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実車で走ったママをGT5上で再現!クルマの新たな楽しみをトヨタ×デンソーが提案

2012年09月05日 15時30分更新

 9月4日の午後、晴れた日には雄大な富士山が背後に見える富士スピードウェイは、残念ながらどんよりとした曇り空。そんななか、トヨタ自動車とデンソーが共同開発した『CAN-Gateway ECU』を体験すべくピットへ向かった。今回はそのレポートをお届けする。
 

どんよりした天気
CAN-Gateway ECU
あいにくの空模様だが、何とか雨は降らずコースコンディションもドライ。

 『CAN-Gateway ECU』とは、走行データを採取してリアルタイムに送信できるシステム。小型FRスポーツ86を対象に、2013年春にレース関係者へモニター提供し、2013年末に発売を予定している。

CAN-Gateway ECU

トヨタマーケティングジャパン
エグゼクティブクリエイティブディレクター

喜馬克治氏
スポーツカーカルチャー構想のひとつで、クルマのデータを活用としてさまざまなアプリをみなさんに開発していただきたいと思っている。

CAN-Gateway ECU

スポーツ車両統括部
チーフエンジニア

多田哲哉氏
アップルの戦略はすばらしく収益性の高いモデル。86も同様に、iPhoneを86に置き換えて、アプリ(ソフトやチューンアップハード)とそれを販売するストアの三位一体の戦略をとっていきたい。
 

 システムは専用のGPSとCAN(Controller Area Network)で送られる車載コンピューターの情報をまとめる装置をクルマに設置。データは、USB経由もしくはブルートゥースによる通信によって受け取れる。だからたとえば、スマホなどブルートゥース接続できる機器とデータを表示するアプリを開発すれば、走行中に水温や油圧などクルマに関する情報をリアルタイムに表示させたり、走り方を解析したり、アプリ次第で様々な用途に利用できるだろう。アプリ開発者にはいずれAPIを公開するそうなので、難しいCANの仕様を意識することなく作成可能だという。

CAN-Gateway ECUのシステム構成
CAN-Gateway ECU
GPSアンテナとクルマからの情報をECUに集約し、USB経由でデータを送信する。

 今回は、USBメモリーを活用した例として、グランツーリスモ5(GT5)との連携を実際にデモした。サーキット走行後に車両から、GPS信号、アクセルペダルストローク、ステアリング回転角、ブレーキ操作信号、シフト操作信号、エンジン回転数、車速などの情報をUSBメモリーに吸い出す。それをGT5(特別仕様)が起動しているPS3に挿して読み込めば、サーキット走行のリプレイを見られるというものだ。

GT5上でリプレイ
CAN-Gateway ECU
まだ試作段階だが、吸い出したデータをもとにリプレイが可能。さらに、この走りをゴーストにしてゲーム上でプレーしたりネットを通じてデータ共有も可能だ。

 走行に使ったのは、かつての名車の型式を名付けたFRスポーツの86GT。86はスポーツカーの復権を目指すべく、スポーツカーカルチャー構想として、“峠カルチャー”、“フォトカルチャー”、“ネットカルチャー”、“サーキットカルチャー”などクルマに乗る、所有する、カスタマイズする、観るなど86を起点としてさまざまな視点から、よりクルマを楽しくなってもらえる“場”を提供していく予定だ。今回の『CAN-Gateway ECU』もその中のひとつで、デジタルインフラを生かして、いかにスポーツカーの楽しみを広げられるか試作したという。

CAN-Gateway ECU

 で、早速試乗してみた。あっ、ここは86の走りの感想ね。発売からすでに半年経ってますけど。

 実は私、GT5ではこのサーキットもかなり走り込んでいるが、実際のサーキット走行は初めてだったので、同乗していただくテストドライバーの方にまず運転してもらった。86には、すでにこの装置を装着するハーネスが用意されていて、車内はGPUのアンテナがダッシュボードにあるぐらいで、スッキリした状態だった。

 ピットをあとにして加速し、1コーナーへのアプローチでもうGT5では味わえない現実と向き合う。「えっ、こんな速度で曲がれるんだ」と思わず叫んでしまうほどのコーナリング速度。そしてGT5では全く感じられない強烈な横Gともに抜けていくさまは、ゲームなら同等の速度で通過していても、Gを感じるとなかなかできない、ある種の恐怖感がある。普段運転していても、こんな運転はまずしないから、なかなかわからないよね。しかも、このクルマは手を加えていないノーマル仕様というから驚き。これ、買ってライトチューンするぐらいでかなり楽しいクルマになるだろう。

 2リッター、200馬力の水平対向4気筒直噴DOHCエンジンは、吹き上がりもよくグイグイ加速していく。テストドライバーに1周してもらったあと私が2周したのだが、GT5で予習しておけばよかったと後悔。それでも、いつものGT5で走っていたライン取りをしていたが、ブレーキングが甘く止まりきれない。300Rからのダンロップコーナーはイン側の縁石にまったくつけられなかった。

 それでもスキール音を響かせつつがんばって走ったが、感想は一言「超楽しい~」、これにつきる。あと10周できればもっとタイム刻めるたのにと、負け惜しみを言いながらピットロードへ戻ってきたが、一般道では味わえない“運転する楽しみ”を体感して大満足だった。決してファミリーカーではないから、家族持ちにはちと無理はあるが、走り好きな人なら一度は体感してぜひ所有してもらいたい。

