シリーズ累計310万部を超す大ヒットとなった『ビブリア古書堂の事件手帖』。著者の三上延氏に、本書が生まれるきっかけとなった古書店勤務時代のエピソードから、創作にまつわるデジタルガジェットまでを聞いてみた!
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『ビブリア古書堂の事件手帖』
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂。その店主である篠川栞子(しおりこ)が、古書にまつわる数々の秘密を解き明かしていく。
ツイッターをはじめとした口コミで人気が爆発し、シリーズ累計で310万部を超える大ヒットとなった(7月調べ)。“古書探偵”ミステリーとしての評価も高い。さらに、文庫では初となる『2012年本屋大賞』にもノミネートされるなど、本好きからも熱い支持を受けている。
■各巻に登場する主な書籍
第1巻
夏目漱石『漱石全集 第八巻「それから」』
小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』
ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』
太宰治『晩年』
第2巻
坂口三千代『クラクラ日記』
アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』
福田定一『名言随筆 サラリーマン』
足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』
第3巻
『王様のみみはロバのみみ』
ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』
宮沢賢治『春と修羅』
作者紹介:三上延(みかみえん)
1971年神奈川県横浜市生まれ。
藤沢市の中古レコード店・古書店勤務を経て、2002年に小説家としてデビュー。代表作に、『ダーク・バイオレッツ』、『モーフィアスの教室』、『偽りのドラグーン』(すべて電撃文庫)シリーズなどがある。
■古書業界はネット販売で大きく変わった
――『ビブリア古書堂の事件手帖』(以下ビブリア)の舞台にもなっている古書店というのは、現在どんな状況になっているんでしょうか?
三上:古書業界に限った話だと、インターネット販売の登場ってかなり大きなことだと思うんですね。12~13年前から始まり、価格の標準化がかなり進んだ。それまでは店によってまったく価格が違うのが普通だったのが、相場が見えるようになり、ばらつきが少なくなった。
――北鎌倉という場所を選んだのは、地元ということ以外にあるんでしょうか? どんどん古書もネットに行くなかで、そうではないものを描くための場所づくりだったんでしょうか?
三上:ボク自身が神奈川の古書店に勤めていたというのもありますが、地方の古書店がどのように成立していくか考えたら、きっとこんなふうになるんじゃないかなと。物語はフィクションですが、あまりウソっぽくはしたくなかったんです。
――現実の古書店の話として成立させたかった? 確かに、古書店はいつもすいているイメージがありますね。
三上:実は、古書店は店に来てくれたお客さんに売るだけでなくて、本の目録販売や、ビブリアでも描いた本の市場に売るといった、いくつかの販売ルートがあるんです。今は、そこにネット販売が加わったという感じですね。
――作家として、そういった現在の状況もふまえているんですね。ビブリアでも背どり屋がネットで販売していたり。ただ、古書店を舞台とした物語としては話をつくりにくい状況になっているんじゃないですか?
三上:それによって新しい話がつくれるという場合もありますが、やはり店を起点にしているので、ネット販売メインだと苦しい部分もありますね。
――ちなみに、物語を考えられるとき、本をテーマにされているんですか? それともエピソードから?
三上:両方ありますね。本からエピソードを考える場合もありますし、もともとこういう話がやりたいというのがあって、そこに本をあてはめる場合もある。だいたい半々ぐらいです。
――なるほど。今も古書店へは、最近もよく行くんですか?
三上:“取材”と称してよく行きます。で、行くと「あ、こんな本がある!」と、つい買っちゃう(笑)
↑古書店勤務時代には、絶版ビデオや映画パンフレット、絶版文庫、古書マンガなどの担当をしていたという作者の三上延氏。ひとつひとつの質問に、ていねいに答えてくれた。 |
■書店のおすすめポップを見るのが楽しい
――本を購入される際、新刊書店とネット通販の割合ってどのぐらいですか?
