解像度を1920×1080ドットに設定しただけだ。
LlanoとCore i5/i3がほぼ同じで、そのやや上をTrinity、さらにダブルスコアーでRADEON HD7750という結果はPSO2と傾向は同じ。ちなみに、A10-5800Kの2156スコアーという結果は、平均すると24fps前後出る感じ。解像度を下げれば結構イケそうだ。
次のテストはグッと重くなってDX10世代の中量級ゲーム『The Elder Scrolls V:Skyrim』。解像度は1920×1080ドットだが、画質は下から2段目の“Middle”画質を使っている。Mod類は一切入れていない。『Fraps』でフィールド移動時のfpsを計測した。
Core i5/i3の内蔵GPUだと辛うじて動く感じのゲームだが、Trinityでは普通に動ける! さすがに滑らかとは言い難いが、なんとか遊べるだけの性能は確保できているようだ。また、Llanoとの差は確かにあるが、LlanoユーザーがマザーとCPUを買い替えてまでTrinityに移行するまでのメリットはないように見える。それならRADEON HD7750あたりの安価なグラフィックボードを追加した方が、各段に安上がりで良いゲーム環境になるだろう。
では、DX11世代の重量級『バトルフィールド3』だとどのぐらい動けるか……。ただし、フルHDにするとどのプロセッサーも遅すぎて性能差が見えなかったため、このテストはあえて解像度を1280×720ドットに落とし、画質“高”でテストした。ある程度の見栄えも確保でき、なおかつプレー可能な負荷に落ちることを期待しての設定だ。
RADEON HD7750以外どれも平均30fpsを突破できなかったが、それでも内蔵GPUとしてはTrinityの性能の高さは明らかだ。軽めのゲームを選び、画質や解像度を控えめにすれば、グラフィックボードなしでもそこそこ遊べるゲームPCになりそうだ。
最後は定番のグラフィック性能ベンチマークソフト『3DMark 11』のPerformanceモードのスコアーでシメておこう。
A10-5800KがRADEON HD7750とCore i5-3570Kのちょうど中間の成績で、それぞれほぼダブルスコアーずつの性能差になっている点に注目したい。
消費電力はピークでもLlano世代と同等
AシリーズAPUの魅力は、高性能な内蔵GPUに加え、消費電力も少ないという点にもある。そこで今回はワットチェッカーを使って、アイドル時および高負荷時(バトルフィールド3プレー時およびFurMark実行時)の消費電力を見てみたい。
アイドル時ならCore i3-3225の消費電力よりも下回ったのはさすがAシリーズ! といったところだが、第1世代のA8-3870Kともほぼ同等。グラフィック性能を上げても消費電力は大幅にカットしていることがわかる。
その他の機能は?
Trinityの内蔵GPUには新機能もいくつか盛り込まれた。ここでざっくりと紹介しておこう。
●Eyefinity
AMDのマルチディスプレー技術“Eyefinity”が強化された。フルHDで3画面のパノラマディスプレー環境がマザーのディスプレー出力だけで構成できる。ただし、コネクター数に制限を受けるため、対応できるマザーはある程度限られてくる。新機能としては、DisplayPort1.2のデイジーチェーンを使って4枚目の液晶ディスプレー(フルHD)にも表示できるようになっ た。
●Turbo Core 3.0
本来CPUコアを負荷に応じてオーバークロックする機能だが、3.0では発熱に余裕のある場合はGPUコアの動作クロックも上がるようになった。この上限値は上で掲載したGPUのコアクロックと同じ。すなわちA10-5800Kなら800MHz、A8-5600Kなら760MHzとなる。実際にゲームを始めると、すぐにGPUがその上限値に張り付いた。
AMDによると、この機能を無効化するにはGPUクロックを633MHzまで下げろというが、それって単なるダウンクロックではないのか? という……。
↑PSO2をプレー中に純正の監視ツール『AMD Overdrive』でGPUのクロックをチェックしたところ、常時OC上限に張り付いていた。図はA10-5800Kでのテスト風景。 |
●Dual Graphics
CPU内蔵GPUと特定のグラフィックボードを組み合せることで、マルチGPUのように描画性能を高める機能はTrinityでも健在だ。ただし、AMDによると、利用できるGPUはRADEON HD6450~6670までのローエンドに限定されている。今回のテスト環境(A10+RADEON HD7750)で試してみたが、ドライバー設定画面上にそれらしい項目は出現しなかった。しかし、この記事を執筆中に“MSI製A85マザーとHD7750ではDual Graphicsが動いた”という情報が入った。締切までに追試はできなかったのが残念だが、機会があれば追試してみたいところ。
さて、ここまでTrinityのゲーム性能を見てきたが、多くを望まなければ、ライトゲーマー用のGPUとして十分使えるものになっていると言えるだろう。ヘビーゲーマーであったとしても、例えば、MMOにおける生産や放置バザーのように、大してGPUパワーが必要としない局面で使うPCに組み込んで使う、という考え方もある。その場合も消費電力ならCore i3のほうが優れていたが、倉庫から出店場所へ移動する、みたいなシチュエーションを考えれば、ある程度性能も出て消費電力の低いTrinityのほうが実用性は高いことは確かだ。
一方、ゲームをしないユーザーにとっては、Trinityの内蔵GPU強化はあまり魅力がないが、アイドル時の消費電力が低くなったことで、省エネPC用としても多いに利用できそう。ただし、Bulldozerベースのコアを使っているため、現行のCore iシリーズよりも処理性能が今ひとつなのは想像に難しくない。このあたりの評価をどう価格でカバーしてくれるかが楽しみなところだ。なお、秋葉原では10月2日、19時1分から“AMDの新製品”を販売すると予告しているPCパーツショップがちらほらと出てきている。これは大いに期待して待とうじゃないか!
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