CAN-Gateway ECU
CAN-Gateway ECU
CAN-Gateway ECU

 そうそう、肝心のリプレイですね。86の運転が楽しすぎて、走行中はまったくそんなこと忘れてましたよ。

 ピット裏の控え室に用意された特別仕様のGT5で、データを読み込んだUSBメモリーを挿入。データを選択すると、サーキット上に走行したラインが表示された。私が走行した2周ぶんが表示されたが、意外とほとんど同じラインを走行していた。ここで、微調整もできる。GPSでどのラインを走行したか記録されているが、さすがに1m~2m程度の誤差が生じる場合があるという。それでもカーナビの精度より断然細かく(そうしないと、道路の幅のどの位置を走行したのか記録できないため)クルマの挙動(ドリフトなどによる車体の向き)も記録しているので、かなり再現性は高い。

控え室でGT5を使ったリプレイ再生
CAN-Gateway ECU
データを読み込んで、再生するポイントを選択。周回数が多い場合に便利だ。
データの補正
CAN-Gateway ECU
GPSによるデータは1m〜2mの誤差が生じる場合もある。走行ラインを見て全体的に微調整が可能だ。

 実際にリプレイを再生したが、走った記憶がよみがえるぐらい、かなり忠実に再現してくれる。後ろが滑ってカウンターを当てたときの挙動もリアル。これなら、たとえば走行会などでサーキットを走り、そのデータを家へ持ち帰ってGT5を使って再生。自分の走りの癖や改善点を見つけ、GT5で実際の走りをゴーストにして予行練習。次回の走行会へ、なんてこともできるだろう

自分の走りを再生中
CAN-Gateway ECU
走行中は、どのくらいの速度でターンしているのか見る暇がないが、リプレイで見れば一発。1コーナー50キロはちょっと遅いね。
ゲーム同様に視点変更も可能
CAN-Gateway ECU
ドライバーが見える視点は、あまり意味ないけど、通常では見られない視点で楽しめるのはいい。
リアルとバーチャルの将来的な構想
CAN-Gateway ECU
自分の走りを解析してサーキット走行の予習ができ、ほかの人とデータを比較して、チューニングを検討するといったこともできるようになる。

 デモとして公開された映像を見ていただければ、そのリアルさがわかると思う。

CAN-Gateway ECUによるGT5のデモ

 

 ただ、このモードが備わったGT5はまだ試作段階。機能的にもアクセルやブレーキの踏み込み量や速度、エンジン回転数が表示され、リプレイをいろいろな視点から楽しめる程度。一般に提供できる時期もGT5なのか次期GT6になるのか定かではないという。

 ここでひとつ疑問に思う人もいるだろう。取得できるデータは、クルマの走行状態(位置や向きなども含む)だけで、クルマの性能に関する情報は、86GTという情報のみ。サスペンションなどのパーツそれぞれの情報はもちろん、タイヤの状態や路面の状況によって挙動も変わってくるはず。ということは、リプレイでの再現は、特に物理演算していないの? ということ。これに対してポリフォニー・デジタルの人は、「実はオンライン対戦で対戦相手のクルマを表示させるときの技術を応用しているんです」と答えてくれた。つまりGPSによる位置情報と車体の向きをトレースしつつ、アクセルとブレーキ、シフトなどの情報を加味したうえで再現しているのだ。物理演算はまったく0ではなく、たとえばタイヤが空転するのは、元から持っているタイヤの情報とアクセルや車体の回転などの情報から判断でき、その場合はスキール音を鳴らしたり白煙を上げたりする。

 すべての車両情報を……となると、そこらじゅうにセンサーをつけなければならず、そこまで行くと莫大な費用を投資するF1クラスの話になってしまい現実的ではない。『CAN-Gateway ECU』の研究はすでに5年にもなるそうだ。一般の人が手軽に楽しめるレベルの製品づくりを目指し、今後はデータをどのように活用するかのアプリケーション部分をさまざまな開発者につくってもらい、スポーツカーの楽しみを広げていってほしい。また、現状は86だけだが、データは各車共通化されているので、ほかのトヨタ車はもちろん、他社のクルマにも装着して同様の楽しみ方ができる可能性もある。

山内氏も登場!
CAN-Gateway ECU
あとから山内氏も登場。レーシングスーツにヘルメット、カッコイイですねぇ。

 それにしても、86は楽しかった。オートマ走行でも十分サーキットで攻めれるレベルだし、走っていてここちよい。来年、86ワンメイクのレースも考えているそうで、そのさいこの装置を装着して、走行したデータを何かの形で活用したいそうだ。体験会でもレースでも86に触れる機会があれば、ぜひ見て聴いて触ってほしい。

TOYOTA 86 FACTORY TUNE 001
CAN-Gateway ECU
リアウィングが目を引くFACTORY TUNE 001。ニュルブルクリンクでチューンを煮詰めた仕様で、今後発売される予定。
CAN-Gateway ECU
CAN-Gateway ECU
CAN-Gateway ECU

■関連サイト
トヨタ
デンソー
ニュースリリース(トヨタ)
ニュースリリース(デンソー)
TOYOTA 86オフィシャルサイト
86フェイスブックサイト

※画面はすべて開発中のものです。  ©SCEI

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