三上:仕事で忙しくなってくると家から出られないので、アマゾンの比率が上がっていきます(笑)。ふだんは実際の新刊書店や古書店に行って、手に取って買うことが多いです。比率でいうと……6割は書店ですね。
――ネット通販で物足りないものってなんでしょうか。
三上:ネットでは装丁や細かい情報が確認できない。書店に行くとポップがあって、それを読んで「買ってみようか」と思うことも多いです。ネットだといろんな人の意見が見られるのもいいけれど、ポップは本を扱うプロである書店店員さんのおすすめを見る喜びがある。書店の棚の並びひとつとって見ても、センスがかなり出ると思うし。
――実際の書店じゃないと味わえないものですね。『本屋大賞』もそういった本の目利きが選ぶ賞ですが、ノミネートされていかがだったですか。
三上:すごくうれしかったです。普通の新刊書店ではなく古書店の話なので、こんなに書店の方々にご支持いただけるとは思っていなかったです。
――賞って気になりますか?
三上:賞をいただけるのは、評価してもらえたということでうれしいです。が、あまり賞をとるぞ! と意識してはいません。というのも、ボクは電撃大賞で落ちて、その後声をかけていただきデビューしたといういきさつがあるので、賞はなくてもできるんじゃないかな、と。根拠はないですが(笑)。
――ネットでのレビューなどはよくご覧になりますか?
三上:気にしてしまうほうなので、ふだんからあまり見ないようにしています。
――ネット自体はどんなふうに利用を?
三上:情報収集などのためにニュースサイトはよく見ています。あと、連絡用にツイッターは始めなきゃとアカウントだけ取ったんですが、まだ何もしてないですね(笑)。
■執筆は縦書きでキーボードにはこだわる
――執筆はどこでされるんですか? ご自宅で?
三上:午前中はファミレスです。自宅だといろいろと遊び道具があるので、周囲に何もない状態にしないと(笑)。Ultrabookとマウスとモバイルルーターを持っていきます。
↑東芝のUltrabook『dynabook』を愛用。マウスにもこだわりがあり、常に持ち歩いているそう。 |
――PCなとの機材の選び方にこだわりはあるんですか?
三上:恥ずかしい話なんですが……ボクかな打ちなんです(笑)。もともとワープロをやっていて、その時かな打ちだったもので。なので、キーボードの好みがあって、かな打ちで使いやすくないといけない。あとは持ち歩くから、軽さも大事です。
――荷物は多いほうですか?
三上:多いですね。ふだんから本を数冊は持ち歩いて、出先でさらに買い込むので。
――そうなると、重さって重要ですね。
三上:そうなんです。本を買うときも「この本は重いからやめとこう」って(笑)。
――値段ではなく重さで決めるんですね(笑)。
三上:だから、PCも軽量のUltrabookが出たんで買いました。ふだんは縦書きもできる『秀丸』で書いてます。小説は主に縦書きで出版されるので縦で書くほうがいいし、あとPCがワイド画面なので縦書きで横スクロールのほうが効率がいい(笑)。
――デジタルでいうと、電子書籍についてはいかがですか。
三上:作家としては絶版がなくなるのはありがたいですね。
――実際に何か、電子書籍コンテンツを読んだりして利用していますか?
三上:iPhoneに青空文庫を入れてるぐらいですね。読みやすいし、重さがないぶん楽です。でも、もちろん紙の本の良さもある。物としての満足感で本を買う人は、僕を含めて多いと思うんです。
電子書籍についてはいずれ大きな転換期が来るんじゃないかな。考えていかなきゃいけないと思っていますが、これからの課題のひとつですね。
■8月末より第1巻に限定特大オビが付く!
8月末より、一部書店で『ビブリア古書堂の事件手帖』第1巻が限定の特大オビバージョンで登場。イラストはシリーズの挿画を担当している越島はぐ、ビブリア古書堂をイメージしたというシックなイラストに変更されている。数量限定とのことなのでお見逃しなく!
■関連サイト
『ビブリア古書堂の事件手帖』公式サイト
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620円
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557円
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578円